赤という言葉の語源|なぜ“アカ”と読むのか?歴史・文化・意味をやさしく解説

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0章|導入──「赤」はなぜ“アカ”と読むのか?


日本語の基本色名の中でも、とくに歴史が古いグループに入るのが「赤(あか)」です。
でも、よく考えると不思議ではありませんか?

同じく古い和語として「青」「黒」「白」などもありますが、
その中でも「あか」は、血や火、太陽など**“生命のイメージ”に直結した色名**として、特別な存在感を持っています。

なぜ日本語は、この色だけこんなに強い響きをまとっているのでしょうか。

そのヒントは、古代人の感覚のど真ん中にあります。

「赤」は、もともと
「明るい(あかるい)」「あきらか(明らか)」と同じ語源を持つ、
“もっとも目立つ色”という、とても素朴な感覚から始まった色名だと考えられています。

血の色、太陽の色、火の色。
遠い昔の人々にとって、“生命が動いている瞬間に見える赤い輝き”こそが、世界を理解するための基準でした。

はっきりと見えるもの。
命の力を感じるもの。
災いを追い払ってくれそうなもの。

そうした原始的で強烈なイメージの積み重ねが、
日本語の「赤(あか)」という特別な言葉を形作っていったのでしょう。

では、この色名はどんなふうに生まれ、どんな歴史を歩んできたのか?
次章から、言葉・歴史・文化の順に追いかけていきます。


1章|赤の語源──“明るい”から生まれた最古級の色名


「赤(あか)」という言葉のルーツは、色そのものというより、まず “光” や “明るさ” を表す感覚にあったと考えられています。
つまり、赤はもともと 「明るい(あかるい)」「明らか(あきらか)」と同じ系列の言葉です。


■ 「あか」は“はっきり見える色”のこと

古代の人々にとって、世界の中でいちばん強く目に飛び込んでくる色のひとつが赤でした。

  • 火の色(炎の赤い光)

  • 太陽の色(夕日の赤)

  • 血の色(命が流れる瞬間にあらわれる赤)

これらはどれも、遠くからでも“明るく・はっきり・強烈”に見える色です。
そのため、

明るい=あか
 → 目立つ色=赤

という自然な連想から、「あか」が特定の色名として意識されていったのだと考えられます。


■ 古語の「あからむ」「あからさま」との共通性

この語源を裏付けるように、古語には同じ「あか」を語幹にもつ言葉がいくつもあります。

  • あからむ … 赤みを帯びる、色がはっきりしてくる

  • あかるい … 光を感じる、明るい

  • あからさま … はっきり、露骨に見える

どれも共通して、
「はっきり見える」「明瞭である」 というイメージを中心に意味が広がっています。


■ 「色カテゴリーとしての赤」は血と太陽から

多くの文化で、赤は比較的早い段階から独立した色のカテゴリーとして意識されると言われます。
日本語でも、『万葉集』の時代にはすでに「あか」がはっきりした色名として使われており、最古級の基本色名のひとつと見なされています。

その背景には、

血が赤い
→ 命の輝き
→ 生命力
→ 祝いや魔除けの象徴へ発展

という連想の流れがあったと考えると、とても自然です。
こうして「赤」は、語源と言葉の使われ方の両面から、早い段階で特別な色になっていきました。


2章|歴史──『万葉集』にも登場する最古級の色名


「赤(あか)」は、日本語の色名の中でも特に古い歴史を持つ言葉です。
少なくとも奈良時代(『万葉集』が編まれた頃)には、すでに色名として確立していたことが確認できます。


■ 『万葉集』に見える“赤”の世界

最古の歌集『万葉集』には、次のような“赤◯”の語がいくつも登場します。

  • 赤玉(あかたま) … 赤い宝玉(めでたさ・尊さの象徴)

  • 赤駒(あかごま) … 赤毛の馬(若さや力強さの象徴)

  • 赤土(あかつち) … 赤みを帯びた大地

こうした用例から、当時の人々にとって「赤」は

生命・力・神聖さ・めでたさ

と結びついた、印象の強い色だったことがうかがえます。


■ “赤=はっきり・鮮やか”という感覚

『万葉集』の用いられ方を見ると、赤は単に色名というだけでなく、
鮮やかさや生気そのものを映す言葉としても機能していたように見えます。

この時代、現代のように色を細かく抽象的に分類する感覚はまだ弱く、

  • 目立つ

  • 強い

  • 生き生きしている

  • はっきり見える

といった特徴をひとまとめにした、総合的な“鮮烈さ” が「赤」だった、と考えることができます。


■ “赤らむ・赤ら顔”という身体の反応

古語の「赤らむ」は、
緊張・興奮・恥ずかしさ・怒りなどで顔が赤く染まる生理的な変化を表す言葉です。

つまり古代人は、赤を

生命が動き、感情が大きく揺れ動く瞬間に現れる色

としても捉えていた、と言えそうです。


3章|文化──赤が「生命・魔除け・祝い」の色になった理由


日本文化における「赤」は、単なる色名を超えて、信仰や感情と深く結びついた色として扱われてきました。
その根底には、血・太陽・火という古いイメージがあります。


■ 血の赤──「生命力」の象徴

古代の人々にとって、血の色は文字どおり

「生きている証」「命が宿る瞬間の色」

でした。

怪我や出産など、生死に関わる場面で必ず目にする赤は、
喜び・恐れ・畏れの感情をすべて含んだ特別な色になっていきます。

そのため、赤は早くから

  • 生命力

  • 勇気

  • 活力

といったイメージを背負う色として記憶されていったと考えられます。


■ 太陽の赤──「力」や「めでたさ」の源

昇る太陽、沈む夕日。
古代日本では、太陽の赤い輝きは 神そのもの、あるいは神の力の表れと捉えられてきました。

そのため、太陽の赤=再生・繁栄の象徴として、
祭礼や儀式の場には赤い装飾が多く用いられます。

  • 赤い日の丸

  • 神社の朱塗り(赤系の顔料・丹や朱)

  • 祭祀に使われる赤い布や縄

日本のあちこちに見られる“赤い聖域”は、こうした太陽信仰とも重なっていると考えられます。


■ 赤は「魔除け」の色

日本では古くから、赤は代表的な魔除けの色として使われてきました。

  • 子どもの産着を赤くする

  • 疫病よけの「疱瘡絵」(赤で描かれた絵)

  • 神社の鳥居の朱色

  • 長寿祈願のお守りとしての赤い下着

どれも共通して、「生命の赤い力で邪気を遠ざける」という発想に基づいています。
赤は“力が強い色”“災いをはねのける色”として、長く信じられてきたのです。


■ 「祝いの赤」──紅白文化の成立

現代に残る“紅白”の文化も、この古い感覚の延長線上にあります。

  • 紅白まんじゅう

  • 紅白幕

  • 紅白の水引

  • 紅白歌合戦(年末の締めの行事)

赤は「生命の力」、白は「清らかさ」や「始まり」を表す色とされ、
この組み合わせが**日本人にとっての“めでたい色”**として定着していきました。


■ 赤は感情と結びつきやすい色でもあった

歴史の中で、赤はいつも人間の感情表現とセットで使われてきました。

  • 恥ずかしさ(顔が赤くなる)

  • 怒り(赤面・赤ら顔)

  • 情熱(赤いハート、真っ赤な恋心 など)

身体の反応として血の巡りが変化し、実際に赤く見えることから、
赤は 感情の高まりと最も直結した色として意識され続けてきたのだと言えます。


4章|漢字「赤」の成り立ち──火の輝きを描いた象形から生まれた文字


ここまで見てきた「あか」は、日本語としての和語でした。
一方で、漢字の 「赤(せき)」 は、中国でまったく別ルートから生まれた文字です。
ここでは、漢字の成り立ちと日本語との合流を整理します。


■ 甲骨文字の「赤」は“燃え上がる火”の象形だった

漢字の原型である甲骨文字や金文をたどると、
「赤」は 燃え盛る炎や、焼けただれた状態を表す形から発達したと説明されることが多い文字です。

  • 火がパッと開いて立ち上がるような形

  • 熱と光が強く広がる様子

こうしたイメージから、「赤い光」「赤い色」全般を指す文字になっていったと考えられています。


■ 「赤」には“明るい”“むき出し”という意味も

漢字文化圏では、赤は単に色の名前にとどまらず、

  • 明るい

  • 派手な

  • 赤裸々(あからさま)=むき出しの様子

  • 赤子(せきし/あかご)=生まれたばかりの子ども

といった、**“むき出し・鮮やか・ごまかしがない”**といったイメージを伴う言葉も多く生まれました。
このあたりは、日本語の「あか」とかなり近い感覚を共有しています。


■ 日本語の「あか」が先、漢字「赤」は後から乗ってきた

日本語の「あか」という色名自体は、漢字が伝わる以前から存在していたと考えられます。
そこへ、炎を表す漢字「赤」が伝わり、意味が近かったことから

「あか」という和語の表記に、漢字「赤」をあてる

という形で組み合わされた、というのが一般的な説明です。

つまり、

  • 和語:あか(日本にもともとあった言葉)

  • 漢字:赤(中国で生まれた文字)

という別ルートのものが、日本語の中で合流して現在の「赤(あか)」になったと考えられます。


■ 音読み“せき”と訓読み“あか”の役割分担

奈良・平安以降、漢字文化が本格的に入ってきても、日常生活では和語の「あか」が広く使われ続けました。
その結果、

  • 訓読み:赤(あか)=具体的な色の名前

  • 音読み:赤(せき)=やや抽象的な語(赤道・赤字・赤血球など)

という、ゆるやかな役割分担が現在まで続いています。


5章|現代の「赤」が持つ意味──感情・注意喚起・ブランドの色


古代から続く「目立つ色」「生命の色」というイメージは、
現代社会でも形を変えながら生き続けています。
心理・デザイン・コミュニケーションのあらゆる場面で、赤は今も特別扱いされる色です。


■ ① 情熱・愛情・エネルギーの色

赤は、感情と直結しやすい色として扱われています。

  • 赤いハート=愛情・恋愛

  • 赤いバラ=情熱的な想い

  • スポーツチームのレッド=闘志・勝利への意志

  • ファッションの赤=自信・エネルギーの演出

色彩心理の研究でも、赤い刺激が人の覚醒度や緊張感を高める傾向が報告されており、
**「赤は強い気持ちを引き出す色」**というイメージと重なっています。


■ ② 注意・危険の色として世界共通で使われる

現代社会で赤は、

  • 信号の「止まれ」

  • 緊急停止ボタン

  • 注意・警告表示

  • 消火器や危険マーク

など、「注意してほしい部分」に集中的に使われる色です。

“まず最初に目に飛び込んでくる色=赤”という感覚は、
工業デザインや安全基準の世界でも有効だと考えられており、国や分野を超えて活用されています。


■ ③ 食欲を刺激し、ブランドカラーとしても強い

赤は視覚的な刺激が強く、温かさや勢いのイメージもあるため、

  • ファストフード店

  • 清涼飲料水のブランド

  • ピザや肉料理系のチェーン

など、多くの企業がロゴカラーに採用しています。

「おいしそう」「元気になれそう」という印象を伝えたいとき、
赤は非常に使いやすい色だと考えられているのです。


■ ④ 日本独自の“おめでたい赤”文化は今も健在

古くからの「生命力=赤」という感覚は、現代の祝い事にも引き継がれています。

  • 紅白幕や紅白まんじゅう

  • 結婚式の赤い色打掛

  • 年末年始の紅白歌合戦

  • 正月飾りに使われる赤い飾り紐

赤は今も、「お祝い」「ハレの日」の中心にある色として、私たちの生活に溶け込んでいます。


■ ⑤ デザイン現場でも“視線誘導のエースカラー”

デザインや印刷の現場では、赤はしばしば

「視線誘導に最も効く色のひとつ」

として扱われます。

  • セールPOPの赤文字

  • 見出しやボタンの差し色

  • 緊急告知のテキストカラー

赤をポイントで使うだけで、読者やお客さんの視線をグッと引き寄せられるため、
マーケティングや広告の世界でも欠かせない存在になっています。


◆ まとめ

  • 「赤(あか)」は、「明るい」「明らか」と同じ語源をもつ最古級の色名。

  • 奈良時代の『万葉集』にも数多く登場し、早くから生命・力・神聖さを象徴する色として使われてきた。

  • 血・太陽・火のイメージから、魔除けや祝いの色として定着し、日本独自の“紅白文化”にもつながっている。

  • 漢字の「赤」は炎を描いた象形に由来し、のちに和語「あか」の表記として組み合わさって現在の形に。

  • 現代では、情熱・注意喚起・ブランドカラー・お祝いなど、感情とコミュニケーションを動かす色として活躍している。


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