呉須とは?焼く前は黒・焼くと青になる“酸化コバルトの青”を徹底解説|呉須色・絵付け・歴史まで

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0章|焼く前は“黒”、焼くと“青”──呉須の不思議へようこそ


陶磁器の世界で、いちばん長く愛されてきた色があります。
それが 染付(そめつけ)の青
白い磁器の上をすっと流れる藍色の線や、
にじんだ唐草模様。
あの「青と白」の組み合わせは、何百年ものあいだ、
日本の器の象徴として食卓を彩ってきました。

でも、この青が どこから来るのか を知っている人は意外と多くありません。
その青の正体が、じつは 呉須(ごす) と呼ばれる、
とても不思議な絵具なのです。


呉須は“焼く前は黒い粉”、焼くと鮮やかな青に変わる

呉須を見たことがある人なら、
まずその色に驚くはずです。

「……これ、黒じゃない?」

そう思うほど、呉須は 真っ黒な粉 です。
素焼きの器に描いても、やっぱり黒。
青らしさはどこにもありません。

ところが、ここからが呉須の本番です。
透明な釉薬(ゆうやく)をかけ、
1200℃以上の高温で焼くと……
黒い粉が、まるで生まれ変わるように 鮮やかな青 になります。

黒が青へ。
まるで魔法のようですが、これは化学の力と焼成の技の組み合わせで起こる、
陶磁器だけの特別な現象です。


なぜ黒が青に変わるの?──呉須の物語はここから始まる

「どうして黒い粉が青になるの?」
「紙に塗っても青にならないのに、なぜ器だけ青になるの?」

この素朴な疑問こそが、
呉須をめぐる物語の入り口です。

呉須の正体は、酸化コバルト
電子の並び方が、焼かれることで劇的に変わります。
そしてガラス質の釉薬のなかでコバルトが光を選び取り、
余った光が として私たちの目に届くのです。

この現象を理解すると、
染付の青がぐっと奥深く感じられるはずです。


このブログで分かること──呉須の青の“科学・歴史・技法”すべて

このブログでは、
呉須について気になるところを、
専門用語を噛み砕きながらお話ししていきます。

・呉須の正体(何でできているの?)
・なぜ黒から青になるの?
・紙では青くならないのに、なぜ陶磁器は青くなる?
・呉須色はどうしてあんなに深いの?
・呉須の描き方・流れ方・種類の違い
・呉須と赤絵の違い
・青花磁器から江戸時代の器文化までの歴史
・現代の有田焼、砥部焼、波佐見焼との関係
・呉須色は英語で何と言う?

これらを順番に解説することで、青と白の器は、ただの“模様”ではなく、
科学と歴史と職人技が交差した色の文化 なのだと実感していただけるはずです。


1章|呉須(ごす)とは何か──酸化コバルトを使う陶磁器専用の青絵具


呉須(ごす)は、陶磁器に“青”を生み出すためだけに存在する、
とても特別な絵具です。
私たちが日常で目にする白磁の器──
唐草、十草、山水図、濃淡の美しい染付(そめつけ)。

あの青はすべて、この 呉須 から生まれています。

しかし、実際の呉須をみると驚きます。
青いどころか、まず 真っ黒
素焼きの器に描いてもやっぱり黒。
青の気配はまったくありません。

にもかかわらず、焼成炉から取り出すと、
黒だった線がガラスの奥から 深く澄んだ青 として浮かび上がるのです。
その“黒から青への変化”が、呉須という絵具の本質です。


呉須=酸化コバルトを主成分とする“下絵付け用”の顔料

呉須の主成分は 酸化コバルト です。
コバルトは金属そのものは銀色ですが、酸化すると黒くなり、
その粉が呉須の基本形になります。

これを素焼きの器に描き、さらに釉薬(ゆうやく)をかけて焼くと、
酸化コバルトがガラス質に溶け込み、
透明感のある深い青に変化します。

呉須は、いわば
「焼く前は黒、焼くと青」という性質を持つ陶磁器専用の絵具」
なのです。

古くから陶芸家たちは、この黒い粉を「呉須絵の具」や「呉須顔料」と呼び、
染付の青を生み出すために使ってきました。


焼成前は黒(呉須黒)/焼くと青(呉須色)──独特の変化を楽しむ絵具

呉須は、描いた瞬間の黒がそのまま焼くと青になるわけではありません
筆の濃さ、釉薬の厚み、炉の温度、置く場所、焼きのムラ──
あらゆる要素が絡み合って、青の濃淡が生まれます。

薄く描いた部分はやわらかい水色に、
濃く置いた部分は深い紺色に。
にじんだところは自然なぼかしになり、
線のキレが出た部分は凛とした藍色になります。

同じ呉須でも、
器ごとに、さらには職人の一筆ごとに青が変わる。
その“揺らぎ”こそが呉須の美しさです。


陶芸の世界で愛される「呉須絵付け」「呉須染付」

呉須は主に 下絵付け に使われます。
素焼きの器の上に直接模様を描き、その上から透明釉をかけて焼く──
これが呉須絵付け、呉須染付と呼ばれる技法です。

唐草・十草・千筋・花文様など、
江戸以降の日本の器文化の多くが、この青で描かれてきました。

呉須の青は、凛とした透明感があり、
白磁とのコントラストが美しく、
和食とも相性が抜群です。

器にひと筆入れるたび、
黒が青に変わる未来までイメージしながら描く──
そんな時間そのものが、陶芸家にとっては楽しさの一つでもあります。


呉須と赤絵は“青と赤”、描くタイミングがまったく違う

呉須は「焼く前に描く青」ですが、
赤絵(あかえ)は「焼いた後に描く赤」です。

青(呉須)は釉薬の中に沈んで透明感を持ち、
赤(赤絵)は釉薬の表面にのるため、ハッキリとした装飾になります。
焼物文化では、この 青=呉須、赤=赤絵 の二本柱が発展を支えてきました。


2章|呉須はなぜ青くなるのか?──酸化コバルトの電子が並び替わる化学


呉須(ごす)が“黒から青に変わる”という現象は、
焼き物の世界だけに起きる、ちょっと不思議な化学反応です。

「黒い粉が、1200℃の炎に入ると青になる」
これだけ聞くと魔法のようですが、
実はしっかり科学で説明できます。

その鍵を握っているのが、
呉須の主成分である 酸化コバルト の電子です。


焼く前は光をほぼ全部吸収 → “黒”として見える

呉須の粉は、見た目は真っ黒です。
これは酸化コバルトが 光をほぼすべて吸収してしまう からです。

吸収する光が多ければ多いほど、色は黒に見えます。
つまり焼く前の呉須は、
光を返さない“黒い物質”として振る舞っています。

素焼きに描いたときに黒く見えるのは、このためです。


釉薬(ガラス)の中に溶けると、Co²⁺イオンが整列し“青”に変わる

大きな変化が起きるのは、焼きの工程です。

透明な釉薬は、高温で溶けるとガラスになります。
この“ガラスの中”に酸化コバルトが溶け込むと、
コバルトの電子の並び方が安定し、Co²⁺(コバルトイオン) になります。

この Co²⁺ の状態こそが、
呉須色の“青”を作る大本です。

ガラスに溶けたコバルトは、
光のうち 赤〜橙(あか〜だいだい) の波長を選んで吸収します。
すると、残った光=青系の光だけが反射されて、
私たちの目には「青」に見えるのです。

黒 → (釉薬で溶ける) → 青
という流れの正体は、この電子の変化にあります。


青は“残った光”だった──陶磁器だけ青くなる理由

紙や布に呉須を塗っても、焼かなければずっと黒いままです。
なぜなら、釉薬のような ガラス層がない からです。

呉須が青になる条件は、

  1. 高温で焼けること

  2. 釉薬のガラス層に溶けること

  3. コバルトイオンの構造が整うこと

この3つがそろってはじめて、赤〜橙の光が吸収され、
青い光だけが返ってくる世界が成立します。

陶磁器はこの条件をすべて満たすため、
呉須がもっとも美しく発色する舞台なのです。


“焼き物の青”が唯一無二なのは、科学と炎がつくる偶然性

釉薬の厚さが少し変わるだけで、
青は濃くも淡くもなり、にじみ方も違ってきます。

炉の中の温度ムラ、炎の流れ、置いた位置──
すべてが青の表情に影響します。

つまり、呉須の青は
“科学で決まる部分” + “炎が生むゆらぎ”
によってできています。

だからこそ、同じ呉須で描いても、
器ごとに違う青が出るのです。


📘 コラム|コバルトガラスの青も、呉須の青も──実はまったく同じ仕組みで生まれている


青い瓶や青いガラス器に使われる 「コバルトガラス」
じつはその青の正体、呉須の青とまったく同じ原理で生まれています。

ポイントはただひとつ──
コバルトが“ガラスの中”に入ること。

呉須の場合:

  • 釉薬が高温で溶けてガラスになる

  • そのガラスの中にコバルトが溶け込む

  • 赤〜橙の光を吸収 → 青が残って見える

コバルトガラスの場合:

  • 最初からガラスの原料にコバルトを混ぜて作る

  • コバルトがガラス内部で同じふるまいをする

  • 赤〜橙の光を吸収 → 青が残って見える

つまり、

呉須の青もコバルトガラスの青も、
“ガラスの中のコバルト”が作る同じ青。

釉薬(ガラス)も、ガラス瓶そのものも、
コバルトを溶かし込む“透明な器”として同じ役割を持っています。

だから、焼く前は黒い呉須が「焼くと青になる」。
そしてガラス瓶は「最初から青い」。
どちらも、コバルトが光を選んで吸収することで生まれる、
同じ“コバルトブルーの原理”なのです。


3章|呉須が“器専用の青”である理由──陶芸でしか成立しない発色


呉須(ごす)は、どんな素材に塗っても青になるわけではありません。
紙や布、樹脂、木、金属──
どこに塗っても黒いままです。

しかし、陶磁器にだけは鮮やかな青が生まれます。
しかも深く透明感のある、あの独特の“呉須色(ごすいろ)”。

なぜ陶磁器だけ、呉須の青が成立するのでしょうか?
その理由は、焼き物ならではの 温度・素材・化学変化 の組み合わせにあります。


1200〜1300℃の“高温焼成”があってはじめて青が生まれる

呉須の青は、
高温での焼成がなければ絶対に生まれません。

磁器の焼成温度は 1200〜1300℃
この高温で釉薬(ゆうやく)が溶け、
ガラスの層になります。

そのガラスに溶け込んだ酸化コバルトが、
電子の並びを変え、
赤〜橙の光を吸収して青を返す──
これが呉須色の正体です。

逆に言えば、
ガラス層が存在しないと、呉須はただの黒い粉 のままなのです。


焼いた呉須は“ガラスの一部”になるため、絵具として再び使えない

よく「呉須を焼いて粉にして絵具として使える?」という疑問がありますが、
答えは 使えません

理由はシンプルで、
焼かれた呉須は釉薬のガラス層の中に完全に溶けこんで、
もはや絵具の粒子ではなくなっているからです。

つまり、

呉須(黒い粉)→焼く→青い“ガラスの色”になる

という変化をしてしまうため、
焼いた状態では絵具としての役割を失っています。

これも、呉須が陶磁器専用の青である理由です。


染付(呉須染付)と上絵(赤絵・鉄絵)の違いで“青の位置”が変わる

呉須の青は、釉薬の“下”で発色します。
この技法を 下絵付け(したえつけ) と呼びます。

一方、赤絵(あかえ)や鉄絵は、釉薬の“上”に描き、
低温で焼き付ける 上絵付け(うわえつけ) の技法です。

  • 呉須(青)…釉薬の下で発色する → 透明感がある

  • 赤絵(赤)…釉薬の上で発色する → ハッキリした赤

この構造の違いが、
呉須だけが持つ“奥行きのある青”を生み出します。

呉須は釉薬の中に沈み、
まるでガラス越しに覗くような、落ち着いた藍色になります。


陶芸家は呉須の“濃さ・流れ・線”を操って青を作り分ける

呉須の青は、ただ焼けばできるわけではありません。
濃淡、にじみ、線の太さ、流れ方──
すべて職人の手によるコントロールです。

濃い呉須は深い青に、
薄い呉須は淡い水色に。

釉薬が厚いとにじみが増え、
薄いとシャープな線が出る。

十草(とくさ)、千筋、更紗、唐草……
文様の技法ごとに、呉須の扱いも変わります。

呉須の青は“職人の筆跡そのもの”。
器ごとに青が違う理由は、この手仕事にあります。


4章|呉須の使い方(陶芸)──下絵付けの技法と種類


呉須(ごす)は、ただの「青い絵具」ではありません。
陶芸の世界では、呉須をどう扱うかで
器の表情が驚くほど変わります。

ここでは、呉須を使った“下絵付け”の基本と、
実際の描き方・技法・呉須の種類まで、やさしく解説していきます。


素焼き → 呉須で描く → 釉薬 → 本焼き が基本の流れ

呉須は 素焼きの器 に直接描きます。
紙や布とは違い、素焼きは水分を吸うため、
呉須がスッと染み込み、独特の線が生まれます。

工程はとてもシンプルです。

  1. 素焼き(800〜900℃で一度焼いた器)

  2. 呉須で絵付け(筆で線・模様を描く)

  3. 透明釉をかける

  4. 本焼き(1200~1300℃)で呉須が青に変わる

呉須が黒から青に変わるのは、この本焼きの段階です。


呉須には3種類ある──天然・人工・調合呉須

呉須には、性質のちがう3種類があります。

① 天然呉須(天然コバルト)

かつては鉱石を粉にして使っていました。
鉄分が多く、やや黒みのある深い青を出します。
“にじみ”が強く、味わい深い青が魅力です。

② 人工呉須(精製コバルト)

現代の主流。
コバルトを精製して不純物を減らしたもの。
スッと澄んだ青が特徴で、ムラの少ない安定した発色。

③ 調合呉須(ブレンドタイプ)

陶芸家が自分で配合したり、
メーカーが用途別に調合したもの。
にじみの強弱、濃度の違いなど、
作りたい青に合わせて選べます。

どれを使うかで青の印象は大きく変わり、
“呉須の青”の幅をさらに広げてくれます。


文様に合わせて筆を変える──千筋・十草・更紗・唐草の世界

呉須の線は、筆一本で大きく表情が変わります。

  • 細筆 … 千筋(せんすじ)のような細い繰り返し模様

  • 面相筆 … 唐草や花文様など、細かい描線に

  • 太筆・刷毛 … ぼかしや“ダミ”を入れるときに

代表的な文様としては、

  • 千筋(せんすじ) … 無数の細い線が並ぶ涼しげな模様

  • 十草(とくさ) … 放射状の縞模様

  • 更紗(さらさ) … 布の染物のような連続模様

  • 唐草 … 呉須の青が最も映える伝統文様

呉須の青と、筆運びのリズムが合わさることで、
器には“描いた人の呼吸”が刻まれていきます。


“ダミ”と呼ばれる濃淡技法で、呉須の青に奥行きを作る

呉須の魅力といえば、やっぱり 濃淡
その濃淡を意図的に作る技法のことを ダミ と呼びます。

薄くのばしたところは淡い水色に、
重ねたところは深い紺に。
筆の速度、呉須の水分量、釉薬の厚さ──
すべてが青の印象を変えます。

また、呉須は“流れやすい”絵具でもあるため、
あえて流し模様にしたり、
にじみをデザインとして取り込むこともあります。

呉須は、コントロールしすぎると魅力が消え、
放任しすぎると暴れる。
その絶妙なバランスを見極めながら描くのが、
呉須を扱うおもしろさでもあります。


5章|呉須の歴史──シルクロードと青花磁器の物語


呉須(ごす)の青は、いまや日本の器の象徴ですが、
その始まりは日本ではありません。

呉須の歴史をたどっていくと、
シルクロード、ペルシャ、景徳鎮(中国)、
そして江戸の町へ……と、
“青の旅”ともいえる壮大な物語が見えてきます。

呉須は偶然から生まれ、
大陸を渡り、
文化とともに進化していった色なのです。


最初は“偶然の青”──炎の中で青を宿した不思議な鉱石

現在「呉須」として知られる青の源は、
コバルトを含む鉱石を高温で焼成することで生まれる発色です。

古代の段階では、この鉱石は黒色〜暗灰色の“ごく普通の石”として扱われていました。
しかし、陶器文化が発達する中で、

高温で焼いたときに強い青色を発する
──という性質が、経験的に知られるようになります。

科学的な理解がまだ進んでいなかった時代、
黒い石が鮮やかに青へ変わる現象は、きっと強い驚きをもって受け入れられたはずです。

この“青を生む石”の発見こそが、後の呉須や青花磁器へつながる最初の一歩になりました。


ペルシア産コバルト → 景徳鎮へ──“青花磁器”誕生の背景

呉須の大きなターニングポイントは、
シルクロードを通じて ペルシア産コバルト が中国に渡ったことです。

14世紀頃、中国・景徳鎮では白磁の技術が発達し、
そこにペルシアのコバルトが加わったことで、
世界でもっとも有名な 青花磁器(せいかじき) が誕生しました。

青花磁器は
白地に鮮やかな青がくっきりと浮かぶ焼き物で、
その美しさは海を越えて広まり、
ヨーロッパの王侯貴族まで魅了しました。

呉須の青が世界的に価値を持つようになるのは、
この景徳鎮での成功があってこそです。


日本へ渡った青──有田焼・九谷焼・砥部焼・波佐見焼の発展

17世紀、日本にもこの“青い文化”が伝わります。

とくに佐賀県有田では、
磁器の生産が本格化し、
中国の青花磁器を手本にしながら 染付の技術 が磨かれていきました。

  • 有田焼/伊万里焼…日本初の本格磁器文化

  • 九谷焼…華やかな色絵とともに呉須の青も使用

  • 砥部焼…素朴で力強い呉須の線が特徴

  • 波佐見焼…呉須の青を日常使いに広めた焼物

どの産地も、呉須の青をベースにしながら、
地域ごとの個性を育てていきました。

呉須は、日本の磁器文化の“青い基準”を作ったともいえる存在です。


江戸の庶民文化を作った“染付の青”──皿・茶碗・そば猪口に広がる

江戸時代になると、
呉須の青は庶民の暮らしの中へと一気に広がります。

丈夫で扱いやすい磁器に、
涼しげな青い模様。
おかずを盛っても、汁物を注いでも、
清潔感があり、見た目も美しい。

皿、茶碗、そば猪口、ふちどりのライン……
呉須の青は、生活の器として親しまれました。

いま私たちが「和食器」と聞いて想像するイメージ──
それはすでに、江戸時代の人々が呉須とともに作り上げたものなのです。


6章|呉須と赤絵の違い──青と赤の二大技法


呉須(ごす)が生み出す“深い青”と、
赤絵(あかえ)が放つ“鮮やかな赤”。

この2つは、同じ焼き物の世界に存在しながら、
使う材料も、描くタイミングも、発色の仕組みもまったく違います。

青と赤。
器の上で対照的な輝きを持つこの二大技法を、
ここで一度しっかり整理しておきましょう。


呉須=下絵(焼く前に描く)──素地に染み込む“青の線”

呉須は、素焼きの器に直接描く 下絵(したえ) です。

  • 素焼きの器に呉須を描く

  • その上から釉薬(ガラスの液体)をかける

  • 1200〜1300℃で本焼きする

  • 呉須が“ガラスの中に溶け込み”青を発色

つまり、呉須は「器の一部」になる青。

線が流れたり滲んだりするのも、
陶芸の“生きた青”として愛される理由です。


赤絵=上絵(焼いた後に描く)──焼き物の上に“色をのせる”技法

赤絵は、呉須とは逆で、
器を焼いてから描く上絵(うわえ) です。

  • いったん白磁や染付を完成させる

  • その上に赤や金などの色を描く

  • 800℃前後で“低温焼成”して色を定着

赤絵は釉薬の上に色がのるため、
発色が強く、模様の細工がしやすいのが特徴。

呉須が「器に染み込む青」なら、
赤絵は「器の上で輝く赤」。

この違いが、焼き物の世界に多彩な表現を与えました。


呉須だけが深い青を出せる理由──“コバルト vs ベンガラ vs 鉄”

青と赤の違いは、絵具の違いでもあります。

技法 主成分 色の特徴
呉須(青) 酸化コバルト(Co²⁺) 深く澄んだ“呉須色”の青
赤絵(赤) ベンガラ(酸化鉄)・辰砂(硫化水銀)など 鮮やかで華やかな赤
鉄絵(黒・茶) 酸化鉄(Fe) 焼成で黒〜茶に変化

呉須の青は、釉薬に溶けたコバルトイオンが
特定の光(赤〜橙)を吸収することで生まれます。

赤絵や鉄絵では同じ反応は起こらず、
「コバルトだけが釉薬の中で鮮やかな青を出せる」
という特殊な性質があるのです。


7章|呉須色を英語でどう表現する?──世界で使われる“青と白”の呼び名


「呉須(ごす)」という言葉は日本独自の名称ですが、
染付の青は世界の陶磁器文化の中でもよく紹介されており、
英語ではいくつかの表現が使われています。


Gosu(Gōsu)──日本語そのままの表記

国外の陶磁器解説では、日本の染付を紹介する際に
“gosu” と日本語の発音そのままで書かれることがあります。

  • Gosu pigment

  • Gosu underglaze

  • Gosu blue decoration

といった表記が見られ、
“日本の青い下絵”という意味で使われています。


underglaze blue──技法名として広く使われる表現

呉須の技法を英語で説明するとき、
よく使われるのが underglaze blue(アンダーグレーズ・ブルー) です。

意味は「下絵付けの青」。

  • 釉薬の下に描かれている青

  • コバルトで描く伝統技法

といった紹介が国際的にも共通しています。

呉須の青も、この技法の一種として説明できます。


Blue-and-White Ware──“青と白の器”を指す国際呼称

素材名ではなく、
焼き物のジャンルとして広く使われているのが

Blue-and-White Ware(青白磁)

これは、景徳鎮からヨーロッパ、日本まで
世界各地の博物館で用いられる表現で、

  • Japanese Blue-and-White

  • Arita Blue-and-White

  • Imari Blue-and-White

のように、日本の染付の説明にも使われます。

呉須を使って描いた器も、
国際的にはこのカテゴリーに含めて紹介されることが多いです。


cobalt blue pigment / cobalt oxide──材料名としての呼び方

呉須の主成分である酸化コバルトは、
英語ではそのまま

  • cobalt blue pigment

  • cobalt oxide

と表記されます。

これは陶磁器だけでなく、
化学物質として一般的に使われる名称なので、
学術解説や技法書でも確認できます。

焼き物に限定した場合は

  • underglaze cobalt blue

のように「下絵用のコバルト」として紹介されることがあります。


“呉須”は日本語だが、青の表現は世界に通じる

呉須という呼び名は日本独自ですが、
その青を説明する英語表現には、
海外で自然に使われているものがいくつかあります。

  • Gosu(日本語をそのまま使うケース)

  • underglaze blue(技法名)

  • Blue-and-White Ware(青と白の器を指す国際呼称)

  • cobalt blue pigment / cobalt oxide(材料名)

いずれも、染付の青を説明する場面でよく目にする表現です。


8章|呉須のよくある疑問(FAQ)


Q1|呉須は何色ですか?

焼く前は黒い粉、焼くと深い“呉須色(ごすいろ)”の青になります。

これは、呉須に含まれる酸化コバルトが
高温で釉薬(ゆうやく)に溶けることで起きる化学変化です。

  • 素焼き前 → 黒

  • 焼成後 → 透明釉の中で青に発色

という“黒から青”の変化こそ、呉須の最大の魅力です。


Q2|呉須に毒性はありますか?

きちんと焼成された陶磁器であれば、安全です。

呉須の主成分はコバルトですが、
1200〜1300℃で焼き締められることで釉薬と一体化し、
通常の器として日常使用できます。

現代の陶磁器は食品衛生法にも適合しているものが多く、
安心して使えます。


Q3|呉須とコバルトの違いは何ですか?

ざっくり言うと、

  • コバルト=“元素・原料そのもの”

  • 呉須=“陶磁器専用に調合したコバルト系絵具”

です。

呉須にはコバルトのほかに、
鉄・マンガン・粘土などが混ぜられており、
流れ方・発色の濃淡・描線の強さなどが調整されています。


Q4|呉須の値段はどれくらい?

タイプによってかなり違います。

  • 天然呉須(産地=ペルシャ・中国系)…高価

  • 人工呉須(安定した発色)…比較的手頃

  • 調合呉須(窯元によるカスタム)…幅広い

「天然呉須は青が柔らかく、人工呉須はくっきり濃い」
という特徴が知られています。


Q5|呉須はどんな器に使われますか?

呉須は主に 染付(そめつけ) という下絵付け技法で使われます。

  • 茶碗

  • そば猪口

  • 湯呑み

  • 酒器

など、日本の食卓にある“白地に青い絵柄”の器は
ほとんどが呉須で描かれています。


Q6|呉須は紙や布に使えますか?

使えません。

呉須は“焼成してはじめて青になる”陶磁器専用の絵具です。
紙や布に塗っても黒いままで、青には発色しません。


Q7|呉須赤絵とは何ですか?

「呉須赤絵」は、
呉須(青)+赤絵(赤)を組み合わせた器 のこと。

  • 青=下絵(呉須)

  • 赤=上絵(赤絵の具)

という、二段階で仕上げる華やかな技法です。


9章|まとめ──呉須は「黒から青に変わる」陶磁器だけの青


呉須(ごす)は、陶磁器の世界を語るうえで欠かせない“特別な青”です。
その理由はとてもシンプルで、けれど驚くほど奥深いものです。


呉須=酸化コバルトを使った下絵用の青絵具

呉須は、酸化コバルトを主成分とする 陶磁器専用の絵具(顔料) です。
素焼きの器に絵付けをして、その上から釉薬をかけ、
1200〜1300℃で焼成することで深い青が現れます。

“青”そのものよりも、
青を出すプロセスにこそ呉須の魅力がある と言えます。


焼く前は黒/焼くと青──この変化こそ呉須の魔法

焼く前の呉須は、ただの黒い粉。
でも、釉薬の中でコバルトの電子が並び替わることで、
透明感のある呉須色(ごすいろ)の青 に変わっていきます。

この“黒 → 青”の変化は、
陶磁器の高温焼成という環境でしか成立しません。

だから呉須は、
器専用の青 と呼ぶにふさわしい存在なのです。


紙・布では青にならない──焼くことで初めて発色する青

呉須は絵具のように塗って青くなるものではありません。
紙に塗っても、布に塗っても青には変わりません。

青になるのは、

  • 釉薬に溶ける

  • 高温で電子が整列する

  • 特定の波長を吸収する

という、陶磁器だけがもつ条件が揃ったときだけ。

発色のメカニズムから見ても、呉須はやっぱり“器の青”です。


呉須の青はシルクロードの贈り物

呉須のルーツは、ペルシャ産のコバルト鉱石。
それがシルクロードを通って中国・景徳鎮に届けられ、
世界を魅了する**青花磁器(ブルー&ホワイト)**が誕生しました。

その後、日本へ渡り、

  • 有田焼

  • 伊万里焼

  • 九谷焼

  • 砥部焼

  • 波佐見焼

など“白地に青”の文化をつくりました。

呉須は、アジアのやきもの文化をつないだ 青の架け橋 ともいえる存在です。


現代でも呉須の青は愛され続けている

江戸の蕎麦猪口、民藝の鉢、家庭の茶碗──
私たちが日常でふれる“青い器”の多くが呉須で描かれています。

デジタルの時代になっても、
手描きの線・流れる呉須の濃淡・火で変わる発色 は失われません。

むしろ、
“焼くと青になる”という自然の摂理がつくる色だからこそ
現代の生活でも変わらず支持されています。


🟦 最後に


呉須とは、
黒い粉が焼くことで青に変わる、陶磁器だけが持つ特別な青。

そしてその青は、
何百年ものあいだ、アジア各地の窯をつなぎ、
いまも食卓の中で静かに輝き続けています。

器の青が好きな人なら、
「呉須を知る」というだけで器の見方がもっと面白くなるはずです。


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