「いろはにほへと」から「あいうえお」へ|いつ・なぜ日本語の並び順は変わったのか?【文化と教育】

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0章|導入──なぜ日本語は「いろはにほへと」から「あいうえお」に変わったのか?


「いろはにほへと」「あいうえお」。
どちらも日本人なら誰もが知っている言葉の並びです。

しかし、ふと考えてみると不思議ではないでしょうか。
なぜ昔は「いろはにほへと」が使われ、今は「あいうえお」が当たり前になったのか。

これは単なる言葉の好みの問題ではありません。
日本語の並び順が変わった背景には、日本社会そのものの価値観の転換がありました。

本記事では、「いろはにほへと」から「あいうえお」へと移り変わった理由を、
文化・歴史・教育という視点からひも解いていきます。


1章|「いろはにほへと」とは何か?──詩としての仮名


「いろはにほへと」は、もともと**「いろは歌」**という一首の詩です。

色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず

この歌には、仏教的な無常観が込められています。
どんなに美しいものも、やがては散り、永遠ではない──という思想です。

同時にこの歌は、仮名を一度ずつしか使わない完全なパングラムでもあります。
つまり、文字を覚えるための実用性と、思想を伝える文学性が同時に成立していたのです。

「いろはにほへと」は、単なる文字の順番ではなく、
意味を持った並びだったと言えるでしょう。


2章|なぜ「いろはにほへと」が標準だったのか──中世〜江戸の文字観


中世から江戸時代にかけて、日本社会では「いろはにほへと」が広く使われていました。

その理由の一つが、寺院教育との相性です。
文字教育は仏教と深く結びついており、意味を持つ文章で学ぶことが重視されました。

また、「いろはにほへと」は記憶しやすいという利点もありました。
意味のある詩として覚えることで、自然と文字が身につくのです。

実際、江戸時代には、

  • いろは順の辞書

  • 商家の帳簿

  • 順番を示す「い・ろ・は」

など、生活のあらゆる場面で使われていました。

この時代、日本語の文字は思想と文化を伝える道具だったのです。


3章|「あいうえお」とは何か?──音から始まる合理的配列


一方で、「あいうえお」は「いろはにほへと」と違い、
意味を持つ文章ではありません

これは、言葉の意味や思想ではなく、
音そのものを整理するための配列です。

母音
a・i・u・e・o
を基礎に、そこへ子音を組み合わせて構成された五十音表は、
日本語の発音体系を非常にわかりやすく整理しています。

この構造によって、

  • 発音の仕組みが直感的に理解しやすい

  • 並びに強い規則性がある

  • 辞書・教育・分類に向いている

といった利点が生まれました。

ここで重要なのは、
五十音図(あいうえおの音配列)自体は、実は平安時代にはすでに存在していた
という点です。

ただし当時の五十音は、
文字の「並び順」として使われていたわけではありません。
あくまで、音韻を整理するための理論的な枠組みに近い存在でした。

つまり、

  • 中世:五十音は「音を理解するための構造」

  • 近代:五十音は「実際に使う並び順」

という役割の違いがあったのです。

意味や思想を背負った「いろはにほへと」に対し、
「あいうえお」は、意味を排し、構造に徹した配列でした。

この構造重視の性格こそが、
後の近代教育や標準化の時代において、
「あいうえお」が前面に出る土台となっていきます。


4章|「いろはにほへと」から「あいうえお」への転換点はいつ?──明治時代、日本語は再設計された


「いろはにほへと」から「あいうえお」への転換が起きたのは、明治時代です。

明治維新以降、日本は近代国家として再出発しました。
その中で重要だったのが、

  • 義務教育の普及

  • 識字率の向上

  • 西洋式学問の導入

です。

全国共通の教育制度を整えるためには、
誰にでも分かりやすく、再現性の高い文字体系が必要でした。

その結果、**音の構造が明確な「あいうえお」**が、
教科書・辞書・公文書の標準として採用されていきます。

明治20〜30年代頃から「あいうえお」が主流となり、
昭和初期には完全に逆転しました。


5章|なぜ「いろはにほへと」は退いたのか──合理性の時代へ


「いろはにほへと」が退いた最大の理由は、教育効率です。

いろは歌は美しく、文化的価値も高い反面、

  • 音の並びが体系的ではない

  • 発音教育に不向き

  • 外国語教育との相性が悪い

という弱点がありました。

近代国家に必要だったのは、
思想よりも実用性と標準化でした。

その結果、日本語は「文化の言語」から「教育の言語」へと性格を変えていったのです。


6章|それでも「いろはにほへと」は消えなかった──文化としての生存


実用の場から退いた「いろはにほへと」ですが、完全に消えたわけではありません。

今も、

  • いろは坂

  • いろは順

  • 和風デザイン

  • 商品名や作品タイトル

などで使われ続けています。

「いろは」には、

  • 日本的

  • 古風

  • 情緒的

といったイメージが宿っており、文化的象徴として生き残りました。

実用は「あいうえお」、文化は「いろはにほへと」。
この役割分担が、現代日本語の姿です。


7章|「いろはにほへと」と「あいうえお」比較まとめ──二つの並びが示す価値観


観点 いろはにほへと あいうえお
成立 中世 近代
性格 詩・思想 音・構造
背景 仏教文化 近代教育
重視点 意味 合理性

8章|並び順が映す、日本人の思考の変化


私たちは普段、無意識に「あいうえお」を使っています。
それは、効率や標準化を当然とする時代に生きているからです。

しかし、「いろはにほへと」を知ることで、
日本語が意味と情緒を大切にしてきた言語であることも見えてきます。

並び順の変化は、日本人の思考様式の変化そのものなのです。


9章|まとめ──文字の順番は、文化だった「いろはにほへと」から「あいうえお」へ


「いろはにほへと」から「あいうえお」へ。
この変化は偶然ではありません。

  • いろはにほへと=意味と思想の時代

  • あいうえお=構造と合理性の時代

文字の順番は、
その時代が何を大切にしていたかを映す鏡でした。

普段何気なく使っている「あいうえお」。
その背後にある歴史を知ることで、日本語は少し違って見えてくるはずです。


✍️コラム①なぜ「おえういあ」の順じゃダメなの?


母音の並びに「絶対に正しい順番」があるわけではありません。
理論上は「おえういあ」でも成立します。

それでも日本語が
あ・い・う・え・お
を選んだ理由は、音の流れにあります。

」は、口を大きく開いて出す、いちばん開放的な音。
始まり・原点・入口として直感的に分かりやすい音です。

一方「」は、口をすぼめ、音が内側に収束する感覚を持ちます。
日本語では、締め・落ち着き・終わりを連想させやすい音でした。

そのため、

  • あいうえお:開いて、整い、静かに収まる

  • おえういあ:閉じてから開き、流れが逆行する

という印象の差が生まれます。

日本語は、音が積み上がっていく流れを好む言語。
だからこそ、「おえういあ」という逆向きの並びは選ばれなかったのです。


✍️コラム②なぜ「入門」を「いろは」と呼ぶのか


私たちは今でも、
「○○のいろはを学ぶ」
という言い方を自然に使います。

これは、単に昔の文字の並び順が「いろは」だったから、
というだけではありません。

「いろは」は、文字の配列であると同時に、
意味を持った一つの詩でした。
そこには、物事は移ろい、永遠ではないという
仏教的な無常観が込められています。

つまり「いろは」とは、

  • 物事の最初に触れること

  • 基本を知ること

  • 考え方の土台に立つこと

を含んだ言葉だったのです。

そのため日本語では、
単なる手順や方法ではなく、
物事の考え方や心得を学ぶ場面
「いろは」という言葉が選ばれてきました。

「○○のいろはを学ぶ」という表現には、
技術以前に、まず意味を知る──
そんな日本語らしい学びの感覚が残っているのです。


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