第1章|写植の時代:すべては手作業から始まった(1950〜1980年代前半)
今、私たちが印刷物を作る際、当たり前のようにパソコンの画面上で文字を打ち、レイアウトを整え、クリックひとつで印刷用のPDFを出力する。
しかし、こうした便利な工程が実現されるまでには、長く地道な“手作業と職人の技”の歴史がありました。
その中心にあったのが――**「写植(しゃしょく)」**です。
「写植」とは「写真植字」の略で、文字を感光紙に写真のように焼き付ける技術。1950年代から1980年代前半にかけて、日本中の印刷現場で活躍し、印刷物の“文字を組む”という行為の標準技術として君臨していました。
● 写植機とは何だったのか?その仕組み
写植機は一見すると大きな電動タイプライターのような見た目をしていますが、その内部は実に繊細かつ複雑な構造でした。
内部には文字盤(字母)と呼ばれる透明のディスクがセットされており、そこにはフォントごとの文字が物理的に並んでいます。
操作員がキーボードで文字を入力すると、機械がその文字の位置を正確に検知し、レンズと光源を使って感光紙に一文字ずつ焼き付けていくのです。
たとえば「こんにちは」と打つだけでも、1文字ずつ露光→感光紙に定着→紙を送るという工程が繰り返されます。文字サイズの指定や行間の調整もすべて手動。写植オペレーターはまさに“光と文字の芸術家”でした。
● 写植オペレーター=職人の花形職種だった
写植の現場では、キーボードを打つだけで済むわけではありません。
写植オペレーターには、日本語の禁則処理、句読点の位置、行送りの美しさ、書体の選び方など、今で言う「文字組みの美学」が深く求められました。
しかもミスが許されない。1行の誤植のために、すべてをやり直すこともある。
そのため、写植オペレーターは熟練するまでに数年を要し、若手の登竜門であり、ベテランの誇りでもあったのです。
制作現場には常に緊張感がありました。たった1文字の「にじみ」や「欠け」が、何千部・何万部の印刷物に影響する。だからこそ、その精度と美しさは、今見てもため息が出るほどです。
● 貼り込みこそ“職人芸”の真骨頂──版下作業とは
写植で印字された感光紙は、すぐに使えるわけではありません。
それをカッターで切り抜き、のりで台紙に貼り込んで、**1ページごとのレイアウトを完成させる作業が「版下作業」**です。
見出し・本文・写真・飾り枠・ロゴ・キャッチコピー……これらすべてを、ミリ単位で配置していく。現代のDTPソフトなら数秒で終わる作業が、半日〜数日かけて手で行われていたのです。
使用されるのは、製図用の台紙、カッターナイフ、三角スケール、スプレー糊、ピンセット、マスキングテープなど。これらを駆使して「ズレないように」「曲がらないように」「美しく」配置する職人技が求められました。
● 写研・モリサワの覇権と“書体を選ぶ権利”の時代
今のように自由に書体を選べる時代ではなく、写植機には限られたフォントしか使えませんでした。
特に、日本では写研(写真植字機株式会社)とモリサワが二大勢力を誇り、それぞれ独自の書体文化を築いていました。
写研の「石井明朝」「石井ゴシック」は、まさに印刷業界のスタンダード。
モリサワの「新ゴ」「リュウミン」は、広告や出版で独自の色を出していました。
特に写研のフォントは、同社の専用機でしか使用できないという独自仕様で、まるでガラパゴス携帯のような閉鎖的システムでしたが、それゆえに“書体の個性”が際立ち、制作物ごとの色が出やすいという特徴もありました。
● アナログ時代の“重みと誇り”
このように、写植による印刷データ作成は**「手作業と感性」の集大成**とも言える世界でした。
フォント選び、レイアウト設計、ミスのない組版、カッターの使い方ひとつに至るまで、職人たちの誇りと緊張感が宿っていたのです。
いま、1クリックでPDFが作れ、AIが自動レイアウトまでしてくれる時代にあっても、
この時代の「丁寧に紙と向き合う仕事の姿勢」こそが、現代にも通じる“印刷の心”なのかもしれません。
第2章|デジタルDTP前夜──電算写植と簡易組版(1980年代前半〜中盤)
写植機が支配していた印刷業界に、ある日、静かに、しかし確かに現れた“黒い箱”。
それが「電算写植機(でんさんしゃしょくき)」と呼ばれる、コンピュータを活用した新時代の写植システムでした。
● 電算写植とは何か?手作業にパソコンが入り込む
電算写植とは、簡単に言えば「コンピュータで文字を入力し、写植機を自動制御して組版を行うシステム」のことです。
従来のように一文字ずつ手作業で露光するのではなく、コンピュータの命令によって写植機が自動で文字を焼き付けていく。つまり、人がやっていた“文字の流れ”や“組み方”を、あらかじめコンピュータに指示しておけるようになったのです。
この時点で、印刷現場における**「入力」と「出力」の概念が分離**され始めます。
● 電算写植の実際:画面に文字は出ない!?
今でこそ、文字を打てばそのまま画面に表示されるのが当たり前ですが、当時の電算写植端末は違いました。
多くの機種では、画面に文字は一切表示されない。代わりに、コードや記号で命令を入力していくという仕組みでした。
たとえば「12Qの明朝体で、3文字下げ、ベタ組み、禁則処理有効」といった指定を、
F2 Q12 J3 K1
のように入力する。まるでプログラミング。
その命令が紙テープに記録され、それを写植機に読み込ませてようやく出力される、という流れでした。
つまり――オペレーターは「画面に映らない文字」を、頭の中でイメージして打ち込んでいたのです。
● 文字入力とレイアウトが“分業化”される時代
この頃から、印刷データ作成の工程が、
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文字入力担当(入力オペレーター)
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レイアウト設計担当(版下担当者)
に分かれるようになりました。
特に広告や出版の現場では、編集者が赤字で指示を出し、入力オペレーターがコードを打ち、製版担当が刷版を起こすという細かな分業が当たり前に。
「一人で完結」できた写植機の時代から、「チームで仕上げる」時代へと変わっていったのです。
● 専用端末の名機たち──写研DIPS、モリサワMC-8、CATSなど
この時代に登場した代表的な電算写植システムには、次のようなものがあります。
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写研 DIPS(Digital Input Processing System):当時の写研フォントを使えるプロ向けの定番。
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モリサワ MCシリーズ:文字コード入力式。モリサワフォントでの高品質組版を実現。
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CATS(Computer Assisted Typesetting System):新聞社などで多用。大規模組版に対応。
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CTM(キャノン):独自の組版システムで、印刷会社からの支持も高かった。
どれも大型で高価。専用ルームを必要とする機材も多く、導入には数百万円〜数千万円の投資が必要でした。
● 美しさか、効率か。業界の間で揺れた“写植観”
写植オペレーターたちの間では、「電算は便利だけど、文字がなんかちょっと間延びする」「詰めが甘い」「禁則のクセが気になる」といった声もありました。
一方で、編集者や営業の立場からすると、修正が早くて楽。校正も効率的。
便利と美しさの間で揺れる現場の空気が、1980年代を包んでいたのです。
このような混乱の中、ついに登場するのが、MacintoshとPageMaker。
「誰でも自由に文字を配置できる」「レイアウトが目で見える」――そんな革命的ソフトの登場によって、印刷の世界はさらなる転換点を迎えます。
第3章|DTP元年!MacintoshとPageMakerの登場(1985〜1987年)
1985年――印刷の世界に、まるで彗星のように現れた“革命”がありました。
それが、AppleのMacintoshと、Aldus社のPageMaker、そしてAdobeのPostScript技術です。
この3つの登場によって、長年続いた「手作業による版下制作」の常識が一変。
それまで写植オペレーターや版下職人にしかできなかった作業が、パソコン一台、机の上でできる時代に突入したのです。
印刷業界が「デジタル」によって根本から再定義された瞬間。これが、まさにDTP(Desktop Publishing)元年でした。
● Macintoshの登場が印刷にもたらした衝撃
1984年、Apple社が発売したMacintosh(初代128K)は、画面上でフォントやレイアウトを「見ることができる」初めてのパソコンとして、業界に大きな衝撃を与えました。
当時のパソコンはコマンド入力が主流で、文字や画面の表示は非常に限定的でした。しかしMacは**GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)**を搭載し、直感的な操作と画面での可視化を実現していたのです。
マウスで操作し、画面上でフォントを変え、画像を配置し、テキストを自由に流し込む――まるで、紙の上で作業しているような感覚。
この**「紙に近づいたデジタル」**という革命的な操作感が、編集者やデザイナーたちを一気に魅了しました。
● PageMakerとの出会い=印刷は“個人の手に”戻ってきた
そして1985年、Macに対応した画期的なソフトが登場します。
それが、Aldus社の**「PageMaker 1.0」**でした。
PageMakerは、それまで分業制で行われていた「テキスト入力」「レイアウト設計」「画像の配置」などの工程を、ひとつのソフトでまとめて扱える画期的なソリューションとして登場しました。
文字はその場でフォントを変えられ、サイズも自由、段組もマウスで直感的に操作。グリッドや罫線も簡単に引ける。そして何より、印刷結果が画面上の見た目と一致する。
「WYSIWYG(What You See Is What You Get)」――
“見たままが出力される”という概念が、印刷データの概念を根底から変えていったのです。
これは、「レイアウトは職人の手で行うもの」という旧来の価値観を覆し、**誰もが“印刷物をデザインできる時代”**を切り開いた、まさにDTP革命でした。
● AdobeのPostScriptが支えた「正確な出力」という信頼
MacとPageMakerだけでは、まだ印刷業界の信頼は得られませんでした。
そこに登場したのが、Adobe社の**「PostScript(ポストスクリプト)」**という技術です。
PostScriptとは、文字・図形・線などのあらゆる情報を数学的な命令で記述し、出力機に送るためのページ記述言語です。
この技術により、高解像度で、拡大・縮小しても劣化しないベクター描画が可能となり、印刷物としての信頼性が飛躍的に向上しました。
AppleのLaserWriterというレーザープリンタにPostScriptが搭載されたことで、Mac→PageMaker→PostScript→出力という一貫したDTPワークフローが完成。
これにより、誰もがプロ品質の印刷用レイアウトを自分で作り、印刷所へ持ち込める時代が本格的に幕を開けたのです。
● しかし…印刷会社の現場は戸惑いと反発だらけだった
当時、写植機や電算写植に何百万円も投資していた印刷会社からすれば、この流れはまさに脅威でした。
「素人が勝手に版下を作って、それを持ち込んできても困る」
「画面通りに出るなんて嘘だ。印刷には“製版の理屈”があるんだ」
「禁則処理も、文字詰めも、所詮機械には無理だ」
――こうした反発の声が、現場からは多く聞かれたのです。
また、当初は「RGBで作られたデータをCMYKに変換できない」「解像度不足」「写真の網点表現が荒い」など、品質面の問題も山積みでした。
それでも、MacとPageMakerの「スピードと自由さ」は、特に出版社・広告業界の編集現場では魅力的すぎる存在でした。
● 若い編集者・デザイナーはこう叫んだ。「もう戻れない」
写植の待ち時間はもういらない。
版下に赤を入れて再入稿する苦労もいらない。
自分でその場で直して、そのままプリントできる。
スピード、直感、自由――PageMakerはすべてを手に入れた感覚だったのです。
当時、多くの若い編集者やデザイナーたちが、夜遅くのオフィスにMacを持ち込み、「革命だ!」と興奮していたという話が数多く残っています。
まだモノクロ画面だったそのMacに、彼らは未来を見ていたのです。
● DTP=“印刷の民主化”。だれでも発信できる時代の幕開け
こうしてDTPは、ただの技術革新ではなく、「誰もがアイデアを紙にして発信できる」時代の到来を告げました。
Mac + PageMaker + PostScriptという三位一体の革新が、出版・広告・教育・企業パンフレット・個人出版にまで広がり、まさに「机の上の印刷工房」が各地で生まれていったのです。
そして、この流れはやがて、「Illustrator」や「Photoshop」など、さらに高度なデザイン・編集を可能にする専用ソフトの誕生へとつながっていくのでした。
第4章|デザインも自由に!IllustratorとPhotoshopの登場(1987〜)
「図形は描けない」「写真は手で貼る」「見た目の美しさは職人任せ」──
そんな時代が終わりを告げようとしていた1987年。
ついに登場したのが、Adobe IllustratorとAdobe Photoshopという、のちに“デザインの常識”を根底から覆す二大ツールでした。
これまで、文字の組版はできても、図形やイラストは描けなかったPageMaker。
その「足りなかったピース」を補い、印刷・デザイン・広告・出版のあらゆる現場に衝撃をもたらしたのが、この2つのソフトだったのです。
● Illustratorの登場:パソコンで“図案が描ける”という革命
1987年、Adobe Systems社はMacintosh用ソフトとしてIllustrator 1.0を発売しました。
当時の印刷・デザイン現場では、イラストやロゴ、地図、アイコンなどはすべて手描きか、専用の製図ソフト(CADなど)で作る必要があり、それを製版に回すにはスキャンして貼り込むという非効率極まりない作業が必要でした。
しかしIllustratorの登場は、それらすべてをパソコン1台で完結させる可能性を提示しました。
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パス(線)を自由に引ける
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アンカーポイントで自在にカーブが描ける
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塗りと線が別に設定できる
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拡大・縮小しても画質が劣化しない(=ベクター)
これまで専門職だった「図案制作」や「製図」が、一人のデザイナーの手の中に戻ってきた瞬間でした。
● 印刷との相性が抜群!Illustratorが“業界標準”になった理由
なぜIllustratorが、数あるソフトの中で印刷業界の王道ツールとなっていったのか?
それには明確な理由があります。
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ベクター形式による高精度出力(製版に最適)
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アウトライン化機能で文字化けを防げる
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特色(スポットカラー)指定が可能
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トンボ・塗り足し・線の太さ調整など、印刷ルールを完全再現できる
とくに「アウトライン化」は、データ入稿においての革命でした。
「このフォント持ってないから文字化けしました…」という悲劇がなくなり、印刷所としても「Illustratorでくれれば安心です」と胸を張れるようになったのです。
さらに、Illustratorはチラシ・パンフレット・ステッカー・パッケージ・看板・名刺・封筒などあらゆる印刷物に対応できるため、現場のニーズと100%合致していたのです。
● Photoshopの登場:画像編集が“魔法”になった
そして1988年、ついにPhotoshop 1.0が登場します。
このソフトは、もともとアメリカの兄弟(トーマス&ジョン・ノール)が趣味で開発した画像処理ツールが原型で、Adobe社が製品化を買い取り、世界にリリースしました。
それまで印刷の世界で「写真加工」は、熟練した職人が行う高度なアナログ技術でした。
濃度の調整、色味の補正、合成、トリミング…。すべては「手」で、感覚と経験で仕上げるもの。
しかしPhotoshopの登場により、こうした作業がすべてパソコン上で、直感的に、しかもリアルタイムにできるようになったのです。
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色調補正 → スライダーで直感操作
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合成 → レイヤーを重ねるだけ
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マスク → 領域指定が簡単に
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ぼかしやシャープ → フィルターを選ぶだけ
まさに、当時の印刷業界にとっては**「魔法の道具」**だったのです。
● 写真補正=プロの専業だった時代の終焉
Photoshopの登場は、写真補正・画像加工という職能の価値観を揺るがしました。
それまで「製版部門の中の画像処理担当」という専門職でしかできなかった作業が、デザイナー自身の手でできるようになった。
とくに「切り抜き」「背景の透過」「色味の変更」は、DTPデザインと組み合わせるうえで必須の技術。Photoshopの導入によって、表現の幅が一気に何十倍にも広がったのです。
また、印刷所でも「Photoshopで補正した画像を持ち込んでくる若者たち」の登場により、従来の工程を見直さざるを得ない時代がやってきました。
● DTPの三種の神器が揃う──PageMaker/Illustrator/Photoshop
この頃から、印刷物をデザインするデザイナーの机には、必ず3つのアイコンが並ぶようになります。
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PageMaker:本文やレイアウトの骨格
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Illustrator:ロゴ・図案・装飾・地図などの作成
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Photoshop:写真補正・画像合成・色味管理
この三位一体の作業環境こそ、1990年代〜2000年代の印刷現場の新標準となりました。
特にPageMakerで作ったレイアウトに、Illustratorで作った図、Photoshopで加工した写真を貼り込む流れは、当時の出版・広告・販促の全分野で採用されていました。
印刷物の制作が、完全にパソコン上で完結する時代が訪れたのです。
● 紙の上からモニターへ──表現が移動した時代
IllustratorとPhotoshopの登場が意味したことは、単なる便利さではありません。
それは、「表現の道具」が根本的に変わったということです。
これまで、紙の上で描く・貼る・切ることで完成していたビジュアル表現が、
モニター上で「選ぶ・操作する・合成する」スタイルに切り替わった。
これは、**印刷表現の“文化的シフト”**とも言えます。
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感覚的な職人芸 → 論理と操作性の融合
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一点モノの技術 → 誰でも再現できるデジタル技法
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書体も、色も、形も → 選ぶ時代から、創る時代へ
この変化は、後にWebデザイン・UI/UX・動画編集などのジャンルにも波及し、「Adobe=表現のインフラ」としての地位を確立していくきっかけともなったのです。
第5章|出版・広告の主流へ:QuarkXPressの黄金時代(1990年代)
IllustratorとPhotoshopによって「描く・加工する」自由を手に入れた印刷業界。
しかし、レイアウトの本丸、つまり「ページ全体の設計・構造化」においては、依然としてPageMakerが使われ続けていました。
だが1990年代に入り、その王座を一気に奪い去る存在が現れます。
それが──QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)。
このソフトは、単なるDTPツールではなく、**出版・広告・印刷のあらゆる現場を支配する“巨大な標準”**となっていったのです。
● QuarkXPressとは?「レイアウトの神様」誕生
QuarkXPressは、1987年にQuark社(米コロラド州)によって開発され、1990年代に入ってから爆発的に普及しました。
最大の特徴は、「細かすぎるほど細かい制御が可能」という点。
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テキストボックスのリンク・段組
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行送り・字送り・カーニングの緻密な指定
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イメージのトリミング・マスク処理
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カラー設定、特色・スウォッチ管理
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マスターページによるテンプレート化
これらの機能が、プロの編集者・組版者・デザイナーの要求を完璧に満たすレベルで搭載されていたのです。
特に、出版業界で多用される複数ページ・複数段組の設計には絶大な信頼があり、「雑誌を作るならQuark」「教科書や書籍もQuarkでないと」という声が業界のスタンダードとなっていきました。
● PageMakerとの決定的な違いは“構造”と“精度”
では、なぜPageMakerからQuarkXPressへと移行が起こったのか?
答えは明快で、Quarkの方が圧倒的に「精密」で「安定」していたからです。
PageMakerは簡易的で直感的な操作ができる反面、大量ページ・重たいデータ・複雑な文字組になると挙動が不安定になったり、崩れたりすることがありました。
一方、QuarkXPressは「正確で壊れない」という絶対的な強みを持ち、特に大量物件・商業出版において、**“信頼の道具”**として地位を確立していったのです。
● 印刷会社・出版業界での圧倒的シェア
1990年代、日本全国の印刷会社・出版社では次のようなフローが定着していました:
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テキスト支給:編集者が原稿(テキスト)を支給
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画像・図版:Illustrator・Photoshopで作成された素材を支給
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レイアウト:QuarkXPressで文字・画像を配置、校正と修正を繰り返す
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出力:PostScriptプリンタまたはイメージセッターで出力、製版へ
特に週刊誌・月刊誌・カタログ・パンフレット・学参書籍など、多ページものでは、QuarkXPressのスピードと安定性が命綱でした。
「Quarkが動かないと印刷が止まる」と言われるほど、業界の中枢を担う存在となっていったのです。
● Illustrator/Photoshopとの“黄金トライアングル”
この時期、現場の制作チームは以下のような役割分担で動いていました:
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デザイナー/オペレーター:Illustratorで図版・ロゴ・罫線などを制作
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画像処理担当:Photoshopで写真や画像素材を補正・加工
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組版担当:QuarkXPressで全体レイアウトを設計・配置
これにより、各ソフトが**役割を明確に分担しながら連携する“理想的なDTPフロー”**が完成していました。
● 教科書・新聞・企業パンフレット──あらゆる分野でQuark支配
QuarkXPressは、日本のDTP教育や教科書づくりにも導入され、多くの人が“最初に学ぶレイアウトソフト”として経験しました。
企業でも広報誌・年次報告書・営業資料・パッケージ説明書などに活用され、「Quarkファイルで納品」という条件が当たり前のように存在していました。
まさに1990年代、**「レイアウトといえばQuark」**という一極支配が完成していたのです。
● しかし…2000年代に入り、状況は一変する
QuarkXPressは、あまりにも業界で大きな存在となりすぎたことで、次第に傲慢な経営姿勢と技術革新の停滞が目立つようになっていきます。
機能更新の遅れ、日本語対応の不備、ライセンス管理の厳格化、対応OSの限界…。
その隙を突くように、ついにAdobe InDesignが登場。
IllustratorやPhotoshopとのスムーズな連携、直感的な操作性、PDF/X完全対応――その魅力によって、Quark王朝は次第に崩れていくのです。
第6章|InDesignの登場とPDF/X入稿の時代(2000年代〜)
1990年代、出版・広告業界のDTP環境はQuarkXPressを中心に成り立っていました。
しかし2000年代に入り、その「常識」が急速に揺らぎ始めます。
理由は一つ――**Adobe InDesign(インデザイン)**の登場です。
InDesignは単なる新しいレイアウトソフトではありませんでした。
それは、Illustrator・Photoshopと連携し、PDF/Xと完全統合された、**“印刷のための完全な統合ソリューション”**だったのです。
● Adobeが放った一手:PageMakerの後継として生まれたInDesign
1994年、AdobeはPageMakerを開発していたAldus社を買収。
その資産とノウハウをもとに、1999年、ついにInDesign 1.0をリリースしました。
当初は「Quarkには勝てない」「機能が足りない」と言われたInDesignですが、2003年の**InDesign CS(Creative Suite)**を境に、一気に状況が変わります。
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Illustrator・Photoshopとシームレスに連携
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透明処理、段落スタイル、マスターページ、縦書き対応などを強化
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日本語組版エンジンの刷新(モリサワ組込)
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PDF/X-1a、X-4に完全対応
これらの機能強化により、印刷現場のプロたちが**「あれ、もうQuarkじゃなくてもいいかも…」**と思い始めたのです。
● QuarkXPressとの違い:自由度と現場のリアルさ
InDesignは単なる“後追いソフト”ではありませんでした。
それどころか、現場の声を徹底的に反映させた設計思想が各所に見られました。
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PDFの書き出し設定が詳細かつ分かりやすい
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画像解像度の警告や、リンク切れの自動通知など、事故を防ぐ工夫
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IllustratorとPhotoshopのネイティブファイル(.ai、.psd)をそのまま配置可能
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オーバープリント、透明、特色の出力プレビューまで可能
つまり、「デザインのためのレイアウトツールではなく、“印刷のため”のレイアウトツール」として、InDesignは現場に愛される存在になっていったのです。
● PDF/X入稿の登場:印刷データの常識が変わった
そして、InDesignの普及とともに、印刷業界ではもうひとつの革命が進行していました。
それが「PDF/X(ピーディーエフ・エックス)による入稿」です。
かつて印刷の入稿といえば:
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Quark本体+リンク画像+フォントを全てまとめて渡す
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フォントが合わない、画像が抜けてる、バージョン違い…とトラブルが絶えない
そんな時代でした。
しかし、PDF/Xで出力されたデータは:
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文字はすべてアウトライン or 埋め込み済み
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画像リンクも統合済み
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印刷に必要なトンボ・塗り足しも完全整備
「この1ファイルさえあれば、誰が見ても、どこで出しても同じ印刷ができる」――
まさに印刷業界にとって夢のような入稿形式だったのです。
InDesignはこのPDF/X出力にいち早く完全対応。これが、Adobe一強時代を決定づける大きな要因となりました。
● 印刷業界の再編:Quark→InDesignへ
こうして2005年以降、印刷現場では急速にQuarkXPressからInDesignへの乗り換えが進みました。
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Adobe Creative Suite(のちのCreative Cloud)でIllustrator・Photoshopと一括提供
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クラウドによるアップデート対応、ファイル互換性の向上
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学校教育・DTPスクールでもInDesignが標準に
「デザイン=Adobe」「印刷データ=PDF/X」「レイアウト=InDesign」
これらが**業界の“当たり前”**となったのです。
● 印刷会社がAdobeソフトで“制作”を請ける時代へ
また、この時代から印刷会社自身がAdobe製品を使い、デザイン・編集・DTPオペレーションを行うケースも急増しました。
つまり、**「印刷会社=刷るだけ」ではなく、「作るところから手伝うパートナー」**としての役割が強まりました。
InDesignで組まれたデータは、印刷だけでなくWeb・電子書籍にも展開でき、Adobeのワークフローが印刷を越えて**「情報発信のインフラ」**となっていったのです。
第7章|なぜIllustratorが“印刷の定番ソフト”になったのか?
InDesignが出版・編集系のレイアウトで台頭した2000年代以降、DTPの世界は確かに多様化した。
しかし、チラシ・名刺・パンフ・シール・POP…日々現場でやりとりされる“印刷データ”の主役は、今も昔も――**Adobe Illustrator(通称:イラレ)**だ。
「aiデータありますか?」
「イラレで作ってください」
「アウトライン済みで」
この言葉が飛び交うのは、Illustratorが単なるデザインツールではなく、印刷現場の“共通言語”だからに他ならない。
ではなぜIllustratorが、ここまで“印刷屋にとって理想のソフト”になったのか?
現場の目線・歴史的経緯・制作フローの変化・お客様ニーズの変化――すべてを踏まえ、徹底解剖していこう。
● Illustratorは「印刷の最小単位=1枚物」に強かった
印刷と一口に言っても、その用途はさまざまだ。
新聞・書籍のような多ページ構成もあれば、名刺・チラシ・ポスター・シールといった「1枚で完結する印刷物」も数多い。
そして、“1枚物”の制作において、Illustratorは圧倒的な機能と柔軟性を持っていた。
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テキスト・図形・写真を一画面で同時に扱える
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トンボや塗り足し、断裁位置などを自由に設計可能
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デザインと同時に出力設計ができる(=版下そのもの)
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製版工程との親和性が高い(特色・オーバープリント・レジスト制御)
つまりIllustratorは、「そのまま版にできる設計図」を作れるソフトだった。
InDesignが“編集のためのツール”だとすれば、Illustratorは“出力のためのツール”として、より現場密着型だったのだ。
● 「完全データ」を作れる安心感──アウトライン、リンク、特色、塗り足し…
印刷会社がIllustratorを好む最大の理由は、**“ミスが少ない”**という点にある。
特に以下の4つは、Illustratorでのデータ入稿が「信頼される理由」となっている。
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アウトライン化で文字化けゼロ
→ フォントの埋め込み不要、OS・環境を問わず文字を正しく再現できる。 -
画像リンクの確認がしやすい
→ 埋め込みも可能。リンク切れもファイル内で警告される。 -
特色(スポットカラー)の扱いが正確
→ 企業ロゴやブランドカラーなどの厳密な色管理に対応。 -
トンボ・塗り足し設計が柔軟
→ 出力担当者の意図をデータ上で明示できる。製版がスムーズ。
これにより、印刷会社側では**「修正・補完が少なく、即出力できる」=コストと時間の節約になる**。
結果として「Illustrator入稿=歓迎される」という構図が、業界全体に定着したのだ。
● Illustratorの強みは「作業スピード」と「部分修正のしやすさ」
もうひとつ重要なのは、データ編集の効率の良さだ。
たとえば、チラシの一部だけ直したいとき。
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キャッチコピーの文字だけ変えたい
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価格の数字だけ直したい
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写真を差し替えたい
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カラーを1箇所だけ変更したい
これらはすべて、Illustratorなら数秒〜数分で完結する。
**「レイヤー管理」「オブジェクト単位の編集」「選択しやすさ」**など、修正に強い構造がデフォルトで備わっているからだ。
InDesignやPhotoshopでもできないわけではないが、ページ構成や画像編集の複雑さが邪魔をする。
“小回りの利く道具”としての使い勝手が、Illustratorの現場での強さの源泉なのだ。
● 制作→製版→出力…Illustratorは全フローに対応できる
Illustratorは単なる「デザインツール」ではない。
現場では、「制作」「製版」「出力」のすべての工程に跨って使えるマルチツールなのだ。
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制作段階では:自由なレイアウトと編集機能
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製版段階では:CMYK分解やオーバープリント確認、特色指定などの制御
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出力段階では:PDF/X形式での高精度書き出し、またはeps保存での従来対応
つまり、「1ファイルで完結する印刷仕様書」として成立する。
印刷会社にとっては、二次加工や補正・修正がしやすいという点でも圧倒的に優れているのだ。
● 一般ユーザー・クライアント側にも浸透している安心感
ここまで印刷会社やデザイナー目線で語ってきたが、実は**「クライアント(お客様)側にも普及している」**という点も見逃せない。
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企業内でIllustratorを使って自社パンフを作る
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行政や団体がイベントチラシをai形式で支給
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ロゴデータをIllustrator形式で持っている企業多数
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商業施設がPOPをIllustratorで設計し、印刷所へ持ち込む
このように、Illustratorは「デザイナー専用」ではなく、一般利用にも浸透している。
だからこそ、印刷会社も「Illustrator形式なら話が早い」「修正もしやすい」「情報共有がしやすい」――
まさに“業界標準フォーマット”として成立しているのである。
● Illustratorの入稿が最も多いジャンルとは?
印刷の現場で「Illustrator入稿」が圧倒的に多いのは、以下のジャンル:
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名刺(表裏完結、トンボ付き)
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ショップカード・スタンプカード(デザインと印刷設計が混在)
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チラシ・フライヤー(片面または両面)
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ステッカー・ラベル(型抜き・抜き型設計との親和性)
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封筒(宛名・ロゴ・住所ブロックのレイアウト)
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パッケージ台紙・箱設計(展開図に直接デザインができる)
これらは**“Illustratorでないとやりにくい”領域**でもある。
特にミリ単位での設計・寸法調整・仕上がり見込みなどを考慮すると、Illustratorは「作る・測る・刷る」の全部をカバーできる理想的なソフトなのだ。
● だから現場は言う──「とりあえずイラレでください」
デザイン入稿に迷ったら、印刷会社はこう言う。
「aiデータありますか?」
「とりあえずイラレでください」
「アウトライン化済みでトンボ付きなら即入稿できます」
これはIllustratorが、“安心・安全・拡張性・時短・現場慣れ”というすべての要素で信頼されている証であり、
今もなお印刷業界でIllustrator入稿が基本とされる理由でもあるのだ。
📝コラム|そして彼らは消えていった──懐かしの印刷・DTPソフトたち
印刷業界で「今やIllustratorが定番」とされるまでには、実に多くのソフトたちが登場し、そして静かに消えていきました。
今回は、そんな“時代を支えた名脇役”たちを、DTP黄金期を知る人ならきっと懐かしく思う「レガシーソフト名鑑」としてご紹介します。
● PageMaker(ページメーカー)|黎明期のDTPを築いた元祖ヒーロー
登場:1985年(Aldus社 → のちにAdobeへ)
OS:Mac(初期)→ Windows対応もあり
初めてのレイアウトソフトにして、DTPという言葉を生んだ立役者。
テキストの流し込み、画像との組み合わせ、段組設定など、印刷物の構造を“誰でも”画面上で作れるようにしたその功績は計り知れません。
しかし、複雑な処理に不向きで、1990年代後半からQuarkに押され凋落。
AdobeがInDesignに路線変更したことで、静かに消えていきました。
名言:「PageMakerでDTPが始まり、InDesignで完成した」
● QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)|90年代の絶対王者
登場:1987年(Quark社)
特徴:多段組、マスターページ、カラー管理などプロ仕様機能満載
出版・雑誌・カタログ業界のプロたちから圧倒的な支持を受け、**「Quarkで組めない編集者は一人前じゃない」**とまで言われた時代も。
ところが、独自仕様の強さとアップデートの遅れ、日本語対応の甘さなどで徐々にユーザー離れ。
2000年代以降はInDesignにシェアを奪われ、今では一部の専門業界を除きほとんど見かけなくなりました。
名言:「Quarkを制する者が出版を制す」──だった時代。
● Word/Excel入稿|ちょっと困るけど、消えない裏定番
今なお健在ではあるものの、印刷会社にとっては“ちょっと困る存在”。
-
行間・字間が微妙にズレる
-
書体やサイズが環境依存
-
トンボや塗り足しが無い
-
RGB色・ピクセルベース画像が多い
とはいえ、お客様にとっては「使い慣れてる」「社内で回せる」「コストゼロ」の三拍子。
IllustratorやInDesignを使えない場合、「最もよくある非推奨データ」として、いまだ現場に登場し続けているのが現実です。
裏名言:「Wordで作ったんですが、印刷できますか?」(印刷会社「……がんばります」)
● フリーソフト群(GIMP/Inkscape/Scribusなど)|DIY印刷の味方たち
「Adobeは高いから…」という理由で使われる、フリーの画像・デザイン・レイアウトソフトたち。
それぞれ機能はそれなりに豊富だが、印刷向けにはやや不安定。
-
GIMP(Photoshopの代替)
-
Inkscape(Illustratorの代替)
-
Scribus(InDesignの代替)
完全無料だが、CMYK変換や特色指定、トンボ作成、解像度の制御などが難しいため、プロ印刷には向かず。
とはいえ、簡単なラベルや趣味印刷には重宝されており、“DTP予備軍”として存在感を放ち続けている。
実話:「GIMPで作った画像、CMYK変換したら色が別物に…」
● 一太郎(ジャストシステム)|国産ワープロの雄も、DTPで戦った時代があった
今や「日本語ワープロソフト」として有名な一太郎も、90年代には「Justsystem DTP」としてDTPツールとの連携を模索していた時代がありました。
フォントの美しさ・縦書き・ルビ対応などは高評価でしたが、画像処理や印刷仕様とのズレが多く、結果としてDTP市場では勝ちきれず。
ただし、教育機関・官公庁では現在も根強い利用があり、印刷業界における“ちょっと特殊なデータ”としてたまに登場する。
名言:「一太郎で作った文書、PDFにして送りますね」→印刷会社(祈るように開く)
● まとめ:時代は移り変わっても、印刷データには“現場の正解”がある
数多のソフトが現れては消えていく中で、なぜIllustratorが生き残り、今も印刷業界の最前線にいるのか。
それは、単に「高機能だから」ではなく、
-
制作から出力まで一貫して関われる
-
印刷仕様に強く、トラブルが少ない
-
制作側も現場も、共通言語として使える
という、“現場にとっての使いやすさ”を徹底的に持っているからに他なりません。
ソフトは時代とともに変わる。
けれど、「誰にとって、どう使いやすいか?」という視点こそ、印刷の世界で長く生き残るための唯一の真理かもしれません。
最終章|印刷データ作成ソフトの進化年表|写植からIllustratorまで
印刷の現場で使われるソフトウェアは、時代とともに劇的に進化してきました。
手作業の写植から、デジタルDTP、PDF入稿、そしてIllustrator一強の現代まで――
ここで、その変遷を年表で一気に振り返りましょう。
● 1960〜1980年代前半|写植・版下の時代
年代 | 出来事 | 解説 |
---|---|---|
1960年代 | 写植機が普及 | フォント選択・組版ができる“写真植字機”が印刷の主役に。 |
1970年代 | 電算写植登場 | コンピュータ制御で写植の効率化が進む。 |
1980年代前半 | 版下職人の時代 | 罫線・図版・貼り込みすべて手作業。分業体制が確立していた。 |
● 1985〜1995年|DTP黎明期とPageMakerの時代
年 | 出来事 | 解説 |
---|---|---|
1984 | 初代Macintosh登場 | GUIとマウスで直感操作できる革命的パソコン。 |
1985 | Aldus PageMaker登場 | 世界初のDTPレイアウトソフト。組版の民主化が始まる。 |
1987 | Adobe Illustrator 1.0登場 | ベクター描画によるデザイン制作の幕開け。 |
1988 | Photoshop 1.0リリース | 画像補正をデジタルで行えるように。職人技の民主化。 |
● 1995〜2005年|QuarkXPressの黄金時代
年 | 出来事 | 解説 |
---|---|---|
1990年代 | QuarkXPressが業界標準に | 出版・カタログ制作に不可欠なプロ仕様レイアウトツール。 |
1994 | AdobeがAldusを買収 | PageMakerの権利を取得。InDesign開発の布石に。 |
1999 | InDesign 1.0登場 | Adobe製の本格DTPソフトが誕生するも、初期は不安定。 |
● 2005〜2015年|InDesignとPDF/X時代の確立
年 | 出来事 | 解説 |
---|---|---|
2003 | InDesign CS登場 | Illustrator・Photoshopとの連携が進化。 |
2005 | PDF/X入稿が急速に普及 | “完全データ”の考え方が標準に。 |
2006 | InDesign CS2〜CS3時代 | 日本語組版エンジンが大幅改善、Quark離れが進む。 |
2010年頃 | Creative Suite → Creative Cloudへ | Adobeがサブスクリプション型に移行。 |
● 2015〜現在|Illustrator一強と入稿の簡易化
年 | 出来事 | 解説 |
---|---|---|
2015〜 | Illustrator入稿が定番化 | 印刷物の大半がIllustratorで制作されるように。 |
2020年代 | クラウド入稿・Web校正が普及 | コロナ禍以降、リモート環境に適応するツールが急増。 |
2024現在 | Illustrator+PDF入稿が主流 | 特にチラシ・名刺・パッケージ・ラベル系でシェア圧倒的。 |
まとめ|印刷ソフトの歴史は、現場の“使いやすさ”の歴史だった
この年表からわかる通り、印刷業界で支持されるソフトは、
-
現場に馴染む操作性
-
印刷仕様への正確な対応力
-
トラブルの少なさ
-
データの再現性(プレビュー通りに刷れる)
という基準で選ばれてきました。
Illustratorが今も最前線に君臨しているのは、単なる流行ではなく、“最も現場にフィットするソフト”であり続けているからです。
【保存版】Illustratorで印刷入稿するときの最終チェックリスト
印刷会社にIllustrator(.ai)形式で入稿する場合、下記の項目を確認するだけでトラブルの9割は防げます。
印刷物の種類(名刺/チラシ/封筒など)を問わず、すべてに共通する完全データの基本です。
▶併せて読みたい記事 Illustrator・PDF入稿完全ガイド|印刷会社が教えるネット印刷データ作成&トラブル防止チェックリスト【保存版】
No. | チェック項目 | 詳細 |
---|---|---|
1 | フォントはすべてアウトライン化済みか? | 使用フォントが環境依存しないよう、文字は全選択→アウトライン化。 |
2 | 画像は埋め込み or リンク切れなし? | リンク切れ画像はNG。可能なら画像は埋め込みがベスト。 |
3 | カラーモードはCMYKか? | RGBのままでは色味が変わる。必ずCMYKに変換。 |
4 | 特色(スポットカラー)は正しく指定されているか? | PantoneやDICを使う場合は必ずスポットカラーとして指定。 |
5 | トンボ(トリムマーク)があるか? | 塗り足し・断裁位置が分かるようトンボは必須。 |
6 | 塗り足し3mm以上あるか? | 断裁ズレを防ぐため、仕上がり外側に3mm以上の塗り足しを。 |
7 | 不要なレイヤー・オブジェクトは削除したか? | ガイド、メモ、非表示の不要データを残さない。 |
8 | 仕上がりサイズ・折り位置・ミシン目などを明記したか? | 特殊加工がある場合は、別レイヤーや注釈で指定する。 |
9 | 保存形式は「Illustrator(.ai)」or「PDF/X」か? | 環境により「Illustrator CC以下」推奨の印刷会社もあるので確認。 |
10 | 最終確認用のJPGやPDFを同梱したか? | デザインの意図を伝える“見本画像”があると印刷会社が安心。 |
印刷会社に相談するときのポイント【データトラブル防止】
Illustratorで入稿する際、「完全データで作ったはずなのに不備が出た…」という事態を避けるために、事前に印刷会社へ確認しておくべきポイントもご紹介します。
● 1. 使用可能なIllustratorのバージョンは?
印刷会社によっては「CC最新版OK」「CS6まで対応」などバージョン指定がある場合があります。
特に互換保存(.ai 形式)やPDF書き出しの設定には注意。
● 2. PDF/Xでの入稿が推奨されているか?
Illustrator形式のまま or PDF/X形式で入稿するかは会社ごとに異なります。
「ai入稿OKですか? PDFのほうが良いですか?」と確認しておくと安心。
● 3. トンボ・塗り足しのルールは?
トンボの作り方・塗り足し幅(通常は3mm)など、印刷会社によって細かく指定があることがあります。
テンプレートをもらえる場合は、それを使うのが最も確実。
● 4. 特色や金・銀インク使用時の注意点
特色指定・金箔・白版・PP加工など、特殊な印刷を予定している場合は必ず事前相談を。
「スポットカラーをレイヤー分けしておいてください」など、会社ごとにルールが異なります。
このチェックリストとポイントを活用すれば、Illustrator入稿の失敗リスクは激減し、印刷会社とのやり取りもスムーズになります。
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