ヒューベル&ウィーゼル──一次視覚野と単純型・複雑型細胞が解き明かす“脳が作る映像”

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第0章|目で見ている世界は脳が作る映像だった


日常に潜む「脳が作った視覚」の例

私たちは毎日、当たり前のように世界を見ています。
でも、あなたが見ているその景色は、本当に現実そのものなのでしょうか。

たとえば、こんな経験はありませんか?

  • 同じ色でも、背景が変わると明るさが違って見える
    → グレーの四角は、白背景では暗く、黒背景では明るく見える

  • 止まっている模様が動いて見える錯視
    → SNSや教科書でよく見る「動いていないのに回転して見える画像」

  • 映画やアニメが滑らかに動く不思議
    → 実際は静止画の連続なのに、脳が動きを補完している

これらはすべて、目が現実をそのまま映しているわけではなく、
脳が映像を加工して作り直していることの証拠です。


視覚は脳が描くもうひとつの世界

物理的に目に入るのは、光の波だけです。
網膜は光を赤・緑・青の3種類のセンサー(錐体細胞)で受け取り、
電気信号に変えて脳に送ります。

しかし、私たちが見ているのはこの信号そのものではありません。

  • 脳は信号を解析し、線や動き、形、色の情報を統合して世界を作る

  • 明るさや色は、周囲の文脈に応じて脳が自動で補正する

  • だから錯覚が起き、同じ光でも見え方が変わる

つまり、私たちの視覚は脳が描くもうひとつの世界なのです。


ヒューベル&ウィーゼルが証明した「脳が作る映像」

この脳の仕組みを科学的に解明したのが、
デイヴィッド・H・ヒューベルトルステン・N・ウィーゼルでした。

彼らは、網膜から入った光がどのように脳で映像に組み立てられるのかを明らかにし、
「私たちが見ている世界は脳が作った映像だ」ということを証明しました。


第1章|20世紀の視覚研究と一次視覚野の謎


視覚は長らくブラックボックスだった

20世紀初頭まで、人間の視覚の仕組みはほとんど解明されていませんでした。
光が目に入り、網膜が反応することはわかっていましたが、

  • その信号が脳でどのように処理されるのか

  • どの部位が映像を「見える世界」に変えているのか

は、完全なブラックボックスだったのです。

当時の科学にはMRIもCTもなく、生きた脳の活動を直接観察する手段はありません。
そのため、視覚の謎を解くには、動物実験と電気生理学が頼りでした。


ブロードマンの脳地図と一次視覚野

脳科学の基礎を築いたブロードマンは、脳皮質を50以上の領域に分類し、
その中に**17番:一次視覚野(Primary Visual Cortex, V1)**を位置づけました。

  • 後頭葉の奥にあり、網膜からの信号が最初に届く場所

  • 「見えた」という感覚の出発点と考えられていた

  • しかし当時は、具体的に何をしているのか不明だった

一次視覚野の正体を突き止めることが、視覚研究の次の大きな課題だったのです。


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視覚科学は臨床から基礎研究へ

20世紀中盤、電極を使って神経活動を測定する技術が発展し、
脳の活動をリアルタイムで記録する研究が可能になりました。

この流れの中で登場したのが、
ヒューベル&ウィーゼルによる視覚情報処理の研究です。

彼らは「光が脳に届いてから映像として認識されるまでのプロセス」を、
世界で初めて明確に解き明かすことになります。


第2章|ヒューベル&ウィーゼルとは誰か?視覚情報処理を変えた科学者


デイヴィッド・H・ヒューベルとトルステン・N・ウィーゼル

**デイヴィッド・H・ヒューベル(David H. Hubel, 1926–2013)**と
**トルステン・N・ウィーゼル(Torsten N. Wiesel, 1924–2023)**は、
20世紀の神経科学を代表する二人の科学者です。

  • ヒューベルはカナダ出身の神経生理学者で、脳の情報処理を専門に研究

  • ウィーゼルはスウェーデン出身の神経学者で、視覚神経の発達にも詳しい

2人はアメリカで出会い、視覚の脳内処理を解明するための共同研究を開始しました。
研究の舞台は、動物の視覚野に電極を挿入して神経反応を測定するという、
当時としては画期的かつ緻密な電気生理学実験でした。


ノーベル賞に輝いた視覚研究

ヒューベルとウィーゼルは、網膜から脳に届く光の信号が、
一次視覚野でどのように処理されているかを解明しました。

  • 光はそのまま映像になるのではなく、線・方向・動きなどの特徴に分解される

  • 脳は分解した特徴を組み合わせて、初めて「見える世界」を構築する

この発見は、視覚科学の歴史における大きなブレークスルーとなりました。
2人はその功績により、1981年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。


第3章|一次視覚野で発見した単純型・複雑型細胞


猫の実験で起きた偶然の発見

ヒューベルとウィーゼルの研究は、動物実験から始まりました。
彼らは猫の一次視覚野(V1)に微細な電極を挿入し、
網膜から届く光の刺激に対して神経細胞がどのように反応するかを調べました。

ある日、研究チームは思わぬ現象を観察します。
スライドを動かしているとき、スライドの縁が神経細胞を強く刺激し、
細胞が大きく反応したのです。

光の点では反応しなかったのに、線や縁が動くと反応する──。

この偶然の観察が、視覚情報処理の新しい扉を開きました。


単純型細胞と複雑型細胞の役割

ヒューベルとウィーゼルは、この反応の違いから
二種類の神経細胞を発見しました。

  • 単純型細胞(Simple Cell)

    • 特定の方向の線や縁にだけ反応する

    • 例:水平の線には反応するが、垂直の線には反応しない

  • 複雑型細胞(Complex Cell)

    • 動きや位置に応じて反応する

    • 例:線が動く方向やスピードに反応

この発見によって、一次視覚野が
光をそのまま映像として受け取るのではなく、特徴に分解して処理する場所であることが明らかになりました。


視覚は特徴に分解され、脳で再構築される

単純型・複雑型細胞の発見は、視覚の本質を示しています。

  1. 網膜で受け取った光は、まずRGBの3色情報として入力

  2. 視神経で反対色処理に変換

  3. 一次視覚野で線・方向・動きといった特徴に分解

  4. 高次視覚野で統合され、ようやく「見える世界」が完成する

私たちが当たり前に見ている世界は、
脳が特徴を抽出し、再構築した脳内映像なのです。


第4章|視覚情報処理の流れとRGB・反対色説の位置づけ


RGB三色説(ヤング=ヘルムホルツ)

視覚情報の最初の処理は、網膜にある錐体細胞で行われます。
この細胞は3種類あり、それぞれ特定の波長に敏感です。

  • L錐体:赤に敏感(長波長)

  • M錐体:緑に敏感(中波長)

  • S錐体:青に敏感(短波長)

この考え方はヤング=ヘルムホルツの三色説として知られ、
現代のディスプレイのRGBと同じく、色を3つの成分で捉えています。
つまり、網膜は人間にとってのRGBセンサーと言えます。


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反対色説(ヘリング)

次の段階で、視神経はRGBの情報を反対色チャンネルに変換します。

  • 赤 ↔ 緑

  • 青 ↔ 黄

  • 白 ↔ 黒(明暗)

この反対色説は、補色残像や錯覚を説明する理論として重要です。

たとえば、赤い四角を見続けてから白い壁を見ると緑の残像が見えます。
これは、赤の信号が疲れて抑制され、反対色である緑が強調されるためです。


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一次視覚野で脳内映像が完成する

RGB三色説と反対色説で整理された情報は、
一次視覚野(V1)に届くと、さらに形・方向・動きの特徴に分解されます。

  • 単純型細胞が線の方向を検出

  • 複雑型細胞が動きや形を検出

  • 特徴の組み合わせで「見える世界」が組み立てられる

つまり、私たちが見ているのは、物理的な光ではなく、
脳が再構築した映像=脳内の世界なのです。


第5章|脳が映像を階層的に再構築する原理


視覚情報処理の4段階

私たちが見ている世界は、光の情報が脳で段階的に処理されて生まれます。
ヒューベル&ウィーゼルの研究によって、視覚は次のような階層的な流れで処理されることが明らかになりました。

  1. 網膜(RGB三色受容)

    • 光は赤・緑・青の3チャンネルで電気信号に変換される

  2. 視神経(反対色処理)

    • 赤/緑・青/黄・白/黒のチャンネルに整理される

  3. 一次視覚野V1(特徴抽出)

    • 単純型細胞が線や方向を認識

    • 複雑型細胞が動きや形の特徴を認識

  4. 高次視覚野(統合と認識)

    • 特徴を組み合わせ、物体や顔、空間の情報として統合される

この流れによって、私たちは物理的な光を単なる刺激としてではなく、
意味を持つ世界として認識しています。


錯覚は脳の仕事を証明している

錯覚や色の見え方の変化は、脳が映像を作っている証拠です。

  • 同じ色でも背景によって明るさが変わるのは、脳が文脈を補正するから

  • 動いていない模様が動いて見えるのは、脳が動きを予測するから

  • 残像や補色現象は、反対色処理と神経の疲労によって起こる

デザインや色彩心理学、印刷の色再現は、
すべてこの脳の処理原理を理解することで、より効果的に行えます。


第6章|ヒューベル&ウィーゼル研究の後世への影響


心理学・デザイン・色彩理論への応用

ヒューベル&ウィーゼルの研究は、視覚神経科学の枠を超えて、
心理学やデザインの世界にも大きな影響を与えました。

  • 錯覚や残像の科学的説明

    • 視覚は光をそのまま受け取るのではなく、脳が加工していることが明確に

    • 錯視図形や色彩心理の理論的な根拠となった

  • 色彩デザイン・広告・UIへの応用

    • 脳が特徴を抽出して映像を組み立てる特性を理解すれば、
      視線誘導・印象操作・色彩設計がより精密に行える

  • 印刷やディスプレイの色再現

    • 見える色は物理現象ではなく脳の解釈であるため、
      RGBやCMYKを設計する際も心理的効果を意識できる

視覚は単なる光の物理現象ではなく、脳が作る心理現象である──
この理解が、現代のデザインや情報伝達の精度を高めています。


AI・画像認識・脳工学への展開

ヒューベル&ウィーゼルの発見は、人工知能や神経工学の発展にも直結しました。

  • CNN(畳み込みニューラルネットワーク)の着想

    • AIが画像認識で特徴を段階的に抽出する仕組みは、
      一次視覚野の単純型細胞・複雑型細胞の動作原理に基づく

  • 画像処理・ロボット視覚への応用

    • 線・方向・動きを認識するアルゴリズムは、視覚野の情報処理モデルから学ばれた

  • ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)への貢献

    • 視覚信号の理解は、脳波や神経信号を使った義手・義足、
      思考入力デバイスの開発にもつながっている

ヒューベル&ウィーゼルの研究は、
心理学からAIまで広がる視覚科学の礎となったのです。


第7章|まとめ:視覚は脳が描くもうひとつの世界


見えているのは光ではなく、脳が作る映像

ヒューベル&ウィーゼルの研究によって、私たちの視覚は脳の仕事であることが明らかになりました。

  • 光は網膜で赤・緑・青(RGB)に分解される

  • 視神経で反対色処理を経て情報が整理される

  • 一次視覚野で線・方向・動きなどの特徴に分解される

  • 高次視覚野で統合され、ようやく「見えている世界」が完成する

私たちが目にしているのは、外界の光そのものではなく、
脳が再構築したもうひとつの世界=脳内映像なのです。


ヒューベル&ウィーゼルが残した視覚科学の意義

  • 心理学・色彩理論への貢献

    • 錯覚や残像のメカニズムを科学的に説明し、
      デザインや広告、印刷表現の根拠となった

  • AI・画像認識・脳工学への応用

    • CNN(畳み込みニューラルネットワーク)やロボット視覚は、
      一次視覚野の情報処理モデルをヒントに発展した

彼らの研究は、20世紀の基礎科学にとどまらず、
21世紀のテクノロジーやデザインにも生きています。


脳が作る映像の理解が未来を変える

視覚は受動的なカメラではなく、
脳が世界を組み立てる能動的なシステムです。

この理解は、今後のデザイン・情報伝達・AI開発においても不可欠です。
ヒューベル&ウィーゼルの発見は、
視覚の科学から未来のテクノロジーへと続く、知の橋渡しとなりました。


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