柿色とは?──オレンジじゃない“日本の生活文化が生んだ色”を徹底解説【由来・意味・歴史・柿渋との関係】

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🔶 0章|導入──「柿色って必要?」と思われがちな、その存在理由


柿色(かきいろ)という色名を聞くと、
「オレンジ色でよくない?」
「柿で色名つくるほど特別?」
そんな疑問を持つ人も少なくありません。

実際、現代の色体系では柿色は“オレンジ系の一部”として扱われます。
けれど──日本の伝統色としての柿色は、
単なるオレンジの仲間では語りきれない深さをもっています。

なぜなら柿色は、
「果実の鮮やかな橙」+「生活に根づいた渋色」
という、二つの色の記憶が重なってできた特別な色だからです。

桜色が“花の色”、
桃色が“春と生命の色”であるように、
柿色もまた 果物の色から始まった伝統色です。

しかし、ここにひとつ特徴があります。

柿という植物は、
果実を食べ、
葉を薬にし、
木を日用品に使い、
渋を防水・補強に使い──
**生活のあらゆる場面に登場する“総合的な生活植物”**でした。

だからこそ、人々の記憶の中で
「柿の実の明るい橙」
だけでなく、
「柿渋の道具がもつ温かい赤茶」
「木や紙が帯びる素朴な橙」
といった色味までもが、静かに折り重なっていきます。

つまり柿色とは、
果実の鮮やかな橙を起点にしながら、
暮らしの中で“深み”を獲得していった日本ならではの橙色。

その温度は、橙(だいだい)や朱(しゅ)よりもやわらかく、
“自然素材の気配”がほのかに残る色です。

華やかではないのに、なぜか心に残る。
それは、単なる“色味”ではなく、
日本人の暮らしと季節を映し続けた色の記憶が宿っているから。

柿色とは、そんな
生活と自然が共に育ててきた、やさしい橙なのです。


🔶 1章|柿色の特徴──橙より深く、赤より軽い“日本のオレンジ”


柿色は、現代的な「オレンジ色(橙色)」とは少し違います。
一言でいうなら、

赤のぬくもりを残しながら、橙より渋みがある“和の橙”

という立ち位置にあります。


柿色の立ち位置──橙系の中の“赤寄り”ポジション

柿色は、橙(オレンジ)と朱(しゅ)の中間に位置します。

  • 橙色 … 明るく鮮やか

  • 朱色 … 赤みが強く力強い

  • 柿色 … この2つの“あいだ”で落ち着いた温度感

日本の自然光の中で「馴染むオレンジ」として選ばれ続けた理由は、この 渋さ×あたたかさ のバランスにあります。


近い色との違い

● 橙色(オレンジ)

  • 西洋由来の鮮やかな発色
    柿色はもっと“土の温度”をもつ落ち着いた橙

● 朱色

  • 赤の力が前面に出る
    柿色は赤より軽く、柔らかい

● 黄丹(おうに)

  • 黄みが強い明るい伝統色
    柿色は黄より赤側に寄り、深みが出る

柿色はこのどれでもなく、
“自然と生活の色彩”から生まれた和独特のオレンジです。


光学的にはどんな色?(RGBバランスで見る)

柿色は、

  • R(赤)…高い

  • G(緑)…中程度

  • B(青)…低い

というバランス。

波長の印象でいえば、
580〜600nm(橙〜赤)付近の反射が強い暖色です。

鮮やかすぎず、くすみすぎない理由はここにあります。


カラーコードで見る“具体的な柿色”(参考値)

柿色は素材・染め方で幅があるため「絶対値」はありませんが、
和色として一般的に参照されるのは次の近似色です。

● HEX(カラーコード)

#ED6D3D

● RGB(ディスプレイ)

  • R:237

  • G:109

  • B:61

● CMYK(印刷向け参考値)

  • C:0%

  • M:65%

  • Y:80%

  • K:7%

👉 RGBは「赤が強く、緑がそこそこ、青が弱い」という典型的な“和の暖色”。
👉 CMYKでは“赤みの強い橙”寄りのバランスになるのが特徴。


🔶 2章|なぜ“柿”が色名に選ばれたのか?──橙ではなく柿だった理由


「オレンジ色でよくない?」
「わざわざ柿だけ独立させる必要ある?」

そう思われがちな柿色。
しかし、柿が色名になった背景には、
日本独自の自然環境・植物分布・生活文化が深く結びついています。

結論からいえば──

柿色は“果実の鮮やかな橙”を語源とし、
その後、生活文化の中で独自の意味を獲得していった色。

ここを誤ると説明が迷子になるので、
まずは“語源”と“文化的定着”を明確に切り分けて説明します。


① 柿は“日本で最も身近な鮮色”だった(=色名の語源)

平安や鎌倉の時代には、
いまのような“オレンジ色の果物”は多くありませんでした。

みかん(橙)が広く普及するのは室町〜江戸以降で、
鮮やかな橙系の染料づくりも限られていました。

その中で、秋に濃い朱橙へと色づく柿の実は、
当時の人々にとって もっとも身近で印象に残る橙色 だったと考えられます。

現代の色解説や和色資料では、
柿色を 「柿の実を思わせる赤みの橙色」 とする説明が広く見られます。

つまり、
語源としては“果実の色”を起点に捉えるのが自然 という点は、おおむね共通しています。

柿色が独立した色名として立ち上がった最初の理由も、
まずはこの“鮮やかな果実の橙”にあります。


② しかし“柿は果実だけの存在ではない”──生活文化の中心だった

柿が色名として強く定着したのは、
果実の色が美しかったから…だけではありません。

もっと大きな理由があります。

柿は古代から近代まで、
日本の暮らしに“総合的に”関わる植物でした。

  • 果実を食べる

  • 葉を薬や保存に使う

  • 木を道具や器に使う

  • 渋を防水・補強に使う

ここまで多用途な植物は珍しい。

だからこそ、
日本人にとっての「柿の色」は
果実の色 + 道具に残る渋の色 + 木の温度
といった複数の記憶が重なり合う色になっていきました。


③ 柿渋は“語源ではない”が、“色のイメージを広げた”決定的存在

誤解されやすいポイントなので、ここは丁寧に。

  • 柿渋は本来 染料ではなく“塗料・防水剤”

  • 渋の色は 茶色〜赤茶まで幅が広い

  • 果実の橙とは必ずしも一致しない

つまり、

柿渋染めが“柿色の語源”ではない。

これは学術的に正しい立場です。

しかし──
日用品に塗られた渋色が日常の景色になったことで、

  • 赤みのある茶

  • 木地に馴染む橙

  • 日焼けして深まる褐色

こうした色の記憶が、
「柿」という語の中に折り重なっていきます。

語源は果実。
色の厚みをつけたのは、生活に残る渋の色。

この二層構造が、伝統色としての柿色をより豊かにしました。


④ 日本文化の中心は“赤”──柿色が受け入れられた根本理由

朱・丹・緋(あか)は、
古来から 生命・祭祀・魔除け を象徴する日本の中心色。

日本人の色文化は、
はっきり言えば “赤文化圏” にあります。

柿色はこの赤文化に極めて自然に溶け込む、
赤寄りの橙

  • 橙より“赤の仲間らしい”

  • 朱より柔らかく、日常に落とし込みやすい

そのため、
和の色体系の中で“独立した名前を与える価値のある橙”として扱われました。


⑤ “生活に残りやすい色”だった──色名として強く記憶された理由

花の色は季節で消えていくが、
柿渋は道具として何年も残る。

そのため、

  • 木工品

  • 和傘

  • 金具の下地

こうした生活の中に“柿っぽい橙〜赤茶”がいつも存在した。

長く残る色 → 色名として記憶される → 伝統色として確立

この流れは、柿色を説明する上で非常に重要です。


🔶 3章|柿色の歴史──素朴でありながら力強い“生活の色”


柿色は、華やかではありません。
けれど、**日本の伝統色の中でもっとも“生活に根づいた橙色”**といえます。

なぜならこの色は、
貴族の装飾でも、武家の儀礼でもなく、
暮らしそのものから育った色だから。

果実の明るい橙に始まり、
道具に残る渋色が寄り添い、
民藝の再評価によって文化の色へと成長していきました。

日本人の手仕事と生活が、
ゆっくりと“柿色”という名前に深みを与えてきたのです。


① 縄文~古代──“果実の橙”と“渋の色”が最初に出会う

柿は縄文時代にはすでに採取され、
古代には栽培も行われていたと考えられています。

果実として食べる

乾燥させて保存する

渋を塗って防水・防腐に使う

といったかたちで、
柿は早い段階から「食・保存・道具の補強」に関わる多用途な植物だったとみられます。

遺跡の調査では、木器や土器などから
タンニン系の成分が検出される例もあり、
柿渋を含む植物由来の渋が

道具の保護や補強に使われていた可能性

が指摘されています。

こうした暮らしの中で、

柿の果実の鮮やかな橙
×
渋の落ち着いた赤茶

という“二つの色の記憶”が、
少しずつ人々の視界に重なっていったのでしょう。

まだ「柿色」という色名はありませんが、

明るい果実の橙
渋が残した赤茶のニュアンス

という二面性は、すでにこの頃から
人々の日常風景のどこかに、確かに存在していたはずです。


② 江戸時代──“働く色”として人々の暮らしを支えた

江戸時代、庶民の装いは質素であるよう求められ、
派手な色は禁じられていました。

そんな中で、柿渋は

  • 安価で手に入る

  • 水に強い

  • 汚れが目立たない

  • 日光に強く、長持ちする

という理由から、
町人たちの“実用の色”として圧倒的な支持を得ます。

渋染めの布や紙は、
明るい橙から深い赤茶まで幅のある色を帯びていましたが、
そのどれもが
“働く手と日常の風景に馴染む暖色”でした。

武家の紫、
貴族の朱、
そして庶民の柿色。

そんな光景が浮かぶほど、
柿色は生活の中にしっかりと根づいていったのです。


③ 近代──民藝運動が“素朴な日本の色”として再評価

大正~昭和初期、柳宗悦を中心とした民藝運動が広がると、
日本各地の手仕事が“美”として見直されました。

その中で、自然素材で染めた柿渋の品は
「日本の素朴な美」を象徴する存在として高く評価されます。

この頃になると、西洋文化の流入によって
オレンジ、ブラウンといった色名も一般化していきますが、
日本の柿色はそれらとは系統が異なる、

  • 自然の橙

  • 養生の色

  • 素材が呼吸するような暖色

として、独自の価値を保ち続けました

つまり柿色は、
国際的な色名の流れに埋もれず、
“日本の生活の色”として生き残った伝統色なのです。


④ 現代──「和のオレンジ」として改めて注目される

いまのデザインや生活文化でも、柿色は確かな存在感を持っています。

  • 和食器

  • 和菓子のパッケージ

  • 旅館・和モダン空間のアクセント

  • 地域ブランドのテーマカラー

明るすぎず、暗すぎず、
日本の木造建築や自然光と相性が良いオレンジとして、
再び人気が高まっています。

人工的なオレンジとは異なる、
“人の手と時間が生む橙”。
それが現代の柿色の魅力です。


🔶【3章まとめ】

  • 柿色は古代から視界にあった果実の橙と、渋の赤茶の記憶が重なった色

  • 江戸では庶民の“働く色”として定着

  • 民藝運動によって「日本の素朴な色」として再評価

  • 現代では「和のオレンジ」として再び注目

柿色は、華美ではない。
しかし“生活に密着した色”として積み重ねてきた歴史が、
この色に他にはない温かさと深みを与えているのです。


🔶 4章|柿色の光学と化学──果実・葉・渋、ひとつの植物が紡ぐ“三つの色”


柿という植物は、
ひとつの木からまったく違う色を生む不思議な存在です。

  • 果実 → 明るい橙(カロテノイド)

  • 葉 → 深い緑(ポリフェノール+クロロフィル)

  • 渋 → 赤茶〜橙(タンニンの酸化)

同じ植物なのに、
色の正体はすべて違う化学で動いている。

だからこそ「柿色」は、
単なる果物の色を指すのではなく、
“植物としての柿”が持つ複合的な色の記憶から生まれた名前なのです。

ここでは、
果実 → 葉 → 渋
の順に、柿という植物がどんな色素を隠しているのかを、
科学を使いながら“わかりやすく”紐解きます。


① 柿の実──あの鮮やかなオレンジは「カロテノイド」の発色

柿の実を見て「柿色だ」と直感する人は多いはず。
しかし科学的には、これは柿色の本体ではありません

果実の鮮やかな橙は、
**カロテノイド(とくに β-クリプトキサンチン)**が作る色です。

  • ニンジン

  • みかん

  • パプリカ

と同じ“橙〜黄の色素”で、
成熟に伴って濃くなります。

しかしカロテノイドは、

  • 水にほぼ溶けない

  • 布や紙に定着しづらい

  • 安定した色として残りにくい

という性質があるため、
歴史的に染料として使われたことはほぼありません

👉 つまり、
「果実のオレンジ」は“食の色”であって“染めの色”ではない。

この点が、
「柿色=渋染めの色」という文化的定義につながっていきます。


② 柿の葉──緑の正体は“クロロフィル+ポリフェノール”

柿の葉はしっかりとした深い緑をもちます。
これは

  • クロロフィル(葉緑素)

  • フラボノイド、タンニンなどのポリフェノール類

が組み合わさって生まれる色です。

葉が乾燥すると茶色になるのは、
ポリフェノールが酸化して褐変するため。

しかし葉の色素も、

  • 水に弱い

  • 色がすぐ変化する

  • 定着しづらい

ため、染料としては不向き

👉 よって、
柿の葉の色は“植物の生理”として重要でも、
“柿色”という色名の由来にはほぼ関わっていません。


③ 柿渋──日本最古級の“タンニンの酸化色”がつくる、本物の柿色

そして本題。
柿色という色名の核になるのが、
渋柿から作る「柿渋」です。

柿渋の主成分は カキタンニン(ポリフェノール)
このタンニンが、

  • 空気に触れる

  • 日光を浴びる

  • 時間が経つ

ことで 酸化 → 重合 → 褐色化 し、
独特の“柿色”を生みます。

色は素材によって変化します。

  • 紙 → 明るい橙に近い柿色

  • 布 → 赤みが強い落ち着いた橙

  • 木材 → 深い茶橙

👉 **柿色は、タンニンが時間をかけて熟成した“渋の色”**なのです。

果実の橙とはまったく別物。
むしろ“渋の色”のほうが、
日本文化では 定着した本来の柿色 といえます。


④ 同じ植物で3色生まれる理由──色素の役割が違うから

柿がこのように“色のパレット”のような植物になるのは、
それぞれの色素が担当している役割が全く違うためです。

部位 色素 役割
果実 カロテノイド 動物に食べてもらい種を広げる
クロロフィル+ポリフェノール 光合成+防御 緑・褐色
カキタンニン 防水・防腐・防虫 橙〜赤茶

つまり、

果実の色は生命戦略
葉の色は生理機能
渋の色は生存のための化学反応

役割が全く違うから、色も違う。

そのうち“生活に色を残した”のは渋だけ。
だから日本語の「柿色」は、
自然と “柿渋の熟成色” を指すようになったのです。


🔶【4章まとめ】

  • 果実のオレンジ:カロテノイド → 染料にならない

  • 葉の緑:クロロフィル+ポリフェノール → 変化が早く残らない

  • 渋の橙〜赤茶:タンニンの酸化 → 道具に残り、文化の色として定着

  • 柿色は “渋の色”が主役で、果実の色とは別物

  • 同じ植物が違う色を持つのは、色素の役割が異なるため

柿色とは、
自然の化学と生活文化がゆっくりと育てた“深い橙”。
果物の鮮やかさよりも、
手仕事の道具に宿る穏やかな橙が、本当の柿色なのです。


🔶 5章|なぜ柿は色名になったのか──“橙ではなく柿色”が残った理由


現代の感覚で見ると、

「オレンジでまとめればいいのでは?」
「柿色だけ独立しているのは不思議」

と感じる人も多いはずです。

しかし日本では、
柿色は 橙とは別の“独立した色名” として生き残りました。

その理由は、美術や流行ではありません。
もっと生活に根差した、文化・素材・言語の積み重ねにあります。

柿は、
見て・触って・使って・食べて・祈って、
あらゆるシーンで“日常の中心”を担ってきた稀有な植物でした。

その積み重ねが、
「柿色」という言葉を“日本語として必要な色名”にしたのです。


① 柿渋が“暮らしの必需品”だった──色名になるだけの存在感

柿渋は、縄文時代から生活を支えてきた万能素材。

  • 布・紙の補強

  • 網・縄・道具の防水

  • 防虫・防腐

  • 木材の保護

  • 和傘・下駄・籠の仕上げ

これほど“生活の隅々に浸透した植物由来の色”は、他にありません。

日常に常にあった色だから、
“自然と名前が生まれた”といえます。

👉 色名は生活の言葉。柿渋の存在感が、そのまま柿色を生んだ。


② 果物としても薬としても“特別”だった──文化的価値が名前を後押し

柿は単なる果物ではなく、
古代から“縁起物”でもありました。

  • 「柿が赤くなれば医者が青くなる」

  • 不老長寿の象徴

  • 神棚への供物

  • 秋の豊穣を示す果実

  • 干し柿文化(保存食)

果実としての価値、
薬効のイメージ、
季節の象徴…

こうした“文化的な特別さ”が、
色名としての強度を高めていきます。

👉 桜色・桃色が花の色であるように、
柿色は“生活と祈り”が生んだオレンジだった。


③ “オレンジ(橙色)”は外来。柿色は、日本語のオレンジだった

近代になり、

  • Orange(オレンジ)

  • 橙色(だいだいいろ)

といった言葉が入ってきます。
しかし、日本にはすでに 自前の橙〜赤茶系の色名 が豊富にありました。

  • 柿色

  • 纁(そひ)

  • 丹(に)

  • 砥粉色(とのこいろ)

  • 黄丹(おうに)

  • 代赭(たいしゃ)

外来語の“オレンジ”は鮮やかで人工的。
一方、柿色は“素材が育てた自然の橙”。

👉 カテゴリーが違うため、
横並びにされなかった。

結果として、

  • オレンジ=鮮やかな外来色

  • 柿色=素朴で生活的な和の橙

という 対照的な2つの概念 が成立したのです。


④ “酸化する色”は珍しかった──経年で深まる和の美意識

植物の色名は多くが「花色」に由来します。
しかし柿色は

渋(タンニン)が酸化して生まれる“時間の色”

  • 最初は薄い茶橙

  • 日光で深まる

  • 年月で艶が出る

  • 鮮やかさより「味」が増す

つまり柿色は
“変わっていくこと自体が美しい色” でした。

これは日本の美意識(侘び・寂び・経年変化)と極めて相性が良い。

👉 変化を肯定する文化が、柿色を特別な色にした。


⑤ 素朴なのに“上質感”がある──職人文化が支えたブランド力

柿渋染めの色は地味ですが、
実用品としての信頼性は圧倒的でした。

  • 柿渋紙

  • 渋扇

  • 和傘

  • 柿渋染めの暖簾

  • 木地の仕上げ

  • 籠や道具の染め

職人の手で長く使われた結果、
柿色は “素朴だけど上質” というイメージを獲得します。

これは単なるオレンジには出せないニュアンス。

👉 文化の中で育った“格”が、柿色を残した。


🔶【5章まとめ】

柿色が生き残った理由は、ひと言でいえば

柿が、日本の暮らしの中心にいたから。

  • 生活を守る素材(柿渋)としての存在感

  • 果物としての価値と信仰

  • 外来のオレンジとは別の日本語の色体系

  • 時間で深まる“酸化の色”という独自性

  • 職人仕事に受け継がれた上質性

色名は“文化の結晶”です。
柿色という言葉は、
橙(オレンジ)とは違う“生活と手仕事の歴史”を背負いながら、
今日まで残り続けました。


🔶 6章|まとめ──柿色は“生活が育てた、日本独自のオレンジ”


柿色という言葉は、
ぱっと見では「オレンジ色の一種」のように思えます。
しかし、ここまで見てきたように
その背景には 果実・渋・素材・歴史・暮らし が複雑に重なっています。

日本人が「柿色」という名前を残したのは、
単に果物の色を指したかったからではありません。

生活の中で見続けた“渋の色”が、
自然と名前を生んだ。

それが、柿色という色名の本質です。


① 柿渋という“生活の染料文化”が色名をつくった

日本最古級の染料である柿渋は、

  • 防水

  • 防腐

  • 防虫

  • 強度アップ

という実用的な働きで、
古代から近代まで暮らしを支え続けました。

網、籠、木地、紙、布……
道具を守るために塗られた柿渋の色は、
季節にも流行にも左右されず、
日常の中に長く残り続けた“生活の色”。

👉 色名として自然と定着する土台は、柿渋が作った。


② 果実のオレンジとは別物──“素材が育てる橙”

果実の鮮やかなオレンジはカロテノイド。
染料にならない儚い色。

対して柿渋の橙〜赤茶は、
タンニンが酸化して生まれる“変化の色”。

  • 日光で深まる

  • 水に強く残りやすい

  • 経年で味わいが出る

この “生きた橙” が、柿色の核になりました。


③ 外来のオレンジとは世界観が違う

明治になり「オレンジ」が日本に来ても、
柿色は消えませんでした。

なぜなら、
オレンジは“果実の鮮やかさ”を基準にした外来の概念で、
柿色は“素材の熟成”を基準にした和の概念。

👉 両者はそもそも別の価値観に属していた。

だから色名として併存し、
今でも使い分けられています。


④ 日本の美意識──変化・渋さ・素朴さ

柿色が特別なのは、

  • 華やかではない

  • 主張しない

  • しかし深みがある

という、侘び・寂びの美意識と一致しているからです。

光が当たると柔らかく、
影に入ると静かに沈む。

この “呼吸する橙” が、
日本の風景にも、職人の手仕事にも自然と馴染んできました。


⑤ 柿色は“生活と手しごとの記憶”そのもの

最後に、柿色の役割をひと言でまとめると、

柿色は、日本の生活文化が残した“職人の橙”である。

  • 道具を守った渋染めの色

  • 秋を告げる果実の色

  • 民藝が愛した素朴な色

  • 職人が育てた上質な色

  • そして、自然素材の変化をそのまま受け入れる精神

これらすべてが折り重なり、
“柿色”という名前に凝縮されています。

だからこそ、ただのオレンジでは置き換えられない。
柿色は、
日本人が自然とともに暮らしてきた記憶のひとつなのです。


🔶【最終まとめ】

  • 柿色は「果実の色」ではなく「渋の色」。

  • タンニンの酸化がつくる“時間の橙”。

  • 生活に最も浸透した伝統色のひとつ。

  • 外来のオレンジとは文化体系が別。

  • 職人文化と経年美がその色を支えてきた。

柿色は派手ではない。
しかし、静かに深く、美しく存在する。

橙やオレンジには出せない“日本の色”──
それが柿色の本当の姿です。


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