なぜ印刷インクは液状で紙に定着するのか?──オフセット油性インクの仕組みと化学反応【油絵具・ボールペン比較も解説】

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第0章|導入──粉の顔料はそのままでは定着できない


インクはなぜ液状なのか?

私たちが日常で使う印刷物──本、チラシ、雑誌、パッケージ──は、当たり前のように「紙に色がついている」状態です。
でもよく考えると不思議じゃないですか? インクは液体で紙に塗られ、やがて乾いて手につかなくなります。なぜ液状でなければならないのか?そしてどうやって紙の上で定着しているのか?


粉のままでは「色」は定着しない

印刷インクの色の正体は顔料という粉です。この粉は水にも油にも溶けず、そのまま紙にまいても定着しません。こすれば落ちてしまうだけ。
だから印刷では、顔料を油や樹脂の液体の中に分散させ、印刷機で紙に運び、広げ、そして固体の膜の中に閉じ込めるという仕組みを使います。


インクの乾燥は「蒸発」ではない

洗濯物が乾くのは水が蒸発するから。でも印刷インクの場合は違います。
油性オフセットインクは「油そのものが酸素と結合して化学反応し、固体に変わる」ことで定着します。つまり、インクが乾くのは単なる水分の蒸発ではなく、液体から固体への化学変化なのです。


印刷物は“化学反応の結晶”

印刷というのは、紙にインクを塗るだけではなく、その後の化学反応まで計算されたプロセスです。
粉の顔料は液体に託され、酸化重合(油が酸素と結合して固まる反応)によって、紙の表面に耐久性のある薄い膜として定着します。

この仕組みを知ると、「なぜインクは液状なのか」「なぜ触っても落ちないのか」という素朴な疑問が科学で解けていくのが面白くなりますよね。


印刷物は、インクの化学反応によって完成している。
この事実を踏まえて、次章からはインクの成分(顔料・樹脂・油)や乾燥メカニズムを詳しく掘り下げます。


第1章|インクの基本成分──顔料・樹脂・油・添加剤


インクは“色の粉+液体の科学”でできている

オフセット印刷の油性インクは、見た目はドロッとした一種類の液体ですが、その中には色を出すための粉(顔料)それを抱え込む樹脂印刷機で転写しやすくする油(ビヒクル)、そして乾燥や仕上がりを調整する添加剤が緻密なバランスで配合されています。
一見シンプルなインクも、実はこの4つの要素の組み合わせによる“化学の集合体”です。


顔料:色をつくる「変化しない粉」

  • 顔料は、印刷インクの色の本体です。赤、青、黒などの色を生むのはこの粉で、化学的に安定していて水や油には溶けません。

  • 単体で紙に振りかけても、こすればすぐ落ちてしまうため、液体に分散させて紙に定着させる必要があります。

  • 耐光性・耐久性の高さは顔料の粒径や材質によって決まります。


樹脂:顔料を抱える「骨格」

  • 樹脂は、顔料の粉を包み込み、紙にしっかりくっつけるための接着剤のような役割を担います。

  • 印刷時は油に溶けて柔らかい状態ですが、乾燥後は油と一体化して強い膜を作ります。

  • アルキド樹脂のように、乾性油を取り込んだタイプは酸化重合にも関与し、インク膜の硬さや光沢感を調整します。


油(ビヒクル):液体として運び、酸化重合で固まる主役

  • 油性オフセットインクの「ビヒクル(液状成分)」は、顔料や樹脂をローラーでスムーズに転写するために欠かせない存在です。

  • 印刷後は空気中の酸素と結合し、分子同士がつながる「酸化重合」という化学反応で液体から固体の膜へと変化します。

  • この反応こそが、印刷物のインクがこすっても落ちない秘密です。


添加剤:乾燥・光沢・流動性を調整する黒子

  • コバルトやマンガンなどの金属塩をベースにした乾燥促進剤(ドライヤー)が、酸化重合の反応を加速します。

  • 他にも、インキの光沢を上げたり、摩擦に強くしたりするための微量成分が配合されています。

  • これらの添加剤はほんの数%でもインクの性質を大きく左右する重要な要素です。


成分のバランスが「印刷品質」を決める

インクはこの顔料・樹脂・油・添加剤の配合バランスで性能が決まります。
乾燥スピード、色の鮮やかさ、ツヤや耐久性…これらは単なる「色の液体」のレベルではなく、精密に設計された化学製品だからこそ実現できるもの。

次章では、このインクが印刷機で紙に乗った瞬間、どんな状態になるのかを見ていきます。


第2章|印刷直後はまだ液体──ベタつく状態


印刷したばかりの紙の上は“濡れた膜”

オフセット印刷機で紙が流れてくる瞬間、表面にはまだ液状のインク膜がのっています。
インクは版からゴム胴(ブランケット)を経て紙に転写されますが、この時点では油と樹脂に顔料が混ざったドロッとした液膜が紙の上に広がっただけの状態です。

触れば当然、指にインクがつきます。刷りたてのチラシやポスターを触ると手に色が付くことがありますが、それはインクがまだ液体だから。


印刷直後に乾かないのは“あえて”

「乾きが遅いのは不便」と思うかもしれませんが、実は印刷工程では“乾かない”ことが重要です。
印刷機の中ではインクがローラーや版の上を何度も往復して伸ばされ、薄い膜状にされていきます。
もしここでインクが早く乾いてしまえば、ローラーや版に皮膜ができてしまい、印刷不能になるのです。

つまり、インクは紙の上に移るまで乾かず、転写された後にだけ乾燥反応が進むように設計されています。


印刷直後の紙は「ベタつき」と「光沢」が強い

刷りたての印刷物は、表面に油分がたっぷり残っているため光沢が強く、指で触るとヌルッとした感触があります。
しかし、ここから時間が経つにつれて紙への浸透や化学反応が進み、「手につかない印刷物」へと変化していきます。


この“濡れた状態”から、どのようにインクが紙に固定されるのか。
次章では、紙への浸透という最初の変化を見ていきます。


第3章|ステップ1:紙への浸透で“見かけの乾燥”


紙は「多孔質のスポンジ」

印刷用紙をルーペで拡大すると、繊維が絡み合った多孔質の構造をしているのがわかります。
紙の表面には目に見えない細かい穴や隙間が無数にあり、これがインクの油分や樹脂を吸い込む“毛細管”として働きます。
まるでティッシュにインクがじわっと染み込むように、紙の内部に油分が吸い取られるのです。


表面のインク膜が薄くなる

インクが紙に浸透すると、表面に残るインク膜は薄くなり、指で触れても手につきにくくなります。
これが「見かけ上乾いた」ように見える理由です。
実際には油や樹脂がまだ柔らかい状態ですが、読者が本をめくったり新聞を読んだりできるのはこの浸透効果のおかげです。


新聞印刷の「即読性」も浸透で実現

新聞のインクは、ほとんどが浸透による速乾を利用しています。
新聞用紙は表面がコーティングされておらず吸収性が高いため、インクが瞬時に紙の内部へ染み込み、すぐ読める状態になります。
ただしこの方法ではインクの表面光沢や発色は犠牲になり、チラシや写真印刷のような鮮明さは出ません。


浸透は「乾燥の第一段階」

ここで注意したいのは、浸透はあくまで「見た目の乾燥」にすぎないということ。
表面のベタつきが減っても、油や樹脂はまだ化学的に固まっていません。
印刷物を本当の意味で“こすっても落ちない状態”にするには、油が酸化して固体化する次のステップが必要です。


次章では、印刷物を“本当に乾かす”ための仕組み、
油の酸化重合について詳しく解説します。


第4章|ステップ2:油の酸化重合で“本当の乾燥”


液体の油が「酸素を食べて」固体になる

オフセット印刷の油性インクに使われる乾性油(亜麻仁油など)は、分子内に二重結合を多く持っています。
この二重結合は空気中の酸素と結びつきやすく、反応が始まると油分子同士が酸素を介してつながり合う=架橋反応が起こります。
このプロセスを酸化重合(さんかじゅうごう)と呼びます。
結果として、液体だった油はプラスチックのような固体の膜
に変化し、印刷物の表面を保護する層となるのです。


インク膜が“こすっても落ちない”理由

酸化重合でできた網目状の高分子構造は、顔料の粒子や樹脂を強固に閉じ込めます。
この状態になると、印刷物を指でなぞっても色が手に付かなくなり、耐摩耗性も一気に向上します。
つまり、印刷物が「完成品」と呼べるのは酸化重合が終わった時点なのです。


水分が蒸発するわけではない

油性インクの乾燥は水や溶剤の蒸発ではなく、酸素を取り込むことで重量が増える反応です。
「乾燥」という言葉は使いますが、実際は「液体が化学反応で固体になる変化」と理解したほうが正確です。
印刷物のインクが軽くなるどころか、むしろ少しだけ重くなるのはこのためです。


完全乾燥には時間がかかる

酸化重合は表面から始まり、少しずつインク層の内部へと進みます。
表面が「手につかない」状態になるまで数時間、完全硬化には1日から数日かかるのが一般的です。
高品質なカタログや写真集では、この反応を待ってから製本や断裁に入るため、納期管理でも重要な工程となっています。


まとめ:酸化重合は「印刷インク乾燥の心臓部」

  • 乾性油の二重結合が酸素を取り込み、分子同士をつなげて固体化

  • 顔料と樹脂を膜の中に閉じ込めて高い耐久性を実現

  • 表面乾燥まで数時間、内部までの完全硬化には数日必要


次章では、この酸化重合をサポートし、印刷現場での生産性を支える**乾燥促進剤(ドライヤー)**の仕組みを解説します。


第5章|樹脂はどう働くのか?酸化せず“骨格”を作る


樹脂は「顔料を抱える接着剤」

インクに含まれる樹脂は、顔料の粉をしっかり包み込み、紙の表面に密着させる役割を担っています。
印刷中は油に溶けた柔らかい状態で、顔料を分散しやすくし、インクの伸びや流動性を調整します。
このおかげで、版やローラーを通ってもインクが均一に広がり、細かい文字や写真まで美しく再現できるのです。


樹脂自体は酸化重合しない

樹脂はすでに合成済みの高分子であり、油のように酸素と結合して固まるわけではありません。
ただし油が酸化重合で固体の膜を形成すると、その中に取り込まれ、一体化してインク膜の骨格を作ります。
このため、印刷物は強固で摩擦に強い表面を持つようになります。


特殊なアルキド樹脂は例外

一般的な樹脂は酸化反応しませんが、アルキド樹脂は乾性油を取り込んで作られているため、一部は油の酸化重合にも関与します。
これによりインク膜の硬度や光沢、柔軟性を調整しやすく、オフセット印刷インクの性能を底上げしています。


樹脂は「見えないけれど重要な脇役」

  • 顔料を包み込み、均一な色再現を助ける

  • 印刷中のインク粘度や転写性をコントロール

  • 乾燥後は油膜と一体化して骨格を作り、インク膜の耐久性を高める

目立つのは油の酸化反応や顔料の色ですが、樹脂がなければインクは均一に広がらず、印刷の精度は保てません。まさに縁の下の力持ちです。


次章では、色の正体である顔料に注目し、その性質と「変化しない強さ」について詳しく解説します。


第6章|顔料は「変化しない粉」として残る


顔料は「色の正体」

印刷インクの色をつくるのは顔料(Pigment)です。
赤・青・黒・黄色などの色は、この顔料粒子が光を吸収・反射することで見えています。
しかし顔料自体は水にも油にも溶けない粉末
で、単体で紙にまいただけでは、簡単にこすれて落ちてしまいます。
そのため、油や樹脂と組み合わせて、紙の表面にしっかり固定する必要があるのです。


顔料は基本「化学的に安定」

顔料は化学的に非常に安定しており、油や樹脂のように酸素と反応して固まることはありません。
むしろ「変化しない」ことが強みで、色の持続性や耐久性を左右する重要な要素です。
たとえばカーボンブラックは100年以上前から使われていますが、今も黒インクの標準顔料として愛用されるのは、その安定性が圧倒的だからです。


顔料の粒子サイズが発色を決める

顔料の粒の大きさは数十〜数百ナノメートル。
この粒径によって、色の鮮やかさや隠ぺい力(下地を隠す力)が決まります。
写真印刷のような高精細な仕上がりを実現できるのも、顔料粒子のサイズ管理と分散技術のおかげです。


現代の印刷は顔料で支えられている

かつては染料インクも使われましたが、紫外線や摩擦で色あせやすく、長期保存には不向きでした。
顔料は粒子として存在し続けるため、色が安定し、耐光性も高いという利点があります。
ポスター、雑誌、書籍、パッケージなど、ほぼすべての商業印刷で顔料インクが標準になったのはこのためです。


次章では、酸化重合をさらに支える**乾燥促進剤(ドライヤー)**の仕組みを解説し、印刷物が効率的に仕上がる裏側を覗いてみましょう。


第7章|乾燥促進剤(ドライヤー)の役割


紙の上でだけ乾くように設計された秘密兵器

オフセット印刷用インクには、乾燥促進剤(ドライヤー)と呼ばれる金属塩が微量配合されています。
これはインクが缶の中やローラーの上では乾かず、紙の上に転写された瞬間から急速に酸化重合を始める
ための仕組みです。
この「タイミングのコントロール」こそ、印刷インクの最大の特徴であり、工業印刷を可能にした技術です。


触媒として酸化反応を加速

乾燥促進剤はコバルトやマンガン、ジルコニウムなどの金属塩が中心で、酸素との反応をスムーズに進める「触媒」として働きます。
インクが紙に付着した瞬間に、酸素を取り込みやすい状態をつくり、油の酸化重合を数倍速く進めます。
これにより、印刷後の裏移りや作業遅れを防ぎ、納品スピードを上げることができます。


缶やローラーでは乾かない理由

もし乾燥促進剤が常に働いてしまえば、インクは缶の中で固まり、ローラーの上で皮膜になってしまいます。
そのため、インクは酸素が十分に触れる「紙の上」に出たときだけ反応が活性化するように設計されています。
これにより、印刷機上では無限に転写でき、紙に乗せた瞬間から乾燥が始まるという理想的な挙動を実現しています。


乾燥促進剤は“裏方の要”

  • 酸化重合のスピードを上げることで、生産効率が劇的に向上

  • 紙やインキの種類に応じて配合を変え、最適な乾燥速度を実現

  • オフセット印刷の「安定品質」と「大量生産」を陰で支える縁の下の力持ち


次章では、なぜ「早く乾きすぎても困る」のかという、印刷インク設計の難しさについて詳しく解説します。


第8章|なぜ“早すぎても”ダメなのか?


印刷インクは「遅すぎず早すぎず」が命

印刷インクの乾燥は「できるだけ早いほうがいい」と思われがちですが、実は速乾すぎると印刷現場では大問題です。
印刷インクは機上(ローラーや版の上)では乾かず、紙に転写された瞬間から乾くという性質をもっています。
このバランスが崩れると、大量生産の印刷工程が成立しなくなります。


早すぎる乾燥で起きるトラブル

  • ローラーや版で皮膜化:インクが印刷機内で固まり、ローラーや版が汚れ、刷り出し不能に。

  • 色の伸びや光沢の低下:乾燥が早すぎると、インク膜が十分に広がらず、発色や表面のツヤが不安定になる。

  • インク詰まり:細かい網点や写真印刷でインクが詰まり、画質が落ちる。


遅すぎる乾燥もリスク

逆に乾燥が遅すぎると、

  • セットオフ(裏移り):印刷物を積み重ねた際、裏面にインクが付く。

  • ブロッキング:印刷物同士がくっつき、製品価値を下げる原因に。

  • 納期遅延:完全乾燥までの時間が長引き、次工程(断裁・製本)が遅れる。


インク設計の理想

印刷インクは「機上では無限に流動し、紙にのった瞬間から乾く」という、一見矛盾した性能を求められています。
この難題を解決しているのが、乾燥促進剤の配合バランスや油・樹脂の選択技術
現代のオフセット印刷は、インクメーカーの高度な化学設計の上で成り立っているのです。


速乾=正義ではない

最近では環境対応や高速印刷のニーズから「速乾インク」が話題になりますが、印刷現場では「乾燥スピードは早ければいいという単純な話ではない」というのが本質。
むしろ「乾燥開始のタイミングを操る」ことが重要であり、この考え方こそ工業印刷の根幹を支えています。


次章では、油絵具や油性ボールペンなど、身近な“油性インク仲間”と比較し、オフセット印刷インクのユニークさを解説します。


第9章|比較① 油絵具──油だけで乾く遅乾型


油絵具は「乾性油+顔料」のシンプルな構造

油絵具は、印刷インクの“親戚”とも言える存在です。
その成分は非常にシンプルで、**顔料(色の粉)乾性油(亜麻仁油やポピーオイルなど)**に練り込んだもの。
この乾性油が空気中の酸素と反応し、酸化重合を起こして固まるという点は、油性オフセットインクと共通しています。


乾燥には数日から数か月

ただし、油絵具の乾燥は非常に遅いのが特徴です。

  • 厚塗りをした場合、表面が乾くのに数日、中まで固まるには数か月〜1年以上かかることもあります。

  • 画家たちはこの遅乾性を逆手に取り、絵の具を混ぜてぼかしたり、筆跡を活かしたりと表現の幅を広げています。


樹脂を使わないからこそ生まれる質感

油絵具には、オフセットインクのような樹脂バインダーは基本的に含まれていません。
そのため、乾いた後の絵肌は油の性質そのまま。独特の透明感や奥行きのある光沢を出せるのは、純粋な油膜だからです。
一方で、樹脂がないため耐摩耗性や速乾性は低く、工業印刷には向きません。


油絵具と印刷インクの違いまとめ

  • 油絵具:乾性油+顔料のみ。酸化重合だけで固まる。乾燥に時間がかかるが美しい光沢を実現。

  • 印刷インク:乾性油に樹脂や添加剤を加え、速乾性・耐久性・色再現性を調整。大量印刷に対応できるよう設計されている。


次章では、油性ボールペンを例に、「溶剤の揮発で瞬間乾燥」という全く違うアプローチを見ていきます。


第10章|比較② 油性ボールペン──揮発で即乾型


ボールペンのインクは「溶剤主体」

油性ボールペンのインクは、印刷インクや油絵具とはまったく違う仕組みで乾きます。
その主成分は有機溶剤で、顔料や染料を溶かし込み、さらに樹脂を少量加えて粘度を調整しています。
ボールペンで書いた線が一瞬で乾いたように見えるのは、溶剤がすぐに蒸発してしまうからです。


出るインク量が圧倒的に少ない

ボールペンは、書くときに出るインクの量が非常に少ないのもポイントです。
わずかな量しか紙にのらないため、溶剤が一瞬で蒸発し、文字を書いたそばから乾いてしまうように感じるのです。
この特性は手帳や契約書など、すぐに触れる書類に便利で、にじみにくさも優れています。


酸化重合はほとんど関与しない

油性ボールペンという名前には「油性」という言葉が入っていますが、実際には酸化重合で固まるわけではありません
溶剤が蒸発して樹脂や色素が紙の繊維に固定される仕組みなので、化学反応ではなく物理的な乾燥に近い性質です。


ボールペンの乾燥と印刷インクの違い

  • ボールペン:溶剤の揮発で即乾。インク量は極小で、乾燥に時間をかける必要なし。

  • 印刷インク:大量のインクを紙にのせ、酸化重合と浸透で固体化。乾燥プロセスは化学反応主体。


同じ「油性」でもアプローチが真逆

ボールペンは瞬間乾燥を目的に設計され、酸化反応はほぼ必要ありません。
一方、オフセット印刷インクは「タイミングを操る」ことが重要で、化学反応を遅らせたり加速させたりする高度なバランスで成り立っています。
この違いを知ると、印刷インクの難しさと奥深さがよくわかります。


次章では、油絵具・ボールペン・オフセットインクを総合的に比較し、印刷インクの独自性を改めて整理します。


第11章|オフセット油性インクの立ち位置


油絵具・ボールペンと比べると見える「中庸の設計」

油性インクという言葉は一括りにされがちですが、油絵具・油性ボールペン・印刷インクの3つはまったく異なる思想で設計されています。

  • 油絵具は「芸術性重視の遅乾型」

  • ボールペンは「実用性重視の即乾型」

  • オフセット印刷インクは「大量印刷に最適化された化学設計
    この3つの違いを整理すると、印刷インクがいかに緻密なバランスで作られているかがよくわかります。


油絵具は「時間を味方にする表現用」

油絵具は乾燥に数日〜数か月を要しますが、それは絵画の表現のため。
厚塗りやぼかし、層を重ねた深い色彩は、この遅乾性を活かした芸術ならではの特徴です。


ボールペンは「瞬間乾燥で汚れ防止」

油性ボールペンは、書いてすぐ触ってもにじまないことが重要です。
速乾性はインク量を最小限に抑え、溶剤の揮発を利用することで実現しています。


オフセット印刷インクは「乾燥速度のコントロール」が命

オフセット印刷では、数万〜数十万部の印刷を高速で行うため、機上で乾かず、紙に移った瞬間に乾燥を始める性能が必要です。

  • 乾燥が早すぎればローラーや版で皮膜化し印刷不能

  • 遅すぎれば裏移りやブロッキングのリスク

  • 酸化重合と紙への浸透を組み合わせることで、安定した生産性と高品質を両立

この精密なバランスは、芸術の世界とも文房具の世界とも異なる、工業印刷ならではの高度な化学設計なのです。


3者比較で見える印刷インクの特徴

インク種 主な乾燥メカニズム 特徴
油絵具 酸化重合のみ 芸術性・深い発色。乾燥は非常に遅い
油性ボールペン 溶剤揮発 瞬間乾燥・小面積対応。化学反応は少ない
オフセット印刷インク 浸透+酸化重合+乾燥促進剤 工業印刷向けに最適化。大量印刷でも安定品質

次章では、ここまでの知識を総まとめし、**「印刷物はインクの化学反応でできていた」**という結論に迫ります。


第12章|まとめ──印刷物はインクの化学反応でできていた


印刷物は「粉・油・樹脂」の化学設計から生まれる

オフセット印刷のインクは、ただの「色つきの液体」ではありません。

  • 顔料は変化しない粉として色を担う

  • 樹脂は顔料を包み込み、膜の骨格を作る

  • は印刷中は液体として流動性を与え、紙にのった瞬間から酸化重合で固体化
    この三者が組み合わさることで、印刷物は摩擦にも光にも強い仕上がりを実現しています。


乾燥は「化学反応」であり、単なる蒸発ではない

洗濯物が乾くのは水が蒸発するからですが、油性インクは酸素を取り込みながら固体膜へと変化します。
乾燥とは「液体が化学的に固体へ変わること」であり、この違いを理解すると印刷の奥深さが見えてきます。


印刷機の中では乾かず、紙の上でだけ固まる

インクは印刷機上では流動性を保ち、紙に移った瞬間から乾燥を始めるよう精密に調整されています。
乾燥が早すぎれば印刷不能、遅すぎれば裏移りやブロッキングの原因に。
この絶妙なタイミング設計こそ、印刷インクの最大の特徴です。


油絵具・ボールペンと比較して見える独自性

  • 油絵具:酸化重合のみで乾燥。乾きは非常に遅く、芸術表現向け

  • 油性ボールペン:溶剤揮発で即乾。小面積の実用筆記向け

  • オフセット印刷インク:浸透+酸化重合のハイブリッド。大量印刷に対応

同じ「油性インク」でも、設計思想はまったく異なることがわかります。


印刷物は化学反応の結晶

普段何気なく手に取る本やチラシ、ポスターは、顔料という微細な粉を液体に託し、化学反応で固体膜に変えるという精密な化学プロセスの上で成り立っています。
「紙の上で色が定着する」という当たり前の現象の裏には、

  • 顔料の安定性

  • 樹脂の骨格形成

  • 油の酸化重合

  • 乾燥促進剤の設計
    …という緻密な科学が隠れているのです。

印刷物は、インクの化学反応によって完成している。
この一言を知るだけでも、印刷やインクを見る目が少し変わるのではないでしょうか。


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