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0章｜導入──「大切」って、説明しようとすると急に難しい
「それ、大切にしてね」
「大切な人」
「命が大切」
毎日のように使っている言葉なのに、
**「大切とは何か？」**と聞かれると、意外と答えに詰まります。
あまりにも当たり前すぎて、
考える前に使ってしまう言葉なのかもしれません。
しかも漢字を見ると、少し引っかかる。
大切。
大きく、切る。
守るとか、残すとかなら分かる。
でも「切る」は、どこか逆の行為にも思えます。
この違和感をそのままにせず辿っていくと、
「大切」という言葉が持つ、
少し張りつめた正体が見えてきます。
1章｜大切の意味──現代日本語での使われ方
現代日本語での「大切」は、
次のような意味で使われています。
-
価値が高く、失いたくないこと
-
丁寧に扱うべき対象
-
心情的に重みのある存在
「重要」と似ているようで、
実際の使われ方には違いがあります。
「重要な会議」とは言えても、
「重要な恋人」と言うことは、
日常会話ではあまりありません。
「大切」は、
単なる重要度を示す言葉ではなく、
どう向き合い、どう扱うかという態度まで含んだ言葉なのです。
2章｜語源的な見方──「大切」は差し迫る言葉だった
語源的に見ると、「大切」は
「大いに切なる」「切迫して重要である」
という意味領域から捉えられることが多く、
和製漢語だという見方も広く見られます。
「切迫」「切実」「痛切」などの言葉が示すように、
「切」という字には古くから、
-
強く迫る
-
余裕がない
-
軽々しく扱えない
といった意味が含まれてきました。
こうした用法を踏まえると、
「大切」とはもともと、
非常に差し迫っていて、放っておけない状態
を表す言葉だったと考えることができます。
3章｜なぜ「切る」が、差し迫る意味になるのか
では、なぜ「切る」という字が、
「差し迫る」「切実である」という意味を担うのでしょうか。
「切る」という行為は、
単に壊すことや断つことだけを意味しません。
切ることで、
-
ここまでと、ここから
-
続く状態と、変わってしまう状態
-
戻れる可能性と、戻れない結果
が、はっきりと分かれます。
「切迫している」とは、
その分かれ目が、すでに目前まで近づいている状態だと
捉えることもできます。
越えてしまえば、
状況が決定的に変わってしまう。
だから人は、そこに強い重みを感じるのです。
4章｜差し迫る言葉が、「守る」意味へ広がった理由
「大切」は、
差し迫った重大さを表す言葉として使われながら、
次第に意味を広げていきました。
差し迫って重要
↓
軽視できない
↓
雑に扱えない
↓
丁寧に扱うべき
この流れの中で、
-
人を大切にする
-
時間を大切にする
-
命を大切にする
といった使い方が定着していきます。
守るという意味は、
最初から備わっていたというよりも、
切迫という緊張感を土台にして広がった意味
だと考えると、自然に理解できます。
5章｜文化的な意味──なぜ「大切」は重く感じられるのか
日本語の「大切」には、
どこか静かな緊張感があります。
それはこの言葉が、
失えば分かれてしまうかもしれない
という前提を、今も内側に残しているからかもしれません。
だからこそ、
-
無造作に扱えない
-
意識が向き続ける
-
雑にできない
という態度が、
言葉の使い方として自然に求められます。
6章｜大切の使い方と例文
自然な使い方
-
この写真は私にとって大切な思い出です
-
家族との時間を大切にしたい
-
命を大切にしてください
不自然な例
-
✕ 大切な書類を雑に扱う
（言葉の意味同士が矛盾します）
まとめ｜大切とは、差し迫る重みを知ること
大切とは、
何でも守ることではありません。
何でも残すことでもありません。
それは、
-
失えば取り返しがつかない
-
越えれば状況が変わってしまう
-
だから軽々しく扱えない
そうした切迫した重みを、
今に伝えている言葉です。
「大切」は、
やさしく見える言葉でありながら、
もともとは
差し迫る分かれ目を意識させる言葉だったのです。
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