ハーマン・ホレリスとは?パンチカード集計機と情報処理のはじまり【IBMの前身】

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このブログはブログシリーズ「コンピュータの思想と誕生」③です。

前の記事はこちらから▶②エイダ・ラブレスとは?世界初のプログラマーが生んだ情報処理の原点


🟦 第0章|導入:コンピュータの原点は、穴あきカードだった?


🕳️ 穴が開いた紙が、情報革命を起こした?

私たちが今使っているコンピュータ。
そのルーツをたどると、意外にも「穴あきカード」──パンチカードにたどり着きます。

「情報を穴で記録し、機械に読ませて処理させる」というこのアイデアは、現代から見れば原始的に思えるかもしれません。
しかし19世紀末、この仕組みがアメリカを動かす**“情報処理革命”**を引き起こしました。


👤 1890年、国勢調査を救った内向的な技術者

その中心にいたのが、ハーマン・ホレリス
彼は、膨大な人口統計を人間の手で処理していた時代に、「機械が集計する」という発想を持ち込みました。

当時のアメリカでは人口爆発が進み、国勢調査の集計に10年近くかかるという異常事態に。
そこでホレリスは、自ら開発した「パンチカード集計機」を使って、その作業をわずか1年で完了させてしまったのです。

この成果は国家規模での大成功となり、彼の発明はのちにIBM誕生の起点ともなりました。


🧠 でも…パンチカードの「発想」はもっと前からあった?

じつはこのパンチカードという考え方自体、ホレリスの発明ではありません
50年ほど前、チャールズ・バベッジが「解析機関」という理想の機械を構想した際、すでにパンチカードによる制御を考えていたのです。

バベッジは、織物工場で使われていた「ジャカード織機」の仕組みから着想を得て、計算手順や変数入力にパンチカードを使おうとしていました。
彼の目的は、機械にプログラムさせること。一方ホレリスは、機械にデータを集計させることに主眼を置きました。

つまり──

💡 バベッジが描いたのは“命令のカード”、ホレリスが実現したのは“情報のカード”だったのです。


▶併せて読みたい記事 チャールズ・バベッジとは?解析機関を構想した“コンピュータの父”の思想と功績


🖨️ 穴のあいた一枚のカードに、未来が詰まっていた

現在のコンピュータは、デジタルデータを読み取り、指示に従って膨大な処理をこなしています。
その基本となる概念は、すでにこの時代──19世紀末には芽生えていました。

「情報を記録し、それを機械が読み取り、判断して処理する」

この構造こそが、今日の情報社会の出発点
そしてそれを現実にしたのが、ハーマン・ホレリスのパンチカード集計機なのです。


次章では、なぜホレリスの発明が必要とされたのか、当時の時代背景から紐解いていきましょう。


🟦 第1章|アメリカの“人口爆発”と統計の限界


📈 1880年の国勢調査──集計に7年もかかった!

19世紀末のアメリカは、急速に変化していました。
南北戦争が終わり、大陸横断鉄道が整備され、移民が急増。経済とともに、人口も爆発的に増加していたのです。

1880年の国勢調査では、約5,000万人の国民データをすべて手作業で分類・集計
結果、報告書の完成には7年もかかり、次の調査が始まる頃になってやっと前回の結果が出るという有様でした。


⏳ 次回調査(1890年)は“手作業では絶対に間に合わない”

1890年、次の国勢調査の時期が迫っていました。
この時点で人口は6,200万人を突破。もし同じやり方で集計したら、10年以上かかる可能性すらあると危惧されていました。

国勢調査局は危機感を抱き、調査業務の「機械化」を模索。
当時はまだコンピュータという概念すらない時代ですが、すでにデータ処理の限界
に突き当たっていたのです。


🏛️ 政府による技術コンペ──“新しい手段”を募集

1888年、アメリカ政府は**「国勢調査を高速化できる方法」を募るコンテスト**を開催。

応募条件は明快でした。

「より早く、正確に、大量のデータを分類・集計できること」

このコンペに応じた数名の技術者の中で、圧倒的な成果を示したのがハーマン・ホレリス
彼の提示したシステムは、他の提案よりも3倍以上の速度で処理できることが実証され、正式に採用されることになります。


⚠️ 「統計の危機」こそが、機械発明の起点になった

興味深いのは、この時ホレリスが目指していたのは機械の発明そのものではなかったという点です。

彼はもともと、**「膨大な人間の情報を、どう効率よく理解するか?」という統計的課題に取り組んでいただけでした。
しかし、その問いに答えようとした結果、
「情報を機械で処理する」**という新しい道が切り拓かれたのです。


🟦 第2章|ハーマン・ホレリスとはどんな人物か?


👦 内向的で“数字”が得意な青年

ハーマン・ホレリスは、1859年にニューヨーク州で生まれました。
ドイツ系移民の家庭に育ち、幼少期から非常に無口で内向的な性格だったといいます。

しかし、数字や図形に対する理解力は群を抜いており、わずか19歳で名門コロンビア大学の鉱山工学科を卒業
当時としては異例の若さで、アメリカ最先端の知的エリートの仲間入りを果たしました。


🚂 鉄道や気象局で“データ処理の限界”を目の当たりに

卒業後、ホレリスは鉄道会社や国立気象局に勤め、大量の数値データを扱う仕事に従事します。

とくに気象局では、膨大な天気観測データを人力で整理・計算するという、果てしない作業が日常でした。
そのときホレリスが痛感したのが──

「人間の頭と手だけでは、膨大な情報に追いつけない」

という“情報処理の限界”でした。

この体験が、のちに彼がパンチカード集計機を発明する原点となったのです。


🕳️ ヒントは「ジャカード織機」と「列車の乗車券」

ホレリスは、自分のアイデアを練る中でふたつの“穴あき”に注目します。

  1. ジャカード織機
     布地の織り柄を制御するために使われていた、穴の空いたカード(パンチカード)
     織機にこのカードを通すことで、決まった柄が自動で織られる仕組み。

  2. 鉄道の乗車券
     駅員が穴をあけて管理していた乗客情報。列車の行き先や性別、年齢などを、穴の位置で把握していた。

彼はこう考えました。

「人間の“属性”を、穴の位置で記録できるのではないか?」

「あとは、機械がそのカードを“読む”ことができれば…」

この発想が、のちのパンチカード集計機へとつながっていきます。


🛠️ 情報を“目で見る”のではなく、“電気で読む”

さらにホレリスは、「穴の有無」を電気回路で読み取るという斬新な仕組みを考案。

針のついた読み取り機を使い、針が穴を通ると導通し、対応するカウンターが1加算される──
まさに「機械がデータを読む」という、まったく新しい概念でした。


彼の静かな頭脳の中で、人間の代わりに考え、分類し、数える機械というビジョンが育っていったのです。

次章ではいよいよ、ホレリスが完成させたパンチカード集計機のしくみを、図解イメージとともにわかりやすく紹介します。


🟦 第3章|パンチカード集計機の仕組み──“穴の位置”が情報になる


🕳️ 穴の空いた紙に、人間の情報を記録する

ホレリスが発明した「パンチカード集計機(Tabulating Machine)」は、単純ながら画期的なシステムでした。

使うのは、横12行 × 縦24列の穴あきカード
そこに、名前、性別、年齢、人種、職業、既婚・未婚などの情報を「穴の位置」で記録していきます。

たとえば:

  • 3列目 → 男性

  • 5列目 → 20代

  • 8列目 → 教師

  • 12列目 → 既婚

といった具合に、穴の位置=データの属性となるのです。


🔌 機械が「穴の有無」を電気で読み取る

記録されたカードは、針と電気回路が組み合わされた読取機にセットされます。

  • 各列に対応した細い金属針が、上からカードに押し付けられる

  • 穴があると針が貫通し、下の金属板と接触して電気が流れる

  • 電気信号により、該当するカウンターが+1される

つまり──

💡 「穴がある = その属性を持っている」 → 自動でカウント!

これにより、人間が目で見てチェックすることなく、カード1枚ごとに瞬時に分類・集計が可能になったのです。


📊 集計結果はダイヤルメーターで表示

カウンター部分にはアナログメーター(針式ダイヤル)が並んでおり、各属性ごとに累積人数がリアルタイムで表示されます。

たとえば:

  • 男性 → 8,431人

  • 女性 → 8,912人

  • 未婚 → 6,700人

  • 南部出身者 → 2,125人

など、目に見える統計数値としてすぐに出力できました。


🖨️ さらに進化して「自動ソーター機能」も搭載

後のモデルでは、読み取り後のカードを**自動的に分類する「ソーター(仕分け機)」**も開発されました。

  • 条件に合うカードだけをAの箱へ

  • 別の条件に合えばBの箱へ

  • それ以外はCの箱へ

こうして、「検索+分類+統計処理」まで一気にこなす装置へと進化していきます。


🖥️ 現代のITと驚くほど似た仕組み

このシステム、実は今のデータベースやスプレッドシートの構造とそっくりです。

  • パンチカード:1レコード(1人の情報)

  • 穴の位置:フィールド(列名)

  • 読み取り&分類:SQL検索や関数処理

🔄 パンチカード集計機は、「データ構造化」+「自動処理」という、まさにITの基本原理を100年以上前に実現していたのです。


次章では、こうした機械が国勢調査でどのように使われ、どんな衝撃的成果をあげたのかを見ていきましょう。


🟦 第4章|国勢調査での劇的成果──処理速度が10倍以上に


📅 1890年のアメリカ国勢調査に“初の機械”が導入される

1890年、アメリカ政府は国勢調査において、ハーマン・ホレリスの「パンチカード集計機」を正式採用。
それは国家規模で初めて機械を使って情報処理を行う試みでした。

調査対象は約6,200万人。カードの打ち込みは人手で行われましたが、その後の集計・分類作業はすべてホレリスの機械が担いました。


⏱️ 集計時間は“7年 → 1年”に短縮!

1880年の調査では、すべてを手作業で処理していたため最終報告までに約7年かかりました。

しかしホレリスの集計機を導入した1890年調査では──

📉 わずか約1年で集計完了。処理時間は10分の1以下に!

政府はこの効率性に衝撃を受け、国勢調査局の職員数も大幅に削減可能となり、人件費の削減効果も極めて高かったのです。


💰 成果により、ホレリスは“政府御用達エンジニア”に

この成功により、ホレリスは一躍有名人となります。
彼の会社「Tabulating Machine Company(TMC)」は、以降も政府や民間企業から大量の注文を受けるようになり、商業的にも大成功。

  • 鉄道会社 → 乗客統計・発券管理に

  • 保険会社 → 顧客データ管理に

  • 製造業 → 労働者の記録や製品の出荷管理に

こうして、パンチカード技術は“統計の道具”から“業務用情報機器”へと変貌していったのです。


🏛️ 国家規模の成功が、時代の転換点になった

ホレリスの集計機の登場は、単に1つの業務効率化にとどまらず──

情報を整理し、分類し、意味のある形に加工するのは、人間でなくてもよい

という概念を社会全体に突きつけました。

この“認識の変化”こそが、のちのオフィス自動化・IT革命の第一歩となります。


🟦 第5章|「機械がデータを処理する」時代の幕開け


🏢 ホレリスの会社が、やがてIBMの母体に

国勢調査での成功を機に、ハーマン・ホレリスは自身の会社「Tabulating Machine Company(TMC)」を拡大させていきます。

その後、この会社は1900年代初頭に合併と再編を繰り返し、1911年には「Computing-Tabulating-Recording Company(CTR社)」として再出発。
そして1924年、CTR社は社名を**IBM(International Business Machines)**へと変更します。

つまり──

🧩 ホレリスの会社は、そのまま“IBMの直接の前身”となったのです。


💼 パンチカード機器は「世界標準のオフィス機械」に進化

ホレリスの発明を基盤に、パンチカード技術は進化を続けます。

  • カードの枚数は1企業で数万〜数百万に

  • 専用のソート機、分類機、パンチャー、検査器なども登場

  • 1920〜1950年代には世界中の事務処理・官公庁業務の標準装備となる

工場の工程管理、保険の契約書管理、軍の兵員統計まで、あらゆる現場で使われました。


📊 データを“構造化”して“機械に渡す”という思想

ホレリスの集計機がもたらした最大の革新は、単なるスピードアップではありません。

それは──

💡 「データとは、機械が扱える形で“構造化”されるべきものだ」という認識の誕生です。

パンチカードは、「誰が」「どんな属性を持ち」「どこに属するか」という情報を1枚に正確に記録し、
それを機械が読み取って統計化・分析できるようにした“フォーマット”の始まりでした。

この思想は、現在の:

  • データベース(RDB)

  • ExcelやCSVファイル

  • 顧客管理システム(CRM)

  • スプレッドシートやBIツール

などへと、100年以上をかけて受け継がれていきます。


🔄 機械式加算機との交差点──“処理の自動化”が時代のテーマに

ホレリスが活動した1890年代は、ちょうど**バロース加算機(1886〜)**がビジネス現場で普及しはじめた時期でもあります。

  • 加算機:数値計算を速くする機械

  • 集計機:属性ごとの分類・統計を自動化する機械

両者は異なるアプローチから、「人間の業務をどう機械に任せるか?」という問いに取り組んでいたのです。

この流れがやがて、パンチカードと加算機が統合された**本格的な計算機(コンピュータ)**へと進化していく伏線となります。


▶併せて読みたい記事 バロース加算機とは?──“記録する機械”が事務と産業を変えた日


🟦 第6章|当時の意味──「情報処理」という新しい概念の誕生


📚 単なる「加算」や「分類」ではなかった

ホレリスのパンチカード集計機は、一見すると「手作業の集計を機械に置き換えただけ」のように見えます。
しかし、実際にはもっと深い意味がありました。

それは──

💡 **「情報とは構造を持ち、それを処理する方法もまた論理的に設計できる」**という認識の始まりです。


🧠 「論理処理」を機械にさせるという発想

加算機は数を足すだけ。時計は時間を測るだけ。
19世紀までの機械は、**“自然現象を物理的に再現するもの”**というのが一般的な見方でした。

ところがホレリスの発明は、人間の頭の中でやっていた「この人は男で、30代で、既婚者だから、この区分に分類して…」といった論理的な属性処理を、機械が自動で実行するというものでした。

つまりこれは、「条件に基づいて情報を処理する」というロジックの外部化=情報処理の自動化だったのです。


🧮 パンチカードは“串刺し計算”を可能にした最初の道具

ホレリスのパンチカードは、単なる数のカウントではなく、
複数の属性にまたがるデータのクロス分析──いわば串刺し計算を機械にやらせる仕組みを備えていました。

たとえば:

  • 性別が「女性」

  • 年齢が「20代」

  • 職業が「教師」

このように3つの条件すべてに該当するカードだけを自動で抽出・分類・カウントすることができたのです。

これは現代の:

  • Excelのフィルタ+ピボットテーブル

  • SQLの**WHEREGROUP BY**

  • BIツールによる多軸分析

などと同じ構造をもっています。

🔁 パンチカードは、**“物理的な多軸データベース”**であり、
🔍 **「条件で絞り込み、串刺しにして傾向を可視化する」**という、今に通じる情報処理の原型だったのです。


🧩 バベッジとホレリス──“思想”はつながっていた

チャールズ・バベッジが「解析機関」を構想したのは1837年。
そこでは、ジャカード織機から着想を得た**パンチカードによる“命令制御”**が使われる予定でした。

彼の目的は、「手順(プログラム)」を機械に読ませて自動実行させることでした。

50年後のホレリスは、そのカードを今度は**「人間の属性データを記録するメディア」**として活用し、
**“命令”ではなく“情報そのもの”**を機械が読み取り、分類・集計できるようにしたのです。

💡 バベッジが描いたのは“命令のカード”、
🧮 ホレリスが実現したのは“情報のカード”。

2人は異なる切り口から、**「機械に思考させる」**という未来を切り開いていました。


📈 「構造化された情報」と「自動処理」の幕開け

ホレリスのパンチカードは、情報を単に“記録する”だけでなく、
それを機械が“条件に従って処理する”という意味を持っていました。

この構造はその後──

  • データベース(RDB)

  • ExcelやCSV

  • 顧客管理ソフトやERP

  • AIによる属性判定と傾向分析

といった情報社会のあらゆる基盤へと受け継がれていきます。


🧭 機械式計算から情報処理革命へ──ここが境界線だった

ホレリスの集計機は、加算機やタイプライターのような単機能の延長ではなく
情報という概念そのものを“構造化”し、意味を抽出するという次元を初めて機械に担わせた道具でした。

この発明は、やがて「データに基づく意思決定」や「情報の資源化」という、
現代のデータドリブン社会の思想へとつながっていきます。


▶次に読みたい記事 「コンピュータの思想と誕生」④ジャカード織機とは?パンチカードとコンピュータの知られざる接点


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🖊ブログシリーズ「コンピュータの思想と誕生」はこちらから

チャールズ・バベッジとは?解析機関を構想した“コンピュータの父”の思想と功績

エイダ・ラブレスとは?世界初のプログラマーが生んだ情報処理の原点

③当記事

ジャカード織機とは?パンチカードとコンピュータの知られざる接点

IBMとは?パンチカードで世界を制した“情報処理帝国”の正体


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