謄写版とは?なぜ“学校印刷”はガリ版だったのか|違い・仕組み・歴史・今を印刷会社が完全ガイド

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🟨第1章|「謄写版」と「ガリ版」、この2つは同じ?違う?誤解を解くための第一歩


正式名称は「謄写版」、ガリ版は俗称だった

謄写版(とうしゃばん)は、1887年にアメリカのA.B. Dick社が製品化した孔版印刷技術「ミメオグラフ」をルーツに持ちます。日本では1894年、堀井新治郎と息子の耕造によって東京・神田に「謄写堂」が創業され、日本語対応版の謄写版が販売されました。さらに同年3月には蝋原紙に関する特許を取得し、日清戦争では陸軍に正式採用。軍の通信兵には「謄写版兵」という役職も存在した記録が残されています。

このように「謄写版」はあくまで正式な印刷技術の名称であり、特許文献・軍事資料・教育印刷の現場など、制度的・技術的な記録には一貫してこの語が用いられています。


「ガリガリ削る音」から生まれた言葉の力

ところが、現場では多くの人がこの印刷法を「ガリ版」と呼びました。その理由は極めて感覚的で明確です。ヤスリ盤の上に蝋原紙を乗せ、鉄筆で文字や図案を削ると、「ガリガリ…」という独特な音が生まれる。この擬音がそのまま名称になったのです。

つまり「ガリ版」は、作業音をそのまま呼び名にした文化的表現。実際、ガリ版を体験した人々にとってこの音は印刷工程の象徴であり、「ガリ版」という名には懐かしさと共感が宿っています。音が名前になり、それが文化となる——日本らしい言葉の力がここにあります。


文献・制度上はすべて「謄写版」、でも「ガリ版」は文化そのものだった

公式文書、技術解説書、特許資料など、すべての制度的文脈では「謄写版」が使われています。それはこの技術が発明品であり、特許取得対象であり、制度上の印刷方法として扱われていたからです。

しかし、学校・PTA・地域活動など“人が手を動かす現場”では、圧倒的に「ガリ版」が使われていました。その証拠に、1998年には堀井家ゆかりの地である滋賀県東近江市に「ガリ版伝承館」が開館。堀井家の旧宅が記念館となり、今もその文化的記憶を伝え続けています。

このように、「謄写版」と「ガリ版」は、制度と文化、文献と言葉、発明と記憶という二つの層で共存していたのです。


✅ 本章まとめ

  • 「謄写版」は発明者が定義した正式名称であり、制度上の名称として用いられ続けた。

  • 「ガリ版」は現場から生まれた俗称で、音や作業の体験から自然発生的に広まった文化語。

  • 日本ではこの二つの名前が**同じ技術を異なる視点から支える“二重構造”**として定着し、印刷文化の一角を築いた。


🟦第2章|謄写版印刷の“仕組み”は超シンプルだった|機械よりも身体で覚える工程


2‑1|版下に「穴をあける」、ただそれだけの物理原理

謄写版(ミメオグラフ)は極めて単純な印刷技術です。最初に蝋を塗った薄い原紙に鉄筆で文字や絵を削ることで、蝋膜が剥がれて薄紙に0.1 mm以下の微細な孔が生まれます。その孔にインクを通し紙に転写する、いわば“手動の孔版印刷”であり、電気や熱源不要で100~200枚の連続印刷が可能でした。


2‑2|蝋原紙・鉄筆・ローラー、それぞれの役割を“言葉”で伝える

**蝋原紙(Stencil paper)**は、和紙に蝋やパラフィンを塗ったもので、これを削ることで孔が姿を現します。A.B. Dick社の“Model 0”から1913年のロータリーモデルまで、素材は孔版印刷の根幹を担ってきました。
**鉄筆(stylus)**は、版下を手作業で彫る道具。削り方や圧力で線の太さや深さが変わり、製作者の技量が出る“手仕事感”の本体です。
**ローラー(ink roller)**は、孔にインクをくまなくプレスする役割で、均一な転写を担います。インクの粘度や圧力は仕上がりに直結し、扱いに習熟が求められました。


2‑3|体験者の記憶で読む、教室の片隅にあった謄写版風景の描写

学校の教室や職員室では、鉄製台の上に謄写版機が置かれ、先生が「ガリガリ」と蝋原紙に向かう光景が当たり前でした。鉄筆が蝋を越えて微細な孔を生むたびに、静かな空間に響くリズムが流れる。インク特有の油臭と蝋の温かい匂いが鼻に残り、刷り上がった紙は完璧でないにじみやかすれを帯びていました。これらすべてが、印刷という“作業”を“体験”に変える記憶として、今も多くの人の中に生きています。


✅ 2章まとめ

  • 蝋原紙の孔を手であけるシンプルな物理原理。

  • 3つの道具(蝋原紙・鉄筆・ローラー)が各々に意味を持つ。

  • 教室に響く音、匂い、仕上がりの味わい——五感で記憶されている“身体で覚える印刷”。


🟨第3章|なぜ“学校”に謄写版が普及したのか?印刷史では語られないもう一つの真実


3‑1|教育現場に“謄写版”が必要とされた理由とは?

戦後の日本では、教育の再建が国の最重要課題のひとつでした。1947年に施行された「学校教育法」では、学校教育の民主化現場主義が強く打ち出され、教員自身が学習指導要領に基づいて教材を工夫することが奨励されました。

この流れの中で注目されたのが、誰でも校内で扱える簡易印刷機=謄写版です。
複雑な機械操作や専門知識が不要で、教師が自分で版を作り、教材や学級通信をその場で印刷できるため、特に予算の限られた小中学校で活用が進みました。


3‑2|“スピード”と“自前での制作”が求められた背景

昭和30〜40年代、公立学校では新設学級や生徒数の急増が相次ぎ、教育現場に即応性が求められていた時代でした。印刷所に外注するには費用と納期がかかりすぎ、校内ですぐに対応できる謄写版が重宝されました。

たとえば、行事案内・保護者への通知・テスト配布・掲示物など、小ロットかつ短納期が求められる印刷物が多く、謄写版はまさに現場の「右腕」だったのです。

この実用性が評価され、文部省主導の教材整備事業でも、謄写版は備品として多数導入されていきました。


3‑3|「外注しない情報発信」がもたらした教育の自主性

謄写版がもたらしたもうひとつの変化は、**情報発信の“内製化”**です。
校内で刷れることにより、教師の意思でタイムリーに配布物が作れるようになり、教育の自由度・創造性が格段に高まったといわれています。

印刷に制約があった時代において、「先生自身が情報を編集・制作・出力する」という行為は、教材だけでなく、学校通信や学年だよりの文化も根付かせていきました。

今日の教育ICTが進む前段階として、謄写版は“先生が発信者になる”というマインドを支えた象徴的な存在でもあったのです。


✅ この章のまとめ

  • 戦後教育の現場主義と民主化の中で、謄写版は「現場で即使える印刷手段」として普及した

  • 教師が自ら教材や配布物を作る時代にフィットし、学校現場での導入が全国規模で進んだ

  • 謄写版によって、印刷の内製化=情報発信の主導権が学校側に移ったことが、教育文化にも影響した

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🟨第4章|謄写版はなぜ消えた?いつまで使われた?そして今どうなっている?

4‑1|1980年代に姿を消した理由と“写植”“コピー機”の台頭

謄写版は、1970年代までは学校や地域団体で広く使われていましたが、1980年代前半を境に急速に姿を消しました

その大きな要因となったのが、写植(写真植字)機普通紙対応コピー機の普及です。

  • 写植により、整った文字を簡単に組んだ印刷物が作れるようになった

  • ゼロックスやリコーなどが開発した普通紙対応コピー機が、学校やオフィスに導入され始めた

これらにより、謄写版が抱えていた「時間がかかる」「汚れる」「準備が面倒」といった弱点が明確になり、次第に使われなくなっていったのです。


4‑2|現在も一部で流通、教育素材・展示・芸術用途へ転生中

消えたように思われがちな謄写版ですが、令和の今もなお一部で使われ続けています

  • **岐阜市の「ダイトー謄写技術資料館」や山形の「ガリ版資料館」**では、展示や体験学習の場として活用されています。

  • 地域の学校や博物館では、「昔の印刷体験」として子どもたちや来館者に人気。

  • 現代美術やZINE文化の分野では、謄写版の“かすれ”“にじみ”といった独特の表現が再評価され、制作手段として取り入れられています。

  • 一部では、鉄筆や蝋原紙を使った自作体験キットも販売され、自宅で“ガリ版”を楽しむ試みも見られます。


4‑3|“失われた技術”ではない、“使う人が選ぶ技術”へ

謄写版は「時代遅れの技術」として消えたわけではなく、新しい選択肢が増えた中で“静かに脇へ置かれた”存在といえます。

その証拠に、現代でも以下の理由から“あえて謄写版を選ぶ人”が存在しています:

  • 手仕事の温もりや質感がある

  • 大量印刷に不向きな分、個人の表現に適している

  • 印刷そのものを**「体験」や「儀式」**として楽しめる

これは、レコードやフィルムカメラが見直される現象と同様。デジタル全盛の時代だからこそ、謄写版のようなアナログ印刷が**「人の手の痕跡」を感じさせる技術**として、静かに支持を集めています。


✅ この章のまとめ

  • 謄写版は1980年代、写植とコピー機の普及により学校現場などから姿を消した

  • しかし現在も教育体験や芸術分野で用いられ、完全に消えたわけではない

  • 「人の手」が伝わる印刷技術として、あえて使われる場面もある


🟨第5章|印刷会社が見る“謄写版文化”の本質|アナログだからこその美しさとは?


5‑1|「一発勝負」だからこそ生まれた緊張感と品質

謄写版印刷は、原紙(蝋原紙)に一度線を描くと修正不可な仕様でした。そのためミスは即、最初からやり直しを意味します。

この性質は、以下の文化を育みました:

  • 書き手の集中力と丁寧さ

  • 校正作業の重要性

  • たとえ少部数でも手を抜かない職人意識

大量印刷が当たり前の現代とは違い、「一枚ずつ大切に刷る」姿勢が謄写版文化には根付いていました。


5‑2|ズレ・かすれ・にじみ:機械には再現できない“人の手の証”

謄写版の紙面には、以下のような小さな“揺らぎ”があります:

  • インクの濃淡、かすれ

  • 微妙なズレやにじみ

これらは単なる「ミス」ではなく、「人が手で刷った証」として大切にされました:

  • 手書き原稿の温かみ

  • 一枚ごとの個性

  • 機械では再現できない“アナログの余裕”

現代では、この“完璧でない美しさ”を意図的に取り入れた広告やZINE、フォントデザインも増えています。


5‑3|デジタル世代だからこそ響く“温度のある文字”

PCやスマホでの完全デジタル化が進む中、手で作る温かさが再び注目されています。

「どこか温かみのある表現がしたい」
「昔の印刷物の味を出したい」
「誰が刷ったかがわかるものがいい」

謄写版は単なるレトロ技術ではなく、**「人が人に伝える温度を携えた技術」**として、今も広く支持されています。


✅ この章のまとめ

  • 謄写版は「やり直し不可の一発勝負」で、その緊張感が品質と文化を生んだ

  • ズレ・かすれ・にじみは、人の手の痕跡として価値を持った

  • デジタル全盛だからこそ、温度のあるアナログ表現が再び求められている


🟨まとめ|謄写版は“人の手で生まれ、人の心に残る印刷”だった


まとめ1|一枚一枚に心を込める、そんな時代があった

謄写版とは、印刷の原点にある「人が人に伝えるための手段」でした。

原稿は一発勝負、インクは手で刷る。時間と労力がかかる工程にもかかわらず、「誰かに伝えたい」という想いが、一文字ずつに宿っていた時代が確かに存在しました。

それは、ただの技術ではなく、「文化」そのものであり、「人の温度」を紙に刻む手段だったのです。


まとめ2|技術革新とともに消えたが、決して“古く”ない価値

1980年代以降、謄写版は写植やコピー機、そしてパソコンといった新技術の台頭により、急速に姿を消しました。
しかしそれは「役割を終えた」からではなく、「役割が変わった」だけだとも言えます。

現代のZINEやアート、教育現場では、“あえて”謄写版のような味を求める動きが再び注目されています。
“非効率”で“完璧じゃない”からこそ、そこに価値を感じる人が増えているのです。


まとめ3|これからの印刷が謄写版から学べることとは?

効率化や自動化が進む時代だからこそ、謄写版から学べることは多くあります。

  • 1枚に込める誠実さ

  • 情報の「温度」と「個性」

  • 完成度よりも「伝える気持ち」

私たち印刷会社も、ただきれいに刷るだけでなく、**「伝えたい思いに寄り添う印刷」**を目指すべきだと、謄写版の歴史が教えてくれます。

印刷は、人の手で生まれ、人の心に届く——その原点を、いま改めて見つめ直す価値があるのです。


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