ペーパーレスとは?失敗しない進め方・メリット・導入事例を印刷会社が本音で徹底解説【2025年版】

第1章|ペーパーレスって何?──まずは要点と、自社チェックから始めよう

「ペーパーレス」という言葉、最近よく耳にしませんか?

なんとなく「紙を減らすことかな?」というイメージはあるけれど、実際に“何をどうすれば”ペーパーレスなのか、正確に説明できる人は案外少ないのが現実です。

しかし今、ビジネスの現場ではこの“なんとなく”が通用しない時代に入っています。


📌 電子帳簿保存法の改正で「紙保存」が原則NGに

2024年1月の法改正により、電子取引(PDF請求書など)のデータを紙で保存することは原則禁止となりました。
つまり、いままでのように「とりあえず印刷してファイリング」が許されないケースが急増しているのです。

この改正を知らずに旧来の運用を続けていると、税務調査時に保存要件違反となるリスクすらあります。


🌱 紙の使用は環境負荷にも直結する

ペーパーレスは、法律対応だけでなく環境面からも大きな意味を持ちます

たとえばA4用紙1枚の製造・廃棄にかかるCO₂排出量は約7g。
月1万枚を印刷している企業であれば、年間の排出量は 約840kg にもなります。

これは、杉の木約95本が1年間に吸収するCO₂量に相当します(※林野庁試算に基づく)。


✅ 3行で押さえるペーパーレスの基本

  • ペーパーレスとは?
     紙で行っていた業務をデジタルに置き換え、保存・共有・運用を効率化する仕組み。

  • なぜ今すぐ必要?
     電子帳簿保存法の改正で、紙保存が認められないケースが増加中。

  • 環境にも影響?
     紙1枚でもCO₂は発生。積み重ねが企業の環境責任につながる。


🧭 自社チェック|2つ以上当てはまったら、見直しのチャンス

✔ チェック項目 📉 背景にあるリスク
電子請求書を印刷してファイル保存している 税法違反リスク(※電子保存が義務)
会議資料や稟議書を紙で回している 印刷・人件費・時間のロス
書類探しに毎回5分以上かかる 業務効率の低下・情報共有の遅延
社外とのやり取りに押印+郵送が必要 スピード感の欠如・郵送コスト増
PDFの最新版が分からなくなることがある ファイル混乱・誤送信・作業の二度手間

この中で2つ以上該当する項目があれば、貴社には「ペーパーレス化の余地」が大きくあります。


このブログでは、そうした方に向けて、

  • 「ペーパーレスって、実際どういうこと?」

  • 「なぜ“今”なのか?」

  • 「導入すると何が変わるのか?」

  • 「全部紙をやめるべきなのか?」

といった疑問に、印刷会社としてのリアルな視点から丁寧にお答えしていきます。

ペーパーレス=紙ゼロ、ではありません。
**本当に必要な紙と、そうでない紙を見極めて残すこと。**それが、いま求められる“選択的ペーパーレス”です。

次章では、その定義と誤解されやすいポイントを深掘りしていきましょう。


第2章|「ペーパーレス」とは?──言葉の成り立ちと、本当の意味


1️⃣「紙を使わないオフィス」は、50年前から構想されていた

“ペーパーレス”という言葉は、ここ最近の流行ではありません。
実は**1975年、アメリカのビジネス誌『Business Week』**が、未来の働き方を特集した記事で「紙を使わないオフィス(paperless office)」という概念を紹介しました。

そこでは、「1990年には、ほとんどの社内文書が紙ではなく電子で管理されるようになる」と予測されていたのです。
さらに1983年には、アメリカの企業が “THE PAPERLESS OFFICE” という言葉を商標登録しようとしたほど、この考え方は注目されていました(のちに取り下げ)。

デジタル化が進む前から「紙を減らす」という課題意識は存在していたということです。


2️⃣ ペーパーレスは「紙ゼロ」ではない

“ペーパーレス”というと、紙を一切使わない極端なイメージを持たれがちですが、実際にはそうではありません。

本来のペーパーレスとは

「業務上で不必要に使われている紙を見直し、必要な情報を電子で処理・共有できる環境をつくること」
を意味します。

つまり、「紙を全廃する」のではなく、「紙を“使わずに済むところ”から減らす」ことが目的です。
請求書、稟議書、会議資料、納品書など、紙でなければならない理由がない業務から順に見直していく──これがペーパーレスの本質です。


3️⃣ 「ペーパーレス」と「ペーパーレス化」はちがう意味を持つ

ふだん意識せずに使っているこの2つの言葉。実は明確に使い分けられています。

用語 意味するもの 例文で理解する
ペーパーレス すでに紙を減らした“状態” 「うちは勤怠管理は完全にペーパーレスです」
ペーパーレス化 その状態に向かって進める“過程・行動” 「まずは請求書からペーパーレス化します」

このように、「ペーパーレス」はゴール、「ペーパーレス化」はその道のりを指します。
導入段階の企業では、まず「化」からスタートするのが一般的です。


4️⃣ よくある誤解を整理する

よくある誤解 実際はこうです
紙を一切使えなくなる? 必要な紙は残してよい。「ゼロ」にするのが目的ではない
印刷代を減らすだけの話? コスト削減だけでなく、法令対応・業務効率・環境配慮もセットで考える必要がある

ペーパーレス化は「紙を減らす施策」というより、業務全体を最適化する取り組みです。


5️⃣ 印刷会社だからこそ語れる“紙の再定義”

私たちは印刷の現場にいるからこそ知っています。
紙には、情報以上の価値があります。

たとえば…

  • 販促用チラシやポスターは、「体験として伝える」力がある紙媒体

  • 契約書のように、「書面性」や「証拠性」が重要な場面では、紙が安心感と信頼を生む

  • 一方で、日常的な稟議書や出勤簿、PDF請求書のように、紙である意味が薄い文書もあります。

だからこそ、ペーパーレスとは「紙を捨てること」ではなく、

「紙を使うべき場面」と「デジタルで完結すべき場面」を整理していくこと──この視点がもっとも重要だと考えています。


🔑 まとめ|この章で伝えたかったこと

  • ペーパーレスは1975年から続く、業務の理想像

  • 意味するのは「紙をゼロにする」ことではなく、不要な紙を減らすこと

  • 「ペーパーレス(状態)」と「ペーパーレス化(行動)」は別モノ

  • 紙には価値がある──だからこそ戦略的に使い分ける時代へ。


第3章|なぜ今「ペーパーレス」が急務なのか?──法改正・テレワーク・社会背景から解説


1️⃣ 2024年1月、電子帳簿保存法が大きく変わった

  • 2024年1月から、電子取引で受け取った書類(PDF請求書など)は、紙に印刷しての保存が原則禁止になりました。

  • 2022年の改正によって「紙と併用可能だった」これまでのルールが一変。本格的な電子データ保存の義務化フェーズに進んだ形です。

🔍重要ポイント:紙で受け取った書類や社内作成文書の保存は引き続き可能ですが、電子で受け取った取引書類は電子保存が唯一の方法となっています。


2️⃣ テレワーク普及の波と業務文化の変化

  • 総務省によると、2020年時点で約60%の企業がペーパーレス化に取り組んでいるという調査結果があり、コロナ禍によるテレワークの拡大で加速しています。

  • 政府も、自治体と連携しリモートワークに適したペーパーレス業務環境の整備を促進。資料や決裁の電子化、オンライン会議、チャットツール導入などが進んでいます。


3️⃣ SDGs・脱炭素視点でも「紙を減らす」は重要

  • A4用紙1枚あたり約7gのCO₂を排出するという試算は、年間にするとかなり大きな環境負荷につながります。

  • 企業のESG・CSR活動において、紙使用削減は重要な環境対策として位置づけられており、持続可能な取り組みの一環となっています。


4️⃣ この環境下で「ペーパーレス」が必要な理由まとめ

  • 法的義務:2024年以降、電子取引データを電子保存しないと法違反。

  • 業務変革:テレワークには「紙を中心とした業務スタイル」が足かせに。

  • 社会的責務:環境負荷を抑えるため、企業の社会的評価が高まる。


この背景を押さえることで、ペーパーレス化は**「やるべき理由が3つ揃った」**、まさに今の時代に必須の取り組みであることがクリアになります。

次章では、これらの変化を踏まえた具体的なメリットを、数字と実例で深掘りしていきます。


第4章|“数字で納得”ペーパーレスの3大メリット──コスト・効率・環境、全部に効く


ペーパーレス化は「いいらしい」では終わりません。
コストがいくら削減できるのか、業務がどれほど速くなるのか、環境にどう貢献できるのか──そのすべてが数字で説明できます。

この章では、誰が見ても納得できる実測値ベースの3大メリットを、具体例とともにわかりやすくご紹介します。


① コスト削減|「紙にかかるお金」は、想像以上に重い

▶︎ 印刷1枚のコストは、単価だけじゃない

項目 単価(概算)
コピー用紙(A4) 約0.7円/枚
トナー代・メンテ費用 約3円/枚
ファイル・保管スペース・人件費 約2円/枚
合計 約5.7円/枚

▶︎ 例えばこのケース:

ある従業員30人の事業所で、月間印刷数が1万枚 → ペーパーレス導入で3,000枚に削減。
その結果、年間約51万円のコスト削減につながったと中小企業庁の報告書でも紹介されています。

✅ 見えない「印刷の間接費」こそが、ペーパーレス最大の節約ポイント。


② 業務効率|“探す・回す・待つ”がごっそり消える

▶︎ まだ紙で探してる?

紙の書類を探す時間は、1人あたり1日平均約20分。年間にすると約80時間、丸10営業日分の損失になります。

一方、デジタル保存ならキーワード検索で10秒以内に目的のファイルへ。
全社員がこの差を生むと、年間で100時間以上の時間を再投資できる計算になります。


▶︎ 稟議や回覧もスピードアップ

  • ペーパーレス化により、稟議書の回覧が“1日→1時間”に短縮されたという報告も。

  • 決裁プロセスを電子化した中堅企業では、月平均10件の稟議が翌日決裁に変化したとのデータもあります。

✅ 「書類が今どこにあるか」問題が、そもそも発生しなくなります。


③ 環境負荷軽減|1万枚減らせば、木10本分のCO₂を削減

▶︎ 実測データ:

  • A4コピー用紙1枚のCO₂排出量は約7g(製造・運搬・廃棄まで含む)

  • 杉の木1本が1年で吸収するCO₂は約8.8kg(林野庁試算)


▶︎ つまり──

月1万枚の印刷を削減 → 年間12万枚
= CO₂ 約840kg削減
= 杉の木 約95本分の吸収量

✅ ペーパーレス化は、数字で“環境対策”を示せる手段にもなります。


🔍 まとめ|「紙を減らす」は、合理性で選ばれるべき施策

項目 Before(紙運用) After(ペーパーレス)
印刷コスト 年間 約60万円 年間 約10〜15万円
業務時間 1人あたり 年80時間ロス “探す時間”がほぼゼロに
環境負荷 CO₂ 約840kg排出 木 約95本分の相殺

ペーパーレスは、「やっておいた方がいい」から、「やらないと損をする」フェーズへ。

特に中小企業や印刷関連の現場では、数字で語れる改善策としてこれほどわかりやすいものはありません。
次章では、こうしたメリットの裏側にある“見落としやすいリスク”と、その対策をお伝えします


第5章|ペーパーレス化の「落とし穴」と賢い対策──紙が優位な場面もある


ペーパーレス化には明確なメリットがありますが、一方で注意すべきポイントも存在します。
ここでは、「導入前にぜひ知っておきたい5つのリスク」と、印刷会社として現場で役立つ実践的対策を対になる形で解説します。


① セキュリティリスク:クラウドも安全ではない

リスク説明
クラウド保存は便利ですが、セキュリティ対策が甘いと不正アクセスやデータ暗号化型攻撃(ランサムウェア)などの被害に遭う可能性があります。

対策

  • パスワードだけでなく、**スマホで確認するワンタイムコード(多要素認証)**を入れる

  • 定期的にデータのバックアップを取り、過去版も残す設定にする

  • 誰がいつ、どのファイルを操作したか履歴が見られるツールを選ぶ


② 導入コスト:ゼロではないが分散が可能

リスク説明
クラウド型システムは初期費が少ない場合もありますが、継続的に月額料金やスキャナ導入、ネット回線の充実などが必要です。

対策

  • 紙使用量が多い業務(請求書など)を最初にデジタル化し、段階的に広げる

  • システム導入が難しい場合は、既存Officeソフト+格安スキャナからスタートし、必要に応じてアップグレード


③ デジタル抵抗:高齢者やIT慣れしていない人が取り残される

リスク説明
高齢者層ではネットやクラウド操作に慣れていない方も多く、完全デジタル移行では混乱の恐れがあります。

対策

  • 使い方を丁寧に解説した紙マニュアルや動画マニュアルを用意

  • 紙での提出もできる「併用ルール」を一定期間設ける

  • 不明点を電話や窓口で相談できる環境も用意


④ 目・集中力の負担:紙には負ける場面も

リスク説明
富山大学の調査では、学生の多くが「深く集中して記憶する」「長時間読む」場合は、紙のほうが優れていると回答し、PCなどでは眼の疲労も強く感じるとしています(紙vsデジタル学習 – 富山大学

  • 長文資料や校正工程には、必要に応じてA4などで少量印刷を残す

  • 電子インク端末(例:Kindle Paperwhite)やブルーライト軽減モードの利用を推奨


⑤ システム障害・停電:完全デジタルは危険

リスク説明
クラウド障害や停電でシステムにアクセスできず、緊急対応や監査資料がすぐに出せないケースもあります。

対策

  • 定期的にPDFをUSBやローカルでバックアップ

  • 停電に備えて、バッテリー付きノートPCやモバイルバッテリーを常備

  • 緊急時対応用に紙テンプレート(伝票・請求書等)を少部数用意しておく


🛠まとめ|「紙ゼロ」ではなく、最適配置が勝ち

リスク 対策まとめ
セキュリティ 多要素認証・履歴管理・定期バックアップ
コスト 段階導入+既存ツール活用
デジタル抵抗 マニュアル + 併用ルール + サポート体制
目・集中疲労 長文印刷 + 電子インク活用
障害・停電 ローカル保存 + バッテリー端末 + 紙テンプレ

👉 結論として重要なのは、「デジタル万能」ではなく、状況に応じて“紙とデジタルを混ぜる”設計力です。
これこそが、現場に優しく、結果として長続きするペーパーレス化の鍵となります。