バロース加算機とは?──“記録する機械”が事務と産業を変えた日

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このブログはブログシリーズ「数と計算の進化」⑩です。

まとめはこちらから▶数と計算の進化|アバカスから加算機、バロースまで“機械が数える時代”の全史まとめ

前の記事はこちらから▶⑨オドナー式加算機とは?──世界標準となった“回すだけ”の計算機


第0章|導入──加算機が「経営の中枢」へ


🏛️ 加算機は、もはや“個人の道具”ではなかった

19世紀末、加算機はすでに世界中で普及し、
銀行・保険・工場・役所などのあらゆる現場の必需品となっていました。

しかし──それでもまだ、加算機は「使われる道具」でしかなかった。
事務員の手元にある、“計算の補助装置”。
あくまで、**人間の働きを支える“補助的存在”**だったのです。


🧠 そして1886年──加算機は“会社の中枢機能”になった

この空気を変えたのが、アメリカで創業された**バロース加算機会社(Burroughs Adding Machine Company)**でした。

その創業者ウィリアム・バロースは、こう考えていたのです:

「計算とは、数字を出すことではない。
記録し、証明し、監査できることが重要だ。

つまり──
ただ合計が出るだけでは、経営は成立しない。

必要なのは、

  • 正確な処理

  • 記録として残る証拠

  • 不正のない履歴

  • そしてその信頼性を“機械が担保する”こと


🖨️ 加算機は“処理”から“証明”の装置へ

バロース加算機は、計算するだけでなく、
その処理内容を紙に印字する=帳簿として記録できる機能を備えていました。

これにより、加算機は事務用品ではなく、経営の根幹を支えるインフラへと変わっていきます。


このブログでは、
・なぜバロース社が重要だったのか?
・何が他と違ったのか?
・どうやって産業化されたのか?
・現代の会計システムへどうつながるのか?
を明らかにしていきます。


第1章|なぜ“事務の機械化”が求められたのか?


💼 事務の世界はすでに“限界”だった

19世紀末、アメリカをはじめとする先進諸国では、
企業や官庁の規模拡大にともない、膨大な事務処理が日常化していました。

  • 銀行:預金、利子、口座振替、残高の集計

  • 保険会社:契約者データ、年齢係数、支払いシミュレーション

  • 商社:販売実績、在庫計算、輸送費の按分

  • 行政:税収管理、人口統計、予算案の策定

つまり、加算・集計・記録・照合といった作業が、
すべて手計算・手書き帳簿に依存していたのです。


🔁 処理量は増え続け、ヒューマンエラーも拡大

  • 計算ミス → 金銭トラブル

  • 書き間違い → 請求ミス・信頼低下

  • 記録抜け → 後の監査で重大な欠陥に

  • しかも紙帳簿は“改ざんが容易”だった

この時代、「信頼できる数字」とは、計算が合っていることではなく、
**“証明可能で、改ざんできないこと”**を意味し始めていました。


📈 つまり必要だったのは「数字の処理」ではなく「数字の信頼」

当時の経営課題は、ただ合計を出すことではなく──

  • その計算がどのように行われたか?

  • 誰がいつどの数字を打ち込んだか?

  • 結果がどう記録され、誰が照合したか?

といった、プロセスの透明性と再現性にありました。

加算機は単なる時短ツールではなく、
経営の信頼性を支える装置として求められていたのです。


第2章|バロースという人物と創業の背景


🏦 銀行員という“最前線の証人”

ウィリアム・シュワード・バロース(William Seward Burroughs, 1857–1898)は、
アメリカの銀行で働く普通の事務職員としてキャリアをスタートさせました。

当時の銀行業務は、手計算による残高管理・利子計算・振替記録などが日常的に発生し、
一桁のミスが数千ドル規模の損失に直結するという緊張感のある現場でした。


💢 発明の動機は“計算ミスのストレス”だった

バロースが直面していた問題は単純で深刻でした:

  • 手計算は遅くて疲れる

  • 複数人で計算しても合わない

  • 記録が曖昧だとトラブルになる

  • 疑われるのはいつも「人間」

彼はこう考えます:

「計算も記録も、機械がやってくれればいいのに──

そして彼は、銀行の仕事の合間を縫って加算機の試作を始めたのです。


🛠️ 技術者ではなかったが、現場目線を持っていた

バロースは発明家ではありませんでした。
しかし彼には、明確なユーザー像とニーズがありました。

  • 使うのは自分と同僚たち

  • 必要なのは速度より信頼性

  • 操作に慣れなくてもすぐ使えること

  • 打ち間違いも記録できるようにすること

彼は試作を重ね、1886年、ついに自身の会社を設立します。
最初は**American Arithmometer Company(アメリカ算術機械会社)**という社名でしたが、
後に彼の名を冠し、**Burroughs Adding Machine Company(バロース加算機会社)**と改称されます。


🧾 目的は「合計を出すこと」ではなく「証拠を残すこと」

バロースが目指したのは、単なる加算機ではありませんでした。

  • 入力操作の履歴が紙に印字される

  • 加算結果も同時に記録として残る

  • 書き換えや改ざんが極めて困難になる

「ミスしないため」ではなく、「ミスを証明できるため」の機械──
それが、彼の設計思想でした。


第3章|バロース加算機の特徴と差別化ポイント


⌨️ 入力は「スライド」から「キー操作」へ

それまでの主流は、オドナー式に代表されるスライドレバー式加算機でした。
しかしバロース加算機は、ここで大胆な設計変更を行います:

数字を“押す”タイプのキーボード式(10キー)入力

これにより──

  • 入力速度が飛躍的に向上

  • 操作が直感的になり、習得コストが下がる

  • 間違いを機械がそのまま「記録」してくれる

加算機の操作が事務作業と完全に一体化し、
「押す」「見る」「出る」という流れが自然に定着しました。


🖨️ “記録が残る”=紙への印字という革命

最大のポイントはここです。

バロース加算機は、計算結果を紙に印字することができた。

これは、単に「結果が残る」だけではありません。

  • 入力した数字

  • 加算の経過

  • 演算ごとのタイミング

  • 合計値

すべてが連続的にプリントアウトされることで、
計算は「その場限りの行為」から「後から検証できる記録」へと変化したのです。


📑 つまり「会計帳簿そのものを加算機が出力する」ようになった

帳簿とは別に記録するのではなく──
加算機そのものが帳簿の生成装置になった。
これは、現在のレジ・POSシステム・Excel印刷・会計ソフトなど、
あらゆる「記録付き計算処理」の原型といえる大発明です。


🔒 セキュリティも向上

印字されることで:

  • 計算ミスや不正が可視化され

  • 証拠として保存され

  • 誰がどの処理を行ったか明確になり

バロース加算機は、**「信用を担保する装置」**へと進化しました。


第4章|加算機から“事務機械産業”へ──ビジネスモデルの革新


🏭 バロース社が売っていたのは「機械」だけではなかった

加算機そのものが優れていただけで、事業はここまで拡大しません。
バロース社は、機械の製造・販売・保守・教育・アップデートを含めた
**“トータル事務機器ソリューション”**を世界で初めて展開しました。

具体的には:

  • 導入研修:操作方法や帳簿のつけ方を社員に教育

  • メンテナンス契約:定期点検と部品交換の体制を整備

  • 買い替えプログラム:旧モデル下取りで新機種を導入促進

  • 販路拡大と代理店展開:地方や国外へスムーズに展開


🔁 “耐久消費財”から“継続課金型ビジネス”へ

当時の加算機は高価でしたが、一度買えば長く使えるものでした。
しかしバロース社はその限界を突破し、次のような構造を作ります:

「耐久性を担保しつつ、定期的に“サービスを売る”ことでビジネスを循環させる」

これにより:

  • 利益は一度きりではなく、継続して発生

  • 顧客との関係性が長期にわたって維持される

  • 製品改善のフィードバックが得られる

  • 新しい市場(周辺機器、帳票、記録紙)も開拓可能に

まさに現代のSaaSモデルにも通じる、**加算機の“サービス産業化”**が始まったのです。


🌍 バロース社は、ただのメーカーではなかった

20世紀初頭には、バロース社は世界中に販売拠点を持つ国際事務機械企業となり、
IBMやNCRなどと並ぶ“事務革命”のリーダーに成長します。

彼らが扱っていたのは:

  • 計算の正確性

  • 記録の証明性

  • 事務処理の効率性

  • 経営の透明性

つまり、**経営そのものを支える“しくみ”**を売っていたのです。


第5章|ブレークスルーポイント:計算機が“会社そのもの”を動かす装置になった


🧠 加算機は、経理の机の上に“ある”ものではなくなった

これまでの加算機は、あくまで道具のひとつ。
「作業を楽にする」「ミスを減らす」といった支援的な役割でした。

しかし、バロース加算機がもたらしたのはそれ以上──

「数字の正確性が保証されること」が、会社の信頼性を支える
→ つまり、加算機=信用そのものになったのです。


🏦 銀行、保険、政府──“信頼”が価値の業界で導入が加速

バロース加算機は以下のような業種に広く採用されました:

  • 銀行:取引履歴の記録、利子計算の監査性

  • 保険会社:保険料・支払い履歴・契約記録の自動処理

  • 公共機関:税務計算、人口統計、予算実績の正確な記録

  • 大企業の経理部門:月次決算、給与計算、会計帳簿の整合性

「計算ミスがないこと」ではなく、
「**計算ミスがないと“証明できる”こと」**が最も重要だったのです。


📑 加算機=記録・証明・説明のすべてを担う装置

バロース加算機が出力する紙の記録(ジャーナル)は、

  • 社内監査

  • 顧客対応

  • 税務調査

  • 法務証明

などに使われ、組織の意思決定を支える公式文書として機能していきます。

つまり──

加算機が吐き出す紙が、企業の“数字の真実”とみなされるようになった。


🔧 “数字の信頼”がシステムで担保される世界へ

ここで、加算機は「操作を記録する」だけでなく、
「組織全体の数字を制御する装置」へと進化しました。

  • ヒューマンエラーの排除

  • 改ざんリスクの回避

  • 組織内の情報一元化

  • 責任の所在の明確化

これらすべてが、機械の構造として組み込まれたのです。


⚙️ 道具から“制度の一部”へ

バロース加算機の存在は、単に事務の効率化ではなく、
「企業の仕組みそのものを、機械の上に乗せる」という思想に直結していました。

加算機は、**経営の“中枢神経”**として組み込まれていったのです。


第6章|まとめ──加算機は「産業を動かす機械」になった


🔄 道具が“仕組み”を内包する時代へ

バロース加算機が登場したとき、
それは単なる「計算を助ける道具」ではなく、
経営そのものを構造化・標準化・証明可能にする装置でした。

  • 処理の効率化

  • 記録の信頼性

  • 不正の抑止

  • 監査の合理化

  • 組織全体での情報共有

これらをすべて一台の加算機の中に実装してしまったという意味で、
バロース加算機は「仕組みとしての機械」=制度を内蔵したメカでした。


🏛️ 会計・金融・行政の信頼は、機械で担保される時代へ

現代社会では、数字に基づく意思決定が当たり前です。
その出発点にあるのが、機械によって処理・記録・証明された数値であることは言うまでもありません。

この「数字の信頼は機械から生まれる」という思想こそが、
バロース加算機のもっとも重要な遺産なのです。


📠 バロース加算機が開いた道の先には…

  • 電動式加算機

  • タイムレコーダー

  • コンピュータ(EDVAC、ENIAC)

  • メインフレーム

  • パソコン・POS・SaaS

  • そしてAIによる経営分析へ

すべての“情報の道具”の原点にあるのが、
「計算+記録+証明」を一体化したバロースの思想でした。


🧾 たかが加算機、されど加算機

「足し算しかしない機械」が、
どうしてここまで社会を動かせたのか?

それは、数値に“信頼”を与える力があったから。
その信頼は、やがて「経営」や「法律」や「社会制度」の中枢を支えることになるのです。


🚀 次回予告──加算機から“計算機”へ

バロースの加算機が社会を整えたあと、
20世紀の後半から始まるのは、コンピュータの時代です。

そして、加算機が担っていた役割は、
やがて“情報”そのものを処理する巨大なシステムへと進化していきます。


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