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0章|まずは結論:共役二重結合は“この世界の色を動かすエンジン”だった
色はどこからやって来るのでしょうか。
インキはなぜその色をしているのでしょうか。
食品は熟成すると、どうしてあの深い色になるのでしょう。
服は日光でどうして色あせるのでしょう。
にんじんのオレンジ、葉の緑、印刷のシアン。
私たちが“当然のように見ている色”は、一体なぜその色なのでしょうか。
その答えをたった一言でまとめると、こうなります。
「共役二重結合(きょうやくにじゅうけつごう)」が光を吸収し、吸収されなかった光が私たちの目に届くから。
共役二重結合とは、分子の中で
二重結合が“バトンのように連続してつながった”構造のことです。
じつはこの小さな構造こそが、
自然界の色、食品の色、工業色素、印刷インキ、退色現象、熟成・酸化の色変化──
あらゆる“色の正体”に深く関わっています。
化学式が苦手でも大丈夫です。
むしろ、この構造をひとつ理解しておくだけで、
-
なぜシアンはあの青緑なのか
-
なぜマゼンタは赤と紫の間の色なのか
-
なぜ日光で色あせるのか
-
なぜ赤ワインは熟成で黒に近づくのか
-
なぜ味噌は年数で濃くなるのか
-
なぜ漂白剤は色を一瞬で飛ばすのか
-
なぜ黒インクは“どの色も吸収”して見えるのか
こうした疑問がすべて一本の線でつながります。
まさに“化学・色・印刷が一体化する”視点です。
●共役二重結合とは、「電子が走りまわる高速道路」
二重結合と単結合が交互に連なると、
電子は一箇所にとどまらず、分子全体を自由に移動できるようになります。
専門用語を使わずに言えば、
分子の中に“電子が走りまわれる高速道路ができる”状態です。
電子が自由に動けるようになると、
その電子は光(=エネルギー)を吸収しやすくなります。
そして、吸収されなかった光だけが反射して目に入り、
それが“色”として知覚されるわけです。
●色は“どの波長を吸収するかを決めているのは分子構造”である
教科書では
「赤は●nm付近の光、青は●nm」
と説明されますが、これは“結果”の話にすぎません。
本当の原因は、
共役二重結合の“長さ”と“形”が、どの波長の光を吸収できるかを決めている。
だから、
-
短い共役 → 黄色・薄い色
-
長い共役 → 赤・青・紫
-
超長い共役 → 茶色・黒
という、構造と色の明確な法則が成立します。
この視点を持つだけで、「色のロジック」が一気にクリアになります。
●印刷インク(CMYK)も“共役の設計図”で決まっている
ここがとてもおもしろい部分です。
-
Cインクがフタロシアニンの青緑なのも
-
Mインクがアゾ系の赤〜紫なのも
-
Yインクが明るい黄色なのも
-
Kインクが真っ黒なのも
どれも 分子の共役二重結合の長さと形そのものが作っている色 です。
インキメーカーが“新しい色”を開発するとき、
実際にやっていることは、
共役の長さや形を調整して、電子の動きをデザインする作業です。
つまり、“色作り”とは“共役の設計”にほぼ等しいのです。
●日光で色あせる理由も、共役の破壊だった
印刷物が日光で薄くなるとき、
食品や布の色が落ちるとき、
Tシャツのプリントが飛ぶとき。
そのすべての根本原因は、
紫外線が共役構造を物理的にちぎってしまうから。
共役が切れる
→ 電子が動けない
→ 光を吸えない
→ 色が消える・変わる
という、とてもシンプルな科学です。
●熟成や酸化で色が濃くなる理由も、共役が伸びるため
味噌、醤油、果物の変色、カレーの二日目。
これらは、酸化や反応で分子同士がつながり、
共役が長くなる → 吸収範囲が広がる → 色が濃くなる・黒に近づく
というプロセスで説明できます。
退色とは逆方向の変化です。
●共役二重結合は「色科学の中心にある一本の答え」
色名、波長、文化、歴史、心理──
これらの色の特徴たちの中心にあるのは、
じつは 共役二重結合というたった一つの構造 です。
共役二重結合は、色の“発生源”であり、色の“変化原因”であり、色の“本質”です。
自然界から食品、化学、そして印刷現場まで。
色という現象があるところには、必ずこの構造が関わっています。
第1章|共役二重結合とは?──化学式でよく見る“あのジグザグ”の正体
「共役二重結合(きょうやくにじゅうけつごう)」という言葉は、
化学の教科書や分子式の説明で突然登場します。
しかし、多くの人がこう思うのではないでしょうか。
「なんか“= と −”が交互に並んでるやつだよね?」
──実はそれ、ほぼ正解です。
ただ、その“なんか”の正体を知ると、
色の世界がいきなり立体的に見えるようになります。
●まずは形──“二重結合と単結合が交互に並ぶ”ただそれだけ
化学式では、二重結合(C=C)は「=」、
単結合(C−C)は「−」で表されます。
共役二重結合とは、これが
= − = − =
と交互に並んだ状態のことです。
ぱっと見はただの“記号の並び”ですが、
実際にはこれが 電子が走り回るスーパーハイウェイ のような構造になっています。
●電子が動きやすい道ができる
二重結合には「π電子」という“動きやすい電子”が存在します。
これが連続することで、電子は一箇所に閉じ込められず、
分子全体にふわっと広がって自由に移動できるようになります。
この“電子が自由に動ける道”が、
のちに登場する「光を吸収する性質」につながります。
●専門用語なしで理解する「共役」のイメージ
化学を学んだことがなくても、以下の比喩で一発で理解できます。
●イメージ①:各駅停車 → 特急列車になる
二重結合がひとつだけの分子は、
電子がその周辺を“ちょろちょろ”動くだけ。
しかし二重結合が連続すると、
電子は一気に遠くまで移動できます。
共役=電子が特急運転できる状態。
●イメージ②:点々の街灯 → ネオンサインの光の帯
単独の二重結合は“点”として光ります。
共役が続くと、点がつながってライン状の光になり、
電子がまとまって動くイメージになります。
その結果、光(=エネルギー)との相互作用が強くなる。
ここが“色”の原点です。
●イメージ③:ギターの弦が1本か、複数本か
弦が1本だけなら単純な“ポン”という音。
でも弦が何本も並ぶと、複雑な響きが生まれます。
共役構造は、分子全体が楽器のように共鳴する状態。
光という“波”と共鳴しやすくなり、特定の波長(=色)を吸収するようになります。
●なぜ電子が広がると色が生まれるのか?
共役すると電子は“どこか一箇所”ではなく、
分子全体に広がったπ電子の海 をつくります。
この状態で光が当たると、
-
吸収に必要なエネルギーが下がる
-
可視光の範囲の光でも吸収できる
-
吸収されなかった光が反射して“色”になる
つまり、
-
共役の有無=色の有無
-
共役の長さ=色の種類
という、非常に明確な関係が成立します。
化学式の「=−=−=」には、
実はこれほどまでに重要な意味があるのです。
●共役二重結合は“働く電子のグループ”をつくる
よくある誤解が、
「二重結合が増えるほど、色が濃くなるんでしょ?」
というものです。
正しくはこうです。
二重結合が“つながる(共役する)から”色が生まれる。
二重結合が“増えるだけ”では意味がない。
たとえば、二重結合が分子のあちこちに散らばっていても、
それぞれが孤立していると電子が流れません。
色をつくるのは“つながり(連続性)”です。
この考え方は、
後に出てくる退色(共役が切れる)・熟成(共役が伸びる)とも深くリンクします。
●だから“ジグザグ構造”は見た目以上に意味があった
有機化学の構造式は、炭素がジグザグに描かれます。
実はこの形こそが、共役構造が安定して存在するための重要な要素です。
同じ平面上に並ぶことで電子が共鳴しやすく、
光との相互作用が起きやすい“舞台”が整うためです。
化学式が急に“生きている”ように見えてくる瞬間です。
●まとめ──共役二重結合は「電子が広がって光を吸う準備が整った状態」
第1章の結論はとてもシンプルです。
共役二重結合とは、電子が分子全体に広がることで
光を吸収しやすい“色の回路”が整った状態。
そして、この回路の“長さ”と“形”が、
色・濃さ・彩度・黒さ・退色のしやすさ
すべてを決めています。
「= と − が交互にあるだけで?」
──はい。それだけで、この世界の色のすべてが動き始めます。
第2章|なぜ共役二重結合は“色”になるのか?──光エネルギーの吸収が色を決める
色は「光の波長そのもの」ではありません。
色とは、分子が“どの光を吸収し、どの光を返したか”という結果です。
その“吸収の癖”を決めているのが
共役二重結合の長さ(=共役長)。
この章では、難しい数式ナシで、
「なぜ共役が長いと色が生まれるのか?」をゼロから理解できるように解説します。
まず前提──「色」とは“吸収されなかった光”
赤いものが赤く見える理由は、
赤色だけが吸収されずに残り、目に届くから。
青いものが青く見えるのも同じで、
青以外が吸収され、青だけが反射・透過している状態です。
つまり色とは、
-
吸収された光=不得意な光
-
反射・透過された光=得意な光
分子にとっての「得意・不得意」を決める正体が、まさに共役系です。
共役は「電子の跳ぶ距離」を変える
光を吸収するとは、
電子が上のエネルギー状態に“ピョン”と飛び上がること(励起)。
このジャンプに必要なエネルギー量が、
-
どの波長を吸収するか
-
どんな色が残るか
を決めています。
そしてこの“跳ぶ距離”を変えるのが 共役の長さ。
短い共役 → 吸収は紫外線側 → 無色〜薄い黄色
二重結合がちょっとしか続かない短い共役では、
電子が動ける範囲が小さいため、
**高エネルギー(紫外〜青紫)**しか吸収できません。
結果:
-
可視光はほとんど吸わない
→ 無色〜薄い黄色に見える
例:
アゾ系の黄色、若いポリフェノール、熟成前の味噌など。
長い共役 → 吸収は可視光 → 赤・青・紫が生まれる
共役が長くなると、
電子が動ける“ステージ”が一気に広がります。
エネルギー差が小さくなり、
可視光レベルの光でも簡単に吸収できるように。
例として:
-
青緑を吸収 → 赤く見える(リコピン)
-
黄〜橙を吸収 → 青く見える(フタロシアニン)
-
黄緑を吸収 → 紫に見える(アントシアニン)
つまり、
共役長が長い = 色相(ヒュー)の“本体”を握っているということ。
極端に長くなる → 茶色・黒になる
食品でも印刷でも同じ。
共役が“異常に長く”なると、
吸収できる光の幅がほぼ全域に広がり、
-
何でも吸う
-
ほとんど返さない
→ 黒〜焦げ茶として見える
例:
カーボンブラック、焦げ色、重度のメイラード、長期熟成味噌・醤油など。
図はシンプル、原理はエレガント──光と共役は相性がいい
専門的には「π電子系のエネルギー準位差」ですが、ここでは一言で十分。
-
共役が長いほど → 電子の跳び先の差が小さくなる
-
エネルギーが低い光(=長い波長)でも飛べる
→ 赤・青・紫・黒の“吸収”が起きる
自然界の多くの色素は、この美しい仕組みによって成立しています。
色は“波長”の話ではなく、“分子構造”の話
一般的な色解説はこう言います:
-
赤は600nm
-
青は450nm
しかしこれはただの“結果”。
本当の原因は、
共役長が「どの光を吸収できるか」を決めていること。
構造を変えれば色が変わる。
共役が切れれば色が薄くなる。
共役が伸びれば色が濃くなる。
色の“源泉”は光ではなく、
分子の形そのものです。
まとめ──共役 = 光と“響き合う”ための準備
共役構造の本質は、
電子が光と共鳴しやすい状態をつくること。
-
共鳴 → 吸収になる
-
吸収されなかった光 → 色として残る
だから共役が長いほど、
色は濃く、深く、強くなる。
自然の葉のグリーン、食品の赤紫、
インキのCMYK、熟成・退色・焦げ色まで──
ぜんぶ共役で説明できる。
“色素とは電子の振る舞い”
その視点こそが、色の理解を一段深くする鍵です。
第3章|共役二重結合を持つ“身近な色素”──にんじんからCインクまで全部つながる
共役二重結合は、教科書にだけ登場する堅苦しい概念ではありません。
あなたの冷蔵庫、キッチン、コスメ、ワイン棚、スーパーの野菜売り場、街の看板やパッケージ──
あらゆる「色」が、共役二重結合でできています。
「この世界は、共役でできている」
と言っても全く言いすぎではありません。
では、身近な色素を“共役という視点”で見ていきましょう。
植物の色は“共役のショーケース”だった
自然界に存在する色の大半は、
光合成の効率化か 外敵への防御色として進化したもの。
その中心にあるのが、どれも 共役二重結合です。
🌿 クロロフィル(葉の緑)
-
中心にマグネシウムを持つ巨大な環状構造
-
周囲を取り囲むように“超ロング共役”が広がる
-
赤〜青の光を強力に吸収し、緑だけを返す
太陽光を最大限吸収するための“究極設計”。
自然界最強の共役系と言ってよい存在です。
🥕 カロテノイド(オレンジ・黄色)
-
C=C=C=C……と二重結合がズラリ
-
典型的で教科書級の「直列共役」
-
β-カロテン、ルテイン、ゼアキサンチンなどが代表
にんじん・かぼちゃ・トマト・パプリカなど、
鮮やかな食材の色はほぼこの共役構造で説明可能。
「にんじんのオレンジ」=二重結合の連続共役の可視化
と言ってよいほどのシンプルな仕組み。
食品の赤・黄色・茶色もぜんぶ“共役のドラマ”だった
🍅 リコピン(トマトの赤)
β-カロテンよりもさらに共役が長い。
→ 吸収が長波長側にシフト
→ 補色である青緑を吸収
→ “赤”として見える。
ワインの深い赤みも、熟成で共役が伸びるため。
🍛 カレーが翌日黒っぽくなる理由
-
スパイスに含まれるポリフェノールが酸化
-
分子同士が結合し、共役がどんどん伸びる
-
吸収帯が可視光全域へ
-
結果:茶色 → 黒へ
料理研究では語られることが少ないですが、
これは化学的には “共役延長の観察” にほかなりません。
🍎 りんごが茶色くなる理由
-
カット → 酸素と反応
-
ポリフェノールが結合し共役が延長
-
→ 黄色 → 茶色へシフト
食品の変色は
「共役構造がどう変わったか」を目で見ている現象です。
印刷・工業色素は“共役のプロフェッショナル”
身の回りの工業色素は、
色を出すためではなく 狙った波長だけを吸収するための“設計共役”。
自然界よりもむしろ、科学的に洗練された共役構造の宝庫です。
🟦 シアン(C)=フタロシアニン
-
巨大な環状構造の中に π 電子がドーナツ状に分布
-
共役が極端に長く、非常に安定
-
黄〜赤を吸収し、青緑だけが残る
「世界のシアンインク=ほぼフタロシアニン」
と言っていいほど業界の絶対王者。
🟪 マゼンタ(M)=アゾ系/キナクリドン
-
N=N のアゾ結合が共役に関与
-
構造を少し変えるだけで赤〜紫の幅広い色域を作れる
-
高耐光性のものは共役がより安定化している
“鮮やかな赤〜紫を作る技術”は、
すべてこのアゾ・キナクリドンの共役に依存。
🟨 イエロー(Y)=アゾ系色素
-
共役は比較的短い
-
青紫を吸収 → 黄色が残る
-
発色が安定し、鮮やかで退色に強い(紫外線には弱い)
「黄色は紫に弱い」という現象すら、
共役が短い構造によって説明できます。
⬛ ブラック(K)=カーボンブラック
-
炭素が六角形に連なる、ほぼ“無限共役”
-
すべての波長を吸収
-
最強の黒になる
黒は「色がない」ではなく、
“共役が強すぎて全部吸ってしまっている状態”。
退色も熟成も、すべて“共役の変化”で説明できる
食品・植物・インキの現象を並べると、
次の1本の線で全部つながります。
● 退色(色が薄くなる)
-
共役が切れる
-
電子が跳べなくなる
-
吸収が紫外線側に戻る
-
可視光を吸えなくなる
-
→ 色が薄い/消える
● 熟成(色が濃くなる)
-
酸化・重合で共役が伸びる
-
吸収が可視光全域へ広がる
-
→ 茶色〜黒へ
色の濃さとは、共役の「長さ」と「密度」が作る現象。
まとめ──あなたが毎日見ている色のほとんどは“共役の仕業”
改めてざっと振り返ると…
-
葉っぱの緑:巨大共役
-
にんじんのオレンジ:直列共役
-
トマトの赤:さらに長い共役
-
ワインの深い赤:熟成で共役伸長
-
味噌・醤油:超長共役
-
カレー翌日の黒:酸化で共役延長
-
印刷インキCMYK:すべて共役構造
-
ブラック:無限共役
-
退色:共役破壊
-
熟成:共役延長
「色がある」ということは、共役が働いているということ。
自然、食品、工業色、化粧品、衣類、パッケージ。
あなたの生活のあらゆる場所で、
“共役”が世界を色づけているのです。
第4章|CMYKインクと共役二重結合──印刷の色は「分子の構造」で決まる
印刷物に使われるCMYKインクの色は、
感覚や経験で決まっているわけではありません。
分子の中にある共役二重結合(=電子が動ける範囲)の長さと形が、
光の吸収波長を決定し、
その“吸収されなかった光”が色として現れます。
つまり、私たちが見ているCMYKの色は、
共役二重結合という分子構造そのものを目で見ているにすぎません。
シアン(C)──フタロシアニンは“共役の巨大構造”
世界中のシアンインクの中心にあるのが フタロシアニンブルー。
特徴
-
巨大な環状(マクロ環)構造
-
π電子が面全体に広がる“超ロング共役”
-
中央に銅(Cu)を抱えた安定構造
-
黄〜赤の光を強力に吸収
この結果、
反射(または透過)として残るのは鮮烈な青緑(シアン)。
耐光性が高く、色ブレしにくく、発色が圧倒的に強いのは、
共役が極端に長く“壊れにくい電子構造”であることに由来します。
マゼンタ(M)──アゾ系とキナクリドン、共役の“調整領域”
マゼンタに使われる色材は、主に2種。
-
アゾ系色素
-
キナクリドン系色素
どちらも“広い共役領域”を持ち、赤〜紫まで幅広い色相をつくり出します。
アゾ系色素
-
中心に N=N(アゾ結合)を持つ
-
このN=Nがπ電子を持ち、共役に参加
-
共役の長さを調整しやすく、赤〜青紫まで自在に色調変化
キナクリドン系
-
芳香族環が複数つながった“強靭な共役”
-
耐光性が高い
-
深いマゼンタ、濃い紫を安定して発色
マゼンタの色域が広く、印刷で繊細な色表現ができる理由は、
共役構造の微調整が非常に効く分子設計になっているためです。
イエロー(Y)──短い共役が“鮮やかな黄色”を生む
イエローもアゾ系色素ですが、
シアン・マゼンタと比べ 共役は短め。
特徴
-
短い共役 → 吸収は紫〜青紫側へ
-
青紫を吸収すると補色である“黄色”が残る
-
明るく、鮮やかで、視認性が高い
イエローだけが“軽やかなのに強い色”なのは、
この短い共役が生み出す吸収特性の結果です。
ブラック(K)──カーボンブラックは“ほぼ無限の共役”
ブラックインクの主成分 カーボンブラックは、
炭素が六角形(グラフェン構造)で連なった“面の色材”。
特徴
-
π電子が面状に広がる「無限共役」
-
吸収できる波長が非常に広い
-
可視光のほぼすべてを吸収
-
→ 返ってくる光が少ない=黒く見える
黒は「色がない」のではなく、
“吸収能力が強すぎる”ために黒くなる色です。
CMYKの混色も“共役の吸収カーブの足し算”
CMYKの混色による色再現は、
“補色の関係”という感覚的な説明だけでは不十分です。
本質は、
色材それぞれの吸収スペクトル(=どの波長を吸うか)の重なり合い
にあります。
-
C+M → 青系
-
M+Y → 赤系
-
C+Y → 緑
-
C+M+Y → ほぼ黒(吸収帯の合計)
これは“分子構造が作る吸収の重なり”であり、
印刷が物理と化学に直結した技術であることを示す好例です。
インキの性能は“共役の安定性”で説明できる
インキの性能評価でよく語られる項目は、
すべて共役構造の“頑丈さ・壊れにくさ”と直結しています。
-
耐光性:共役が壊れにくいほど強い
-
発色:共役が長いほど濃い
-
彩度:共役が整っているほど鮮やか
-
色ブレのしにくさ:安定した共役構造
-
退色:共役が紫外線で切れると起こる
-
価格:共役の安定性・設計難度が影響
インキの“性質”は、
共役という分子レベルの性格によってほぼ決まると言えます。
まとめ──CMYKは「共役二重結合の教科書」です
CMYKの色材は、次のように整理できます。
-
C(シアン):超巨大共役を持つフタロシアニン
-
M(マゼンタ):芳香族+アゾを含む中〜長い共役
-
Y(イエロー):短い共役を持つアゾ系
-
K(ブラック):無限共役に近いカーボンブラック
これらはすべて、
「どの光を吸収するか」を決める共役構造の違いによって生まれています。
CMYKとは、
分子構造の差異を“色として可視化した体系”そのものです。
印刷は光学であり、同時に化学でもあります。
その根底には、いつも 共役二重結合という分子のしくみ が働いています。
第5章|共役が壊れると色も壊れる──退色・色落ちは“分子の断線”だった
色(とくに有機色素の色)の正体は、共役二重結合による光の吸収です。
ということは──色が消える・薄くなる・変わってしまう現象は、
すべて 「共役が壊れてしまった」 という一点で説明できます。
インキが古い、保存が悪い、日光に弱い……
そうした“表面的な理由”の奥にある、本当の原因はただひとつ。
光や酸素、熱などによって、分子の共役回路が物理的に断線する。
これこそが退色の正体です。
紫外線は“共役を切るハサミ”です
退色の最大の原因は、紫外線(UV)です。
紫外線は可視光よりエネルギーが強いため、分子の弱い部分──とくに共役の端やアゾ結合、C=C部分を狙って切断します。
起きていること
-
共役をつくる二重結合が壊れる
-
電子が遠くまで移動できなくなる
-
吸収できる光が“紫外線寄り”に後退する
-
可視光の吸収が減り、色が薄くなる
共役が短くなるほど、吸収できる波長は青紫(=短波長側)へ戻っていきます。
これが「日光で色が飛ぶ」物理的な理由です。
酸素(酸化)は“共役のつなぎ目を奪う存在”です
紫外線に次ぐ大敵は酸素です。
酸化は分子から電子を奪う反応なので、共役の維持に必要な電子の流れを乱してしまいます。
酸化で起こること
-
共役の連続性が壊れる
-
二重結合が単結合に変わる
-
分子が意図しない形でつながる
-
吸収特性が変わる
「日陰に置いていたのに退色している……」
実はこれ、紫外線ではなく 酸化反応による共役の崩壊 なのです。
熱は“共役をゆがませる”静かな破壊者です
高温になると分子が激しく振動し、共役に必要な“平面構造”が保てなくなります。
平面性が崩れると…
-
電子がうまく広がれない
-
吸収が弱くなる
-
発色が淡く、彩度が落ちる
食品の退色や、長期保存での色あせは、この熱によるゆがみも深く関わっています。
退色しやすい色・しにくい色は“共役の強さ”で決まります
退色耐性は「色の濃さ」では決まりません。
決めるのは 共役がどれだけ壊れにくいか という構造上の強度です。
退色しやすい例
-
アゾ系の黄色
-
共役が短い赤
-
フェノール系の淡い色
退色しにくい例
-
フタロシアニンブルー(シアン)
-
キナクリドン系マゼンタ
-
カーボンブラック(ブラック)
シアンとブラックが圧倒的に長持ちする理由は、
“共役が構造的に壊れにくい”ためなのです。
漂白剤で色が一瞬で飛ぶのは“共役が一気に破壊される”からです
漂白剤(次亜塩素酸・過酸化物)は非常に強力な酸化剤です。
分子の電子を奪い、共役の中心である二重結合を一瞬で切断します。
起きていること
-
二重結合が破壊される
-
π電子が広がれなくなる
-
吸収が紫外線側へ移動
-
可視光をほぼ吸収しなくなる → 無色に見える
漂白とは、要するに 共役の破壊 です。
食品の退色も“共役の崩壊”で説明できます
印刷でも食品でも、退色のメカニズムはまったく同じです。
例
-
カット野菜が茶色→薄くなる
-
果汁飲料が退色する
-
カレーの上部だけ色が薄くなる
-
調味料が経年で色あせる
すべて、光・酸化・熱による 共役の崩壊 が原因です。
食品の鮮やかな色は、分子構造が壊れるにつれて静かに失われていきます。
まとめ──退色とは「共役二重結合が壊れる現象」です
退色・色落ち・色あせを一言でまとめると、こうなります。
共役二重結合が光・酸化・熱などによって断線し、
電子が移動できなくなった結果、吸収できる光が変わる現象。
-
共役が切れる → 色が薄くなる
-
共役が乱れる → 色が濁る
-
共役が消える → 無色へ近づく
退色とは、見た目の問題ではなく、
分子構造そのものが変化してしまう“化学現象” なのです。
第6章|日常の“色の変化”も共役が動いている──熟成・酸化・加熱の科学
色の変化は、決して特別な現象ではありません。
スーパーの食材、冷蔵庫の保存食品、台所で作った料理、
そして紙・布・プラスチックなどの日用品まで──
私たちの身のまわりでは常に、色が「濃くなる」「薄くなる」「黒くなる」「くすむ」という変化が起きています。
これらはすべて、
共役二重結合が“伸びる・切れる・組み替わる”ことで、吸収する光が変化しているだけ。
料理も熟成も、劣化も退色も、
じつは 同じ化学現象の別バージョン にすぎません。
色が濃くなるのは「共役が伸びる」からです
共役は長くなるほど、吸収できる光の範囲が広がり、
色は深く・濃く・暗く見えるようになります。
◆食品でよく見る例
-
味噌や醤油の熟成で黒くなる
-
カレーやシチューが翌日濃くなる
-
玉ねぎが炒めるほど褐色化
-
ロースト食品の香ばしい焼き色
-
パンや肉の“焼き目”がつく(メイラード反応)
いずれも、加熱や酸化によって
分子同士がつながり、共役が伸びている 証拠です。
◆植物で起きる例
-
枯れた葉が緑→黄→茶色になる
-
切花が時間とともに褪色→茶色化
こちらも、共役が再構成され「伸びた」結果です。
◆化学品・染料での例
-
染料が酸化で暗くなる
-
一部の印刷物が経年で茶色みを帯びる
共通するのは、すべて “共役が伸びる” という一点です。
色が薄くなるのは「共役が切れる」からです
共役が壊れると、電子は遠くへ移動できなくなり、
吸収できる光が紫外線側へ戻ります。
その結果、可視光の吸収が減り、
色は薄く・白っぽく・透明に近づいていきます。
◆代表的な例
-
野菜や果汁の退色
-
ハーブやスパイスが空気で色あせる
-
プラスチックが日光で薄くなる
-
ポスター・紙の色あせ
-
布の色落ち
これらはすべて 「共役の切断=退色」 という現象です。
黒っぽくなるのは「共役が極端に長くなる」ためです
共役が極端に長くなると、
吸収できる波長の範囲が“ほぼ全域”に広がります。
結果、吸収が多すぎて返ってくる光が減り、
色は黒〜焦げ茶へと近づきます。
◆食品でよく見る例
-
焼き菓子の焦げ
-
肉の焼き色
-
パンの表面の黒化
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味噌・醤油・黒酢など長期熟成食品
-
玉ねぎの炒めすぎによる黒化
-
コーヒー豆の焙煎
黒化は、“最長クラスの共役”のシグナルです。
くすむ・濁るのは「共役の乱れ」によるものです
色が急に薄くなるわけではなく、
微妙に“くすむ・濁る”現象もよく見られます。
これは、
共役の一部が壊れ、一部が伸び、全体が不均一になった状態
で起きる視覚効果です。
◆例
-
果物の切り口がムラに変色
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ジュースが濁る
-
化粧品が経年でくすむ
-
染料やインキの耐候劣化による色ズレ
吸収のピークが乱れることで「にごり」が生まれます。
加熱調理は“共役調整のプロセス”です
加熱で起きる化学変化は、ただの物理現象ではありません。
-
炒める: 水分が飛び、糖とアミノ酸が反応
-
焼く: 分子同士が結合し、共役が伸びる
-
煮込む: 緩やかな酸化で色素が再配置
料理の“おいしそうな色”は、
化学的には 共役の再編成 そのものです。
熟成は“共役が長くなる時間の化学”です
食品の熟成は、酵素・微生物・温度・酸化によって
分子同士がゆっくり結合する過程です。
ほとんどが、
-
共役の延長
-
吸収範囲の拡大
-
深色化(黒方向への移動)
として目に見える形で現れます。
味噌、醤油、ワイン、果実酒、チーズ、黒酢──
どれも “共役のスロークッキング” といえる存在です。
逆に、漂白は“共役の強制破壊”です
漂白剤(次亜塩素酸・過酸化物)は非常に強い酸化剤です。
-
共役の二重結合が切れる
-
π電子の広がりが失われる
-
吸収が紫外線方向へ戻る
→ 可視光をほとんど吸えなくなる=無色化
漂白とは、分子から「色を生む能力」を奪う反応です。
まとめ──日常の色変化はすべて共役の変化です
色の変化は複雑に見えて、どれも同じ原理で説明できます。
-
濃くなる → 共役が伸びる
-
薄くなる → 共役が切れる
-
黒くなる → 共極端に長くなる
-
くすむ → 共役が乱れる
-
鮮やかさが消える → 平面性が崩れて共役が弱まる
この視点で世界を見ると、
料理・食品・印刷物・繊維・化学製品──
あらゆる“色の変化”がひとつの線で理解できるようになります。
🔚 第7章|まとめ:色素とは“電子の振る舞い”である──共役がつくる色の世界
ここまで見てきた内容をひと言で表すなら、
“色とは電子の振る舞いが生み出す現象です” という点に尽きます。
どんな光を吸収するかは、
波長の前に “分子構造” が決めています。
そして分子構造の中でも最重要の仕組みこそ、共役二重結合でした。
電子がどんな道を通れるのか、どれくらい自由なのか──
そのすべてを共役がコントロールしています。
だからこそ、色素は「電子の動きをデザインした分子」と言えるのです。
■ 共役は電子の“動き方”そのものです
共役が長ければ、電子は遠くまで動けます。
短ければ、動ける範囲が限られます。
壊れると、電子はそもそも動けません。
簡単にまとめると次のようになります。
-
長い共役 … 電子が広く動ける
-
短い共役 … 電子の自由度が低い
-
共役が壊れる … 電子が動けない
-
共役が伸びる … 電子がより自由になる
-
平面が崩れる … 電子の通り道が曲がる
これらの“電子の自由度の違い”が、
そのまま色の違いとして現れます。
■ 色の違いは、電子の“ジャンプのしやすさ”の違いです
光を吸収するとは、電子がひとつ上の状態に跳び上がること。
このジャンプに必要なエネルギー量こそ、色(吸収波長)そのものです。
たとえば、
-
短い共役 → 大ジャンプが必要 → 紫外線吸収 → 無色〜黄色
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長い共役 → 小ジャンプでOK → 可視光領域を吸収 → 赤・青・紫
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超長い共役 → ほぼ全域吸収 → 茶色〜黒
つまり、色とは
電子がどれくらい“飛びやすいか”という物理の姿 なのです。
■ CMYKは「電子の振る舞いの差」をそのまま色にした体系です
印刷のCMYKも、電子の自由度で驚くほど明確に説明できます。
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シアン:巨大共役で電子が平面を広く動く
-
マゼンタ:芳香族+アゾ構造で中〜広い移動が可能
-
イエロー:短い共役で電子の動きが限定される
-
ブラック(カーボンブラック):ほぼ無限共役で電子が自由に広がる
このように、CMYKは
電子の“自由度の違い”を色として可視化したもの と言えます。
■ 退色や色落ちは“電子の道が壊れる”だけです
退色は、褪色は、色落ちは──
すべて共役が壊れることで起きます。
-
紫外線:共役を物理的に切断
-
酸化:電子を奪い、道を不通にする
-
熱:分子をゆがめて共役を破壊
-
漂白:π電子系を根本から破壊
色が弱くなるというより、
色をつくる回路が壊れて“光を吸えなくなった状態” が退色なのです。
■ 熟成や加熱で色が濃くなるのは、電子の道が伸びるからです
料理の焦げ色、熟成した味噌の黒、ワインの深い赤──
これらはすべて共通しています。
-
分子同士が結合する
-
共役が長くなる
-
電子が遠くまで動けるようになる
-
→ 吸収できる光の範囲が広がり濃色化
つまり「美味しそうな色」「深い熟成色」は、
電子の道が少しずつ長くなっていく化学現象 です。
■ 色は“分子の事情”で決まっています
色は光の都合で決まるのではありません。
もっと根本的な、
分子の中で電子がどう振る舞うか で決まっています。
電子が自由か、不自由か。
軽く跳べるのか、重く跳ぶのか。
遠くまで旅できるのか、途中でつまずくのか。
その違いが、赤や青や黄色として私たちの目に届きます。
たとえば、
-
黒が強いのは電子が“ほぼ無限に”広がれるから
-
黄色が明るいのは大ジャンプが必要だから
-
退色は電子の道が壊れたから
-
熟成は電子の道が伸びたから
-
CMYKの違いは電子の自由度の違いだから
こうしてみると、
世界の色はまるで複雑そうに見えて、
一本の物語で美しくつながります。
■ まとめ
色素とは「電子がどう動くか」を決める分子です。
共役は、電子の動きやすさを決める“回路”です。
色の違いは、電子のジャンプのしやすさの違いです。
退色は電子の道が壊れる現象で、
熟成は電子の道が伸びる現象です。
CMYKは電子の自由度の違いを色として表した体系です。
色の世界は、
電子が踊り、旅し、跳び、揺らぐことで立ち上がる、
小さな分子のストーリーそのものなのです。
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