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このブログはブログシリーズ「数と計算の進化」⑦です。
まとめはこちらから▶数と計算の進化|アバカスから加算機、バロースまで“機械が数える時代”の全史まとめ
前の記事はこちらから▶⑥世界初の実用加算機「パスカリーヌ」とは?ブレーズ・パスカルが作った“考える道具”
第0章|導入──機械に“考えさせる”という発想
➕ 機械は「足し算」まではできるようになった
シッカート、そしてパスカルによって、数を“機械で数える”という夢は現実のものとなりました。
パスカリーヌによって加算・減算はある程度自動化された──
でも、次の問いが自然と生まれます。
「掛け算も、割り算も、機械にできるのか?」
この問いに、真正面から挑んだ人物が現れます。
それが、**ゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz)**でした。
🧠 数学者であり、哲学者であり、発明家でもあった男
ライプニッツは、17世紀ドイツが生んだ“超人的な知性”の持ち主。
数学・物理・論理・法学・神学・歴史・言語などあらゆる分野に精通し、
現代の微積分学・記号論理・計算理論の礎を築いた存在でもあります。
実際、彼はあのアイザック・ニュートンと「微積分の発明」を巡って対立した相手でもあり、
2人の大天才が“数をどう扱うか”を競い合った時代でもありました。
🛠️ ライプニッツの挑戦──加算機では終わらせない
パスカルが作った加算機(パスカリーヌ)は、
確かに実用的な装置でした。
しかし、それはまだ単一機能の道具にすぎなかったのです。
ライプニッツが目指したのは、
**「数を扱う思考そのものを、機械で再現する」**こと。
人間のように、数を操れる装置。
足し、引き、掛け、割る──そんな“知的な機械”。
それが、彼が設計・製作した**ステップレコナー(Stepped Reckoner)**でした。
このブログでは、
・なぜ掛け算・割り算が必要とされたのか?
・ライプニッツとはどんな人物だったのか?
・ステップレコナーの構造と革新性とは?
・なぜ完成しきらなかったのか?
をたどりながら、**「コンピュータの始まり」**を感じられる機械史をひもといていきます。
第1章|なぜ四則演算が必要だったのか?──商業・科学の計算需要
💼 加減算だけでは足りなくなってきた
17世紀後半、ヨーロッパは交易の拡大・科学の加速・測量や軍事の合理化などにより、
日常的に扱う数の量も複雑さも、格段に増していました。
-
商業では為替・利子・取引計算
-
天文学では軌道計算や時刻測定
-
測量・地図作成では面積・距離の正確な算出
-
軍事では兵站・弾道計算・物資配分
こうした現場で求められていたのは、
**「とにかく速く、正確に、大量に処理できる」**という能力でした。
➕ 足し算・引き算の限界
加算機(パスカリーヌ)で足し算や引き算はある程度自動化できました。
しかし──
乗算や除算は、まだ“人間の頭”で処理しなければならなかったのです。
たとえば掛け算は、加算を何度も繰り返す操作。
でも人の手で何十回もダイヤルを回すのは非効率。
割り算はさらに煩雑で、推測と検算の繰り返しを含む操作でした。
つまり、「計算を機械に任せる」という理想には、まだ足りないピースがあったのです。
🧠 数学の抽象性が、計算機に追いついてきた時代
さらに背景には、数学そのものの発展もありました。
17世紀はデカルト・パスカル・フェルマー・ニュートン・ライプニッツらが活躍し、
「数は操作できるもの」「記号で処理できるもの」という考え方が広まり始めていたのです。
数はただ“数える”ものではない。
操作し、論理的に扱う“記号”である──。
この発想のもとで、「四則演算すべてを機械化する」という夢は、
単なる便利グッズではなく、“人間の思考を道具にする”という哲学的挑戦でもありました。
第2章|ライプニッツという天才の肖像
🧠 万能の知性──法学から論理学、哲学から計算機まで
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646–1716)は、
ルネサンスの“万能人”を地で行く存在でした。
-
法学者として大学を卒業し(15歳)、
-
数学者として微積分を発見し、
-
哲学者としてデカルトやスピノザと並び称され、
-
言語・論理・歴史・外交・図書館設計までこなすという
まさに**「知のインフラ」を構築したような男**でした。
彼は、**“人間の知性をいかに体系化するか”**に生涯を捧げ、
その一環として「機械で考える」というテーマにも本気で向き合っていたのです。
📐 微積分の同時発見──ニュートンとの知の対立
ライプニッツといえば、必ず語られるのがアイザック・ニュートンとの微積分論争です。
-
ライプニッツ:記号的・抽象的・論理的(dx, dy, ∫記法)
-
ニュートン:運動や自然現象との結びつき(fluxions 記法)
2人はほぼ同時期に微積分を独立発見したとされますが、
ライプニッツが先に論文を発表したため、
後にニュートン側から盗用疑惑をかけられ、大論争に発展。
実際は両者が独立に発見したと現在では整理されていますが、
この一件からもわかるのは、ライプニッツがいかに先進的で、
記号処理や計算アルゴリズムに強い関心を持っていたかという点です。
🔁 「人間の知能は記号操作である」
ライプニッツが後世に残したもっとも深い思想のひとつがこれです。
思考とは、記号(symbol)の操作である。
ならば、その操作は機械でもできるはずだ──。
これはまさに、のちのチューリングマシンやAIに通じる根本思想。
そして彼は、それを手回し計算機という具体的な装置として設計しようとしたのです。
第3章|ステップレコナーとは?──階段歯車が生んだ掛け算マシン
⚙️ ステップレコナー=加減乗除を目指した“万能計算機”
1673年、ライプニッツは自身が設計した新たな計算機を紹介します。
その名も**「ステップレコナー(Stepped Reckoner)」**。
これは、単なる加算機ではありませんでした。
目的は、加算・減算・乗算・除算──すべての四則演算を一台で処理すること。
これは当時としては圧倒的に野心的な挑戦でした。
🪜 ライプニッツ歯車──階段状の歯がもたらした“桁数制御”の革新
ステップレコナーの技術的核心は、**「ライプニッツ歯車(stepped drum)」**と呼ばれる特殊な歯車構造です。
この歯車は、円筒の周囲に階段状の歯(長さの異なる突起)が並んでおり、
ダイヤルを回すごとに歯の高さ=回転回数=加算回数として処理されます。
つまり、これ1つで──
-
加算を桁ごとに繰り返すことで掛け算を実現
-
逆方向に回せば減算・割り算も可能に
桁上がり・桁下がりの処理までもが、完全に歯車の構造だけで実現されていたのです。
🖐️ 操作方法も直感的だった
-
数字の入力は、桁ごとのスライドレバーで指定
-
演算操作は、クランクを回すだけ
-
結果は、機械上部のウィンドウに表示
まさに、**人の操作を最小限にしながら、多桁演算を実現する「知能的な機械」**でした。
🏛️ 現存する実機と再現モデル
ステップレコナーの現物は一部が現存しており、
ドイツ・ハノーファーなどの博物館で展示されています。
また、20世紀には構造図に基づいて複数の再現機も製作され、
その精緻な仕組みは多くの技術史研究者に驚きを与えました。
🔁 当時の技術では「すごすぎて動かない」
実はこの装置、設計は完璧でしたが──
製造精度が時代に追いついておらず、誤作動が多かったのです。
これが次章につながる「完成しなかった理由」となります。
第4章|完成には至らず──誤作動と技術の限界
🔧 設計は完璧だった。しかし動かなかった。
ライプニッツのステップレコナーは、構造的には非常に先進的でした。
実際、後の機械式計算機にその原理が受け継がれていくほど、歯車機構の完成度は高かったのです。
──それでも、当時は「動かない」と言われていました。
最大の問題は、精密機械としての加工精度。
-
歯車が滑らかに噛み合わない
-
桁上がり時に歯飛びや逆回転が起きる
-
特に除算処理では、途中で止まったり計算がズレる
など、実用レベルには届かないトラブルが続出していたのです。
🛠️ 「技術の限界」が生んだ“知的失敗”
この失敗は、決してライプニッツの発想が悪かったわけではありません。
むしろ逆で──
ライプニッツの頭が、当時の金属加工技術より200年進んでいた。
とも言える状態でした。
事実、彼の設計をもとにした「ライプニッツ歯車」は、
19世紀後半にオドナー式計算機やバロース加算機などでようやく安定動作するようになるのです。
📜 それでもステップレコナーは“失敗”ではない
たとえ誤作動が多かったとしても、ライプニッツはこう残しています:
「この機械によって、数を扱う手間から人類を解放することができるだろう。」
つまり、彼はすでに**“人類の知的作業を機械化する”という未来のビジョン**を見ていたのです。
この装置が完成していなかったとしても、
ライプニッツが与えた影響は、構造技術よりも哲学的・理論的側面にあったのです。
第5章|ブレークスルーポイント:四則演算を“記号処理”にした男
🔣 ライプニッツの革命は「記号」と「演算」の結びつけ
ステップレコナーの設計思想において、
最も重要だったのは、計算を“物理操作”ではなく“記号操作”として捉えた視点でした。
「思考とは記号の操作である」──ライプニッツの有名な命題です。
彼は、数・記号・論理をすべて抽象的な記号体系に置き換えて処理可能にするという
“計算=論理”という視点を持っていました。
これにより、加減乗除は単なる算術ではなく、記号的知能が扱う処理対象へと格上げされたのです。
🧠 四則演算=記号処理としての自動化
ライプニッツは、加算・減算だけでなく、
掛け算・割り算にまで対応させたことで、
**「あらゆる計算は記号操作に還元できる」**という考え方を機械の中に組み込みました。
-
加算 → 簡単な回転
-
掛け算 → 繰り返し加算の記号化
-
除算 → 桁単位での逆演算(アルゴリズム化)
これは、のちにチューリング、ブール、バベッジ、フォン・ノイマンらが
論理演算とコンピュータの基礎に取り入れることになる視点そのものです。
🧩 「思考を機械で処理できる」という未来の予感
ライプニッツは、計算機を通じて次のようなビジョンを描いていました:
「論理・言語・数値を、すべて記号で扱えるようにすれば、
最終的には人間の思考そのものを計算できるようになるだろう」
これは現代のコンピュータ・AI・情報科学の核心そのものです。
つまり、ライプニッツは「計算機」を作ろうとしていたのではなく、
“思考を再現する装置”を目指していたのです。
第6章|まとめ──ステップレコナーは、コンピュータの祖先だった
🔁 機械が“数える”から、“考える”へ
パスカルの加算機は「数を数える」ものでした。
しかしライプニッツのステップレコナーは、
それに**“掛け算・割り算=演算の自動処理”**という次元を加えました。
計算とは、人間の思考の一部である──
それを歯車と記号で実装しようとしたのがライプニッツでした。
この発想こそが、現代のコンピュータに連なる根本的なパラダイムシフトだったのです。
🧠 構造ではなく、思想が未来を変えた
ステップレコナーは、実用面では成功とは言えませんでした。
誤作動が多く、商品化もされず、世に広まることはなかった。
──それでも、この装置が残したものは計り知れません。
-
記号処理による演算の一般化
-
加減乗除という計算体系のアルゴリズム化
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思考の外部化という発想
-
コンピュータ哲学の起点
ライプニッツの**“完成しなかった機械”**は、
完成された理論と未来の概念を私たちに残してくれました。
🚀 次の時代へ──数が「社会の道具」となる産業化へ
ライプニッツが「記号としての数」に光を当てたあと、
次に登場するのは──数を商業の現場で本格的に使えるようにした人物です。
👉 それが、1820年のアリスモメーター(コルマー)。
次回は、加算機が数学者の道具から、社会の道具へと変わっていく過程を見ていきます。
▶次に読みたい記事 「数と計算の進化」⑧アリスモメーターとは?トマ・ド・コルマーが発明した加算機が“社会の道具”になった日
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🖊ブログシリーズ「数と計算の進化」はこちらから
まとめ記事▶数と計算の進化|アバカスから加算機、バロースまで“機械が数える時代”の全史まとめ
①数字の起源はメソポタミアだった?文明が生んだ“数える力”の正体とは
②ゼロは誰が発明した?位置記数法と“0”が世界を変えた数学革命の物語
③そろばんの起源と歴史──人類最古のアナログ計算機「アバカス」とは?
④筆算の歴史と仕組み──アナログから紙へ、計算が技術になった瞬間
⑤世界初の加算機とは?ヴィルヘルム・シッカートが生んだ“機械が数える”革命
⑥世界初の実用加算機「パスカリーヌ」とは?ブレーズ・パスカルが作った“考える道具”
⑦当記事
⑧アリスモメーターとは?トマ・ド・コルマーが発明した加算機が“社会の道具”になった日
⑨オドナー式加算機とは?──世界標準となった“回すだけ”の計算機
⑩バロース加算機とは?──“記録する機械”が事務と産業を変えた日
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