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このブログはブログシリーズ「数と計算の進化」⑧です。
まとめはこちらから▶数と計算の進化|アバカスから加算機、バロースまで“機械が数える時代”の全史まとめ
前の記事はこちらから▶⑦ステップレコナーとは?──ゴットフリート・ライプニッツが描いた“思考する計算機”の原型
第0章|導入──“天才の発明”から“社会の道具”へ
🧠 計算機は長らく「賢い人の実験装置」だった
シッカート、パスカル、ライプニッツ──
17〜18世紀の計算機は、いずれも天才たちが“思考”を機械に託したものでした。
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機械で数を数えたい(シッカート)
-
計算の手間を減らしたい(パスカル)
-
思考を記号操作で再現したい(ライプニッツ)
発想はどれも壮大で、革新的。
けれど、彼らの加算機はあくまで**「特定の誰かが特別な場所で使うもの」**にとどまっていました。
🛠️ そして1820年──加算機は“道具”になった
この流れを大きく変えたのが、**フランスの発明家トマ・ド・コルマー(Thomas de Colmar)**です。
「数を扱うのは、天才ではない。
現場の事務員であり、商人であり、役所の人間だ。」
彼はこう考えました。
「ならば、誰にでも使える計算機を作るべきだ。」
そうして開発されたのが、アリスモメーター(Arithmometer)。
これは、**世界で初めて商業的に成功した“実用型加算機”**でした。
📈 加算機は、ついに“職場”に置かれる時代へ
アリスモメーターは、銀行や役所、商社、工場などに導入され、
**数を扱う仕事の“標準装備”**として社会に浸透していきます。
ここで加算機はついに、
-
哲学や抽象思考の対象から
-
商業や行政の現実的な業務インフラへと
完全に進化したのです。
このブログでは、
・アリスモメーターがどんな背景で誕生したのか?
・トマ・ド・コルマーとはどんな人物か?
・構造、工夫、なぜ普及したのか?
・そして社会に何を変えたのか?
を丁寧にひもといていきます。
第1章|時代背景──産業・商業で「計算の現場」が爆増していた
🏭 産業革命は「数の仕事」を大量に生み出した
19世紀初頭、ヨーロッパでは産業革命が本格化。
蒸気機関、工場制生産、鉄道、通信、近代都市──
これらのインフラが急速に整備されていくなかで、「数を扱う仕事」も激増しました。
たとえば:
-
製造業:部品や在庫の数、工程の時間、賃金の集計
-
商社:輸出入の数量、為替計算、価格管理
-
保険会社:保険料の計算、契約数、支払い記録
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政府:徴税、統計、予算管理、人口調査
どの業種でも、日々の業務に“膨大な手計算”が必要とされていたのです。
✍️ 計算は“最も間違えられない労働”だった
当時の計算作業は、まだすべて手作業と紙の記録に頼っていました。
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桁が増えるほど間違いやすい
-
集中力が切れれば、伝票が一気にズレる
-
確認作業に時間がかかる
-
熟練者でなければ扱えない
つまり、数を扱う作業は、精神的にも時間的にも負荷が大きいものでした。
それでいて、「絶対に間違えてはならない」──というプレッシャー。
このような状況下で、加算・乗算を誰でも正確に行える道具が求められるのは、自然な流れでした。
📈 社会が「計算コストの削減」を必要としていた
計算にミスがあれば、
・在庫数の誤差 → 納品トラブル
・給料のミス → 労働争議
・税額のミス → 国の信用失墜
につながるリスクがありました。
だからこそ、計算の効率化と正確化は“経済的にも政治的にも重要”な課題だったのです。
この時代背景のもと、
「現場で確実に動く、誰にでも使える計算機」──つまりアリスモメーターの登場は、
まさに時代が必要とした発明でした。
第2章|トマ・ド・コルマーという実業家的発明家
🧑💼 パスカルでもライプニッツでもない、“現場の発明家”
トマ・ド・コルマー(Thomas de Colmar, 1785–1870)は、
前任者たちのような数学者・哲学者ではありません。
彼は**フランスの官僚・保険業界出身の“実務家”**でした。
軍務を経て、保険行政や徴税業務に携わる中で、
日々、現場での計算作業がいかに非効率かを目の当たりにしていました。
🔍 現場を知る人間だけが気づけた「計算の苦痛」
コルマーは天才ではなかった。
でも、だからこそ、現場の苦しみがわかりました。
「天才は紙とペンでなんとかできる。だが、現場の人間は違う。」
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日々の伝票処理
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人件費の集計
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契約数の計算
-
間違えれば会社が損をする現場
こうした現実に直面する中で、
彼は**「本当に使える計算機を作ろう」**と考えたのです。
🛠️ 彼の強みは「作ること」ではなく「使わせること」だった
パスカルやライプニッツが「理想の機械」を追い求めたのに対し、
コルマーは**「実際に使われる機械」**を目指しました。
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操作が簡単
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壊れにくい
-
現場で繰り返し使える
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製造コストが現実的
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初心者でもミスしにくい
彼が開発したアリスモメーターは、こうした“現実的な条件”をすべて満たした
初の商用加算機だったのです。
第3章|アリスモメーターの構造と仕組み──大量計算を可能にした装置
⚙️ 複雑すぎない、けれど十分に高機能
1820年、コルマーが発表したアリスモメーター(Arithmometer)は、
それまでの加算機と比べて**「ちょうど良い」バランス**を持っていました。
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計算性能は高い(多桁の加減乗算が可能)
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操作はシンプル(スライドレバー式で初心者でも扱える)
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構造は堅牢で安定(実際に繰り返し使える強度)
-
製造コストは抑えめ(少数ではあるが量産が可能)
🧮 操作は“レバーで数字を入力し、ハンドルを回す”だけ
-
各桁に対応したスライドレバーで数字を設定
-
側面のハンドル(クランク)を回すと歯車が連動
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上部ウィンドウに結果が表示される
繰り返しハンドルを回せば、掛け算として機能し、
回す方向や補助機構によって減算・除算にも対応可能でした。
操作は直感的。訓練不要。事務員や現場担当でも扱える──
それが「商用化された計算機」としての最大の強みでした。
🪛 中身は“簡略化されたステップレコナー”
ライプニッツが発明した階段歯車(stepped drum)の構造を、
アリスモメーターではよりシンプルかつ耐久性のある方式に改良。
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精密性を下げずに
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故障率を抑え
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手入れがしやすく
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コンパクトにまとめる
こうした“工業製品としての設計”が、現場に受け入れられた理由です。
💼 専門家だけの機械ではなく、「事務員の標準装備」へ
アリスモメーターは、銀行・税務署・商社・工場など、
数を扱うあらゆる職場に配備されていきます。
それまで、“数を間違えない人材”が求められていた現場で、
“間違えない機械”が配布されるようになったのです。
第4章|商用化された世界初の計算機──“配布された知能”のはじまり
🛒 計算機が“買える商品”になった瞬間
アリスモメーターは、歴史上初めて商業販売された計算機です。
それまでの加算機は、試作品・寄贈品・一点物がほとんどでした。
しかしコルマーは、明確に「売る」ことを前提として製造・宣伝・販売を行いました。
実際に販売が始まったのは1851年のロンドン万国博覧会を機に本格化し、
企業・官公庁・保険会社などに徐々に導入されていきます。
🧾「配られる知性」──事務作業の標準装備に
アリスモメーターの普及が意味したのは、
計算能力が“人”ではなく“機械”に委ねられ始めたということでした。
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計算ミスを減らせる
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熟練不要で即戦力にできる
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計算速度が安定し、業務が効率化する
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コストと信用の管理が改善される
こうした理由から、アリスモメーターは事務職にとっての必需品となっていきます。
それはまるで、現代の「パソコン」や「Excel」が会社に配布される感覚。
この時代、すでに**“配布される知能”**は始まっていたのです。
💸 少数生産からロングセラーへ
生産台数は多くはなかったものの、半世紀にわたり製造・販売され続けたことも特筆すべき点です。
その堅牢性と信頼性ゆえに、アリスモメーターは長期にわたって企業・役所・機関で使用されました。
のちにこの流れを引き継ぐのが、1870年代の「オドナー式計算機」。
ここでいよいよ「真の大量生産と市場支配」が始まります。
第5章|ブレークスルーポイント:計算機が社会インフラになった瞬間
🧠 知識階層の“限定的な知の道具”から、労働階層の“共有の道具”へ
それまでの加算機は、いわば**“知識人が使う道具”**でした。
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発明者本人が使う
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王族・貴族に献上される
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天文学者や数学者が試験的に使用する
でもアリスモメーターは違いました。
誰でも使えて、現場で動いて、売られて、使い倒される──
つまり、「インフラ」になったのです。
💼 数は“人の脳”から“機械の中”へ
かつて、数を扱うには訓練された頭脳が必要でした。
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職人技としての筆算
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経験と集中力が求められる帳簿作業
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人に依存する計算能力
しかしアリスモメーターは、その計算能力を道具に“外部化”したのです。
人間が持っていた知能の一部を、共有財産=道具として流通させたという点で、
これはまさに**「知のインフラ化」**と呼ぶべき変化でした。
📈 “計算”という行為の意味が変わった
アリスモメーターの普及によって、計算は
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特別な技能 → 誰でもできる作業
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個人の能力 → 機械で再現できる操作
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属人的な暗算 → 信頼性のある標準処理
へと変わりました。
この変化は、やがてタイプライター・電話・電卓・パソコン・AIへとつながる
「情報社会」への準備運動だったともいえます。
第6章|まとめ──アリスモメーターは、情報社会の原型だった
📊 情報処理の“外注”は、ここから始まった
アリスモメーターが普及したことで、
人類は初めて、「数を扱う」という知的作業を、道具に肩代わりさせることができるようになりました。
それは単なる効率化ではありません。
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人が考えていた仕事を、
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道具が代わりに実行するという発想のはじまり。
つまりアリスモメーターは、
“情報処理を機械に任せる”という社会構造の出発点だったのです。
🧮 電卓でも、AIでもない“ミッシングリンク”の装置
現代の私たちは、計算といえば
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スマホの電卓
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Excelの関数
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AIによる数値予測
を思い浮かべますが、
このすべての“源流”には、アリスモメーターのような機械が存在しました。
アリスモメーターは、人力と機械のちょうど境界線にあった存在。
-
人が操作しながらも、
-
人の負担を減らし、
-
正確な出力を自動で得る
という点で、人間と情報の共存インターフェースとしての原型だったのです。
🚀 次回へ──数は“誰でも扱える”を超え、“誰もが頼る”存在へ
コルマーが切り拓いた「商用化と実用」の道を、
次に本格的に量産・普及させるのが──
👉 1874年、オドナー式加算機。
ここから、計算機は“売れる道具”から“世界標準の道具”へと進化していきます。
▶次に読みたい記事 「数と計算の進化」⑨オドナー式加算機とは?──世界標準となった“回すだけ”の計算機
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🖊ブログシリーズ「数と計算の進化」はこちらから
まとめ記事▶数と計算の進化|アバカスから加算機、バロースまで“機械が数える時代”の全史まとめ
①数字の起源はメソポタミアだった?文明が生んだ“数える力”の正体とは
②ゼロは誰が発明した?位置記数法と“0”が世界を変えた数学革命の物語
③そろばんの起源と歴史──人類最古のアナログ計算機「アバカス」とは?
④筆算の歴史と仕組み──アナログから紙へ、計算が技術になった瞬間
⑤世界初の加算機とは?ヴィルヘルム・シッカートが生んだ“機械が数える”革命
⑥世界初の実用加算機「パスカリーヌ」とは?ブレーズ・パスカルが作った“考える道具”
⑦ステップレコナーとは?──ゴットフリート・ライプニッツが描いた“思考する計算機”の原型
⑧当記事
⑨オドナー式加算機とは?──世界標準となった“回すだけ”の計算機
⑩バロース加算機とは?──“記録する機械”が事務と産業を変えた日
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