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第1章:なぜ“木材パルプと洋紙”が紙の主流になったのか?──答えは150年の進化の結晶
現代の紙の主役は“木材パルプと洋紙”である
私たちが日常的に使っているコピー用紙、新聞、書籍、段ボール──そのほとんどは、木材パルプを原料とした洋紙でできています。実に世界の紙の9割以上がこの組み合わせ。なぜこれほどまでに普及したのか?その理由は、「大量生産に最も向いており、コスト・性能・環境配慮のすべてでバランスが取れているから」です。現代の紙は、この組み合わせでしか実現できない“総合力”を持っているのです。
でも最初の紙は、木でも洋紙でもなかった
とはいえ、紙の歴史は木材から始まったわけではありません。紀元105年、中国・後漢の宦官・蔡倫(さいりん)は、古布や麻くず、漁網、木の皮などを使って、世界初の紙を作ったとされます。これが紙の起源。天然繊維を水に溶かし、薄く広げて乾かすという「手漉き紙」の原型です。これはその後、日本にも伝わり、楮や三椏などを使った和紙文化へとつながっていきます。
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蔡倫の紙と洋紙の違いは“目的と技術”にある
蔡倫の紙も和紙も、素材は自然で環境にやさしいものでしたが、生産量は少なく、用途も限られていました。一方、木材パルプを原料とした洋紙は、強度・白さ・安定供給・機械生産に優れ、印刷にも最適。そもそも「紙に求められる機能」が変わったのです。個人の記録媒体から、社会インフラへ──紙の役割が拡大する中で、洋紙という形が必要になったわけです。
原点を知ることで、今の紙がもっと見えてくる
なぜ紙は木から作られるのか?なぜ和紙ではなく洋紙なのか?その答えを知るためには、紙の起源を正しく理解することが大切です。印刷・教育・商品企画など、紙に関わるあらゆる仕事において、「素材を知る」ことは確実に武器になります。このブログでは、その進化の物語を深掘りしながら、今なぜ“木材パルプと洋紙”がスタンダードなのかを解き明かしていきます。
第2章:なぜ“木材パルプと洋紙”が求められるようになったのか?──印刷革命と紙不足がすべての始まり
時代が“紙の大量供給”を求め始めた
現代の紙のスタンダードである木材パルプと洋紙。その誕生には、社会全体が紙を必要とした“必然”の背景がありました。鍵を握るのは15世紀のヨーロッパ。グーテンベルクによる活版印刷の発明は、聖書や書籍を大量に複製できる革新でした。しかし同時に、それまでの紙──つまりボロ布や麻などを原料にした手漉き紙では、需要にまったく追いつかないという問題が顕在化したのです。
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布が足りない!原料不足が紙の未来を変えた
18世紀末から19世紀初頭にかけて、ヨーロッパでは深刻な“紙の原料不足”に陥ります。衣類は高価で使い捨てなどなく、ボロ布は簡単に集められるものではありません。そこで製紙業界は「他の植物から紙を作れないか?」という方向へ大きく舵を切ります。**木材・竹・麦わら・藻・アサ・サトウキビなど、あらゆる植物が試されましたが、最終的に選ばれたのが“木材”**だったのです。
木材と機械の出会いが“洋紙”を生んだ
木材パルプの技術と同時に、もう一つの決定打がありました。それが1803年に発明された**フォアドリニエ機(連続抄紙機)**です。これにより、紙を「一枚一枚手で漉く」から「ロール状で連続生産する」ことが可能に。さらにクラフト法による強いパルプと、オフセット印刷との相性の良さも追い風になり、洋紙は“印刷社会に最適な紙”として一気に主流へと躍り出たのです。
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“紙=工業製品”という発想が社会を変えた
こうして誕生した洋紙は、単なる素材ではなく、印刷・教育・流通・情報のすべてを支えるインフラとなっていきます。もはや紙は、職人の手で丁寧に作る特別なものではなく、誰でも使える“日用品”としてのポジションを獲得したのです。印刷会社で働く若手担当者にとっても、商品企画に携わる方にとっても、「なぜ木材パルプと洋紙が求められたのか?」を理解することは、紙の機能価値を語るうえで欠かせない視点になるはずです。
第3章:なぜ“木材”が紙に最適だったのか?──素材としての決定打
紙の主成分「セルロース」が木に豊富だった
紙を作るうえで最も重要なのが、植物に含まれるセルロースという繊維成分です。セルロースは植物の細胞壁を構成する天然のポリマーで、水に強く、長く絡み合う性質があり、これが紙の「強度」や「形状保持力」の源になります。木材はこのセルロースを40〜50%もの高濃度で含んでおり、紙づくりに理想的な原料だったのです。草や竹、麻など他の植物にもセルロースはありますが、その含有量・繊維長・加工性で木材が圧倒的に優れていました。
針葉樹と広葉樹、それぞれの役割
木材パルプには大きく分けて「針葉樹系」と「広葉樹系」があります。針葉樹(マツやスギなど)は繊維が長くてしなやかで、紙に“強さ”を与えるのに適しています。一方、広葉樹(ユーカリやシラカバなど)は繊維が短く、紙に“なめらかさ”や“印刷適性”をもたらします。この2種類を用途に応じてブレンドできる柔軟性も、木材パルプの強みの一つです。つまり木材は、紙に求められる「強さ」「白さ」「インキのノリ」「コシ」など、すべての条件を高水準で満たしていたのです。
量産性・価格・加工のしやすさまで抜群
紙が“木材”に決まった理由は、性能だけではありません。森という膨大な資源が、伐採→運搬→加工→供給という一連のプロセスにおいて安定的でスケーラブル(拡張可能)だったことも重要です。木は1本伐れば何百枚・何千枚もの紙が取れ、しかも木材チップに加工しやすく、長期保存や輸送にも耐えます。この**「加工工程全体の効率性」**こそが、木材が最終的に選ばれた決定打でした。
「紙の原料に木材がベスト」は技術と社会が導いた必然
単に「たくさんあるから木が選ばれた」と思われがちですが、実は違います。紙という道具が、産業・教育・メディアとともに大衆化する時代に、最適な素材が“木材”だったというのが正しい理解です。印刷業界の新人や紙選びに悩む企画担当者にとって、素材の選定理由を構造的に理解することは、顧客説明や素材選定の説得力につながる武器となるでしょう。
第4章:草・綿・竹・麻ではなぜ“主役”になれなかった?
紙になりそうな植物はたくさんあるのに?
「紙って木からできてるんだよ」と聞いたとき、多くの人がふと疑問に思うかもしれません。「草じゃダメ?」「竹や麻は?」――実際、19世紀以前には多種多様な植物が紙の原料として試されていました。古くは稲わら、麦わら、アサ、ジュート、綿、竹、藻類など。しかし、紙の標準素材として生き残ったのは“木材パルプ”だけ。なぜ他の植物は主流になれなかったのでしょうか?
繊維が短すぎる/絡みにくい/加工しにくい
草本系(稲わら・麦わら・綿など)の植物は、繊維が短くて絡みにくく、破れやすい紙しかできません。また、インクの定着も悪く、印刷に向かないという難点がありました。竹やサトウキビなどの「非木材紙」にも期待されましたが、硬くて繊維を取り出すのに強い薬品や高熱が必要で、コストとエネルギー消費が大きすぎるという壁が立ちはだかります。
安定供給できない・年中採れない
さらに大きなネックとなったのが「供給の安定性」です。木材は森林を伐採しさえすれば、年間を通じて大量に確保可能。しかも、チップ化して保存もしやすい。一方、竹や草は収穫時期が限られ、乾燥・腐敗の問題もあるため、工業的な連続生産には不向きでした。つまり、素材としての“理論上の可能性”はあっても、“実用レベル”で乗り越えられなかったのです。
非木材パルプは“脇役”で生き残っている
ただし、これらの素材が完全に消えたわけではありません。竹やサトウキビの搾りかす(バガス)などは、現在でも一部の高級紙やエコ素材として活用されています。むしろ現代では「環境負荷の低い非木材紙」として再評価されている面もあります。ただしそれはあくまで代替用途やブランド戦略の一部であり、コスト・性能・供給体制のトータルで見れば、やはり“木材パルプ”が圧倒的に優位なのです。
第5章:木材から紙になるまで──採取・チップ化・パルプ処理
紙の旅は“森の中”から始まる
木材パルプの紙が生まれるプロセスは、まず森林での伐採から始まります。ここで使われるのは、計画的に植林・管理された人工林が中心。FSC(森林管理協議会)やPEFCといった国際認証を受けた森林では、木を伐った分だけ新たに植える“持続可能な林業”が行われています。こうした背景には、紙の需要と環境負荷のバランスをとる努力があるのです。木を伐ること自体が悪なのではなく、「どう伐って、どう使うか」が問われているのです。
伐った木は“チップ”に加工され、パルプ工場へ
伐採された木材は、まず工場で**皮を剥がされ、短冊状に砕かれた“木材チップ”**になります。このチップが紙の原料の原点。チップ化の段階で、針葉樹と広葉樹を分けたり、異物(枝・土・金属)を除去したりすることで、紙の品質が決まっていきます。その後、チップは巨大なサイロに貯蔵され、ベルトコンベアでパルプ工場に運ばれていきます。
薬品・熱・圧力──ここから“紙のもと”が抽出される
チップがパルプ工場に到着すると、いよいよ“セルロースの抽出”という核心工程に入ります。クラフト法(硫酸法)の場合、チップを苛性ソーダや硫化ナトリウムの溶液で煮込み、不要なリグニン(植物の硬さのもと)を取り除いてセルロースだけを取り出すという工程が取られます。機械パルプの場合は、化学処理をせず、高速回転の砥石で繊維を削り出す方法になります。どちらも最終的には**繊維が分離された“パルプスラリー(水に溶かした繊維液)”**となり、ここから紙の形が生まれていくのです。
紙の原料が“工業製品”になっていく瞬間
この一連の流れを見てわかるのは、木材が“自然素材”から“紙という工業製品の原料”へと変わっていく過程です。伐採・チップ化・薬品処理・濾過・漂白──そのすべてが連続的に管理され、大量かつ安定的に供給できる仕組みが整っている。印刷業界の若手の方や、環境配慮に関心を持つ企画担当者にとって、この「原材料の流れ」を理解することは、紙を単なる“白い素材”ではなく、“精密に設計された機能資源”として見る視点を与えてくれるはずです。
第6章:クラフト法と機械パルプ──洋紙を支えた2大製法
クラフト法とは?強くて白い紙を生む“主流製法”
「クラフト法(Kraft process)」は、現在世界のパルプ生産の約8割を占める最もスタンダードな化学パルプ製法です。チップを苛性ソーダ(NaOH)と硫化ナトリウム(Na₂S)を混ぜた溶液で煮ることで、木材のセルロースを残しつつ、リグニンを効率よく分離します。この製法の大きなメリットは、強度が高く、白色度も高めやすいこと。新聞紙、コピー用紙、段ボール用ライナーなど、さまざまな洋紙の“ベース”として活躍しています。強靭な紙を求める現代の印刷物にとって、クラフト法は欠かせない技術です。
機械パルプとは?スピード重視の“高速大量型”
一方、「機械パルプ(Mechanical Pulp)」は、チップを薬品で処理せず、グラインダーやディスクリファイナーで物理的に削り出す方法です。こちらは繊維が短く、リグニンが残るため、やや黄ばみやすく、保存性は劣りますが、非常に安く、スピード重視で大量生産に向いているというメリットがあります。主に新聞紙、雑誌、チラシなど短期使用の紙に使われています。コストパフォーマンスを優先するならこちらです。
化学と物理、目的に応じて“使い分け”されるパルプ
クラフト法=化学処理、機械パルプ=物理処理という構造の違いにより、両者は使い分けがされます。例えば、書籍や官公庁用紙、製品パッケージには高耐久のクラフトパルプを、新聞やフリーペーパーには機械パルプが採用されるといった具合です。また、これらを**ブレンド(混抄)**することで、価格と品質のバランスを調整する製品もあります。つまり、パルプ製法の選択は、そのまま「洋紙の性格=最終製品の価値」に直結しているのです。
製法の選択が“紙の個性”を決める時代に
印刷会社や環境に敏感な企画担当者が紙を選ぶ際、見た目や価格だけでなく、製法の違いにまで踏み込むことが重要です。なぜこの紙はザラザラしているのか?なぜ黄ばむのか?それは、どのパルプ製法で作られたかに大きく影響されます。製法を知ることで、紙という素材を“選ぶ”ことができるようになり、提案力や品質への理解も格段に高まります。紙は、見た目だけでは語れない“背景”のある素材なのです。
第7章:製紙機械の登場が洋紙を“標準”にした
紙を「流れ作業」で作るという革命
洋紙がスタンダードとなった背景には、製紙機械の進化があります。中でも歴史的転換点となったのが、1803年にイギリスで発明されたフォアドリニエ機(Fourdrinier machine)の登場です。これは、パルプスラリー(繊維の水溶液)をベルトコンベアのようなメッシュの上に流しながら、脱水・圧搾・乾燥を連続的に行う装置です。つまり、一枚ずつ手漉きしていた紙が、“ロール状”に連続して生産できるようになったのです。この技術が登場したことで、紙は一気に「産業化」されました。
手漉きから1日数万メートルの大量生産へ
従来の手漉き和紙では、1日に数百〜千枚程度が限界でした。それがフォアドリニエ機を使えば、1時間で数キロメートル分の紙を生産することが可能になりました。さらにその後、ヤンキー乾燥機やスーパーカレンダーなど、紙の品質を高める補助装置も発明され、洋紙は「大量・高速・高精度」の三拍子がそろった素材として進化していきます。この“量と質”の両立こそが、洋紙が新聞・出版・包装など広範な用途で採用される理由です。
印刷機との相性が洋紙の需要を後押しした
もう一つの重要ポイントが、洋紙とオフセット印刷機の相性の良さです。オフセット印刷は、高速で大量に印刷ができる現代の主力印刷方式ですが、これには「平滑性が高く、ロール状で供給できる紙」が必要です。まさに洋紙こそがその条件を満たしており、印刷機の進化と紙の進化は**“技術的に共進化”**してきたと言えます。結果として、洋紙は印刷業界でも不可欠な存在となっていきました。
紙が「特別なもの」から「誰でも使えるもの」へ
製紙機械の進化は、紙を単なる高級素材から、「社会インフラ」としての地位へと押し上げました。誰でも使える安価な素材となった紙は、教育・メディア・行政・ビジネスといったあらゆる分野で不可欠な存在となります。印刷業界の若手担当者や教育者、環境配慮を求める企画担当者にとっても、この“量産技術の革新”こそが洋紙をスタンダードにした真因であると理解することは、非常に価値のある視点となるはずです。
第8章:明治日本の転換点──和紙から洋紙への移行
文明開化とともに求められた“新しい紙”
明治時代、日本は急速に西洋化を進める中で、紙の在り方にも大きな転換が起こります。これまで国内で広く使われていたのは和紙。楮や三椏などを用いた手漉きの伝統工芸品でしたが、それはあくまで「少量・高品質」の紙でした。新聞や教科書、帳簿、証券など、近代社会が求めたのは“大量に、均質に、早く”使える紙。ここにマッチしたのが、洋紙だったのです。
最初の国産洋紙は“国家プロジェクト”だった
1873年(明治6年)、日本政府は東京・王子に「抄紙会社」という洋紙製造工場を設立します。これはフランス人技術者を招き、最新の製紙機械を導入した**国家主導の“洋紙化計画”**でした。最初の製品は官報や教科書向けの紙で、まさに情報国家としてのインフラ整備の一環。やがてこの流れは民間にも広がり、1889年には民間初の大規模製紙会社「王子製紙」が誕生し、洋紙の本格生産が始まります。
和紙の技術は“残す”、用途は“分ける”
この洋紙導入の波の中で、和紙がすべて淘汰されたわけではありません。和紙は書道、工芸、襖紙などで独自の価値を保ち続け、現在も世界に誇る日本文化の一部です。ただし、新聞・出版・ビジネス文書などの実用面では洋紙が主役となり、「用途で住み分ける」形で和紙と洋紙は共存してきました。これは素材・製法・供給量の観点からも極めて合理的な選択でした。
洋紙導入は“紙の近代化”そのものだった
和紙から洋紙への転換は、単なる素材の置き換えではなく、紙の社会的役割が変わったことの象徴でもあります。情報を一部の知識層が所有する時代から、全国民が共有する時代へ――それを支えたのが、木材パルプによる洋紙と機械による大量生産でした。印刷会社の若手担当者にとっても、環境配慮に取り組む商品企画者にとっても、日本の“紙の近代化”の経緯を知ることは、素材選定の背景理解に大いに役立つはずです。
第9章:現代の紙の9割以上が木材パルプである理由
世界の紙の“ほとんど”は木材パルプでできている
現在、世界中で流通している紙の約90〜95%は木材パルプが原料です。これは単なる慣習や偶然ではなく、技術・経済・環境などあらゆる観点から「総合的に最適解」とされているからです。コピー用紙・書籍・雑誌・新聞・段ボール・包装紙・レシート……私たちの身の回りにあるほとんどの紙が、木からできているのです。
性能・価格・供給体制の“すべてが揃っている”
木材パルプがここまで普及した理由は、「紙に求められるすべての条件をバランスよく満たしている」からです。たとえば、強度が高く印刷適性があり、白色度も出しやすい。そして何より、森林資源が安定的に供給でき、価格も比較的低く抑えられる。これにより、印刷業界や出版業界だけでなく、**流通・建材・教育など多様な分野が安心して使える“標準紙”**となったのです。
用途ごとの最適なパルプブレンドも進化
さらに、木材パルプは「針葉樹(長繊維)」と「広葉樹(短繊維)」を用途ごとに調整してブレンドできるという柔軟性があります。例えば、段ボールには強度が重視されるため針葉樹多め、書籍用紙はなめらかな質感を求めて広葉樹多め、といった目的に応じたレシピ設計が可能です。これが、他の素材では難しい“量産と品質の両立”を実現しています。
“紙のインフラ化”を支える木材パルプの力
紙は今や、情報伝達・教育・包装・記録・保存といった社会インフラの一部になっています。その基盤を支える木材パルプは、単なる素材を超えて「文明の土台」とも言える存在です。印刷会社の現場担当者にとっては、木材パルプがなぜこれほど広く使われているのかを理解することで、顧客のニーズに応じた最適な紙提案ができるようになります。また、企画職や教育現場でも、“紙の本質”に触れる視点として知っておくべき基礎知識と言えるでしょう。
第10章:木材パルプの課題と環境配慮の現在地
森林伐採と環境負荷は避けて通れないテーマ
木材パルプが紙の主流であり続ける一方で、その背景には環境への影響という避けられない課題も存在します。森林の伐採は、二酸化炭素の吸収源を減らし、生物多様性の損失を招く可能性があります。また、製紙工程では大量の水とエネルギーを使用し、漂白には薬品も使われるため、水質汚染やエネルギー消費の負荷が指摘されてきました。特に20世紀後半以降、製紙業界は「環境とどう共存するか」が問われ続けてきたのです。
FSC認証と持続可能な森林管理の広がり
そうした中で注目されているのが、FSC(森林管理協議会)認証や**PEFC(森林認証制度)**といった国際的な認証制度です。これらは、違法伐採ではない木材であること、地域社会や労働者の権利が守られていること、再植林による持続可能性が担保されていることを第三者が認証する仕組みです。現在、国内外の大手製紙メーカーは、こうした認証材を使った紙製品を多数展開しており、サステナブルな紙選びが“企業の信用”にも直結する時代となっています。
再生紙と非木材紙の活用も進む
環境配慮のもう一つの柱が、**再生紙(リサイクルペーパー)の活用です。特にコピー用紙やトイレットペーパー、新聞紙などは、古紙回収から再生されたものが多く使われています。ただし、再生にはインク除去・漂白・繊維劣化の課題もあるため、全てを置き換えるのは困難です。また、サトウキビの搾りかす「バガス」や竹、藻などを原料とする非木材紙(ノンウッドペーパー)**も注目されており、エコ文具や高級パッケージなどで導入が進んでいます。
木材パルプは“終わり”ではなく“進化”の段階にある
木材パルプ=環境に悪い、という印象を持つ人もいるかもしれませんが、それは過去の話になりつつあります。現在の製紙業界は、黒液(副産物)をボイラー燃料にする自家発電システムの導入や、漂白剤を使わない無漂白パルプ、エネルギー効率の高い製造ラインの開発など、環境負荷を減らす方向へと進化を遂げています。印刷会社や商品企画に関わる人にとって、これらの背景を正確に理解し、単なる価格比較ではなく“価値としての紙”を選ぶ視点がますます重要になっているのです。
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第11章:これからも“木材パルプと洋紙”が主流なのか?
デジタル化の時代に、紙の存在意義は問われ続けている
スマートフォン、タブレット、電子書籍──日常のあらゆる場面でデジタル化が進む現代において、「紙の終わり」が語られることも少なくありません。実際、新聞や雑誌の発行部数は減少傾向にあり、ビジネス書類もクラウド管理が主流になってきました。では、木材パルプと洋紙による「紙の時代」は終わるのでしょうか?結論から言えば、それはむしろ再定義と多様化の段階に入ったと見るべきです。
“紙だからできること”への再評価が進んでいる
デジタルでは得られない「触れる体験」「記憶に残る感触」「物としての存在感」──こうした紙ならではの価値が、いま再び見直されています。特に教育分野では、紙で読む方が記憶に残りやすいという研究結果もあり、教科書やノートの価値は再認識されています。さらに、印刷物やパッケージは“ブランドの世界観”を形にする重要な要素。手に取れるリアルな紙だからこそ伝えられる感情や温度感があります。
紙の用途は減るのではなく“分化”していく
確かに、情報を届ける手段としての紙の役割は、デジタルに置き換わる部分が増えています。しかしその一方で、高級印刷物・アート・体験型パッケージ・サステナブル商材といった分野では、紙の活用が進化しています。むしろ、用途や目的によって「どんな紙を、なぜ使うか」を選ぶ時代になっているのです。その中心にあるのが、加工性・印刷適性・安定供給をすべて兼ね備えた“木材パルプ×洋紙”なのです。
“素材を知ること”がこれからの価値提案になる
印刷会社や環境意識の高い商品企画担当者にとって、木材パルプや洋紙についての理解は単なる製造知識ではありません。それは、「なぜこの紙を選んだのか?」を語れる力=企画や提案に深みを持たせる武器です。未来の紙は、おそらく“ただの紙”ではなくなっていきます。環境、ブランディング、五感、体験、保存性…あらゆる要素を踏まえた「選ばれる紙」へ。木材パルプと洋紙は、これからも“進化し続ける主役”であり続けるのです。
まとめ:木材パルプと洋紙は、時代が“選び取った”紙のスタンダードだった
木材パルプと洋紙が現代の紙の主流となったのは、偶然でも一時の流行でもありません。それは、長い歴史の中で技術革新と社会の要請が重なり、「最も適した素材と製法」だったからこそ選ばれ、定着してきたという必然の結果です。
紙の誕生は、蔡倫による麻くずの再利用から始まりました。その後、和紙が独自の文化を築き、近代になると大量印刷や情報流通を可能にする新たな「洋紙」が登場。木材がセルロースの含有量・加工性・価格・供給量のすべてにおいてバランスよく優れた素材だったことが、“標準紙”としての地位を確立する決定打となりました。
クラフト法による強靭なパルプ、製紙機械の進化、オフセット印刷との親和性、そして用途に応じたパルプ配合技術。これらすべてが絡み合い、木材パルプと洋紙は印刷・出版・包装・教育など、あらゆる分野で不可欠な存在へと成長したのです。
そして今、環境への配慮や非木材紙の登場など、紙はさらなる“進化の時代”に入っています。印刷業界の実務者、教育者、企画担当者にとっては、紙を単なる「印刷の媒体」ではなく、社会・技術・文化の交差点として理解することが、素材選びや企画提案の質を飛躍的に高める力になるでしょう。
木材パルプと洋紙の歩みを知ることは、「なぜそれが当たり前なのか」を再発見すること。
そして、「これからの紙をどう選ぶか」を考えるための確かな土台となるのです。
巻末年表:木材パルプと洋紙が“主役”になるまでの150年
年代 | 出来事 | 解説・補足 |
---|---|---|
紀元105年 | 蔡倫が「紙」を発明(麻くず・木の皮・ぼろ布) | 紙の起源。中国で手漉き紙が誕生 |
7〜8世紀 | 和紙が日本で定着(楮・三椏・雁皮など) | 日本独自の素材と文化が発展 |
1445年 | グーテンベルク、活版印刷を発明 | 印刷と紙の需要が急拡大 |
18世紀末 | 欧州でボロ布原料の不足が深刻化 | 新たな紙原料の模索が始まる |
1844年 | ドイツで機械パルプ(グラウンドウッドパルプ)誕生 | 木材を直接削る製法の始まり |
1867年 | クラフト法(化学パルプ)が開発される | 高強度・高白色度の紙が実現 |
1803年 | フォアドリニエ機が発明される | 世界初の連続抄紙機。紙の量産が可能に |
1873年 | 日本に初の洋紙工場「抄紙会社」が設立される | 明治政府が洋紙導入を国家プロジェクトとして推進 |
1889年 | 王子製紙が創業。国産洋紙の本格生産へ | 明治中期、日本の製紙産業が本格化 |
1920〜30年代 | 和紙から洋紙への主流交代が完了(日本) | 新聞・書籍・教科書に洋紙が定着 |
現代 | 世界の紙の約9割以上が木材パルプ由来に | 洋紙が“世界標準”として定着・進化中 |
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