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このブログはブログシリーズ「数と計算の進化」④です。 前の記事はこちらから▶③そろばんの起源と歴史──人類最古のアナログ計算機「アバカス」とは?
第0章|導入:そろばんから、紙の上の計算へ
道具で“数える時代”から、紙で“考える時代”へ
前回までのそろばん(アバカス)編では、数を**“手で動かす”道具**がいかに計算を支えていたかを見てきました。
でも時代が進むにつれ、計算は新しいフェーズに入っていきます。
「計算=紙とペンで手順をたどるもの」へ。
それが「筆算(ひっさん)」の誕生でした。
そろばんは“道具”だが、筆算は“手順”だった
そろばんは手の動きや珠の配置によって、
「数を並べて動かす」という操作を通じて計算していました。
それに対し、筆算では──
-
数を並べて書き、
-
順を追って処理の流れを記述する
-
誰でも同じように**“なぞれる”手順**がある
という特長があります。
筆算の登場により、計算は“考える技術”として形式化されたのです。
紙とペンで再現できる、誰でもできる、だから広がった
そろばんには訓練と熟練が必要でした。
しかし筆算は、一度やり方を覚えれば、何度でも再現できる。
-
商人も
-
税吏も
-
学者も
-
そして庶民も
**「誰でも同じ手順で正解にたどりつける」**この仕組みが、筆算を爆発的に広めていきました。
計算は“記憶”から“共有される技術”へ
そろばんでは計算の途中経過が道具の上にしか残りませんでしたが、
筆算ではすべてが紙に残るため、
-
後で見直せる
-
他人と共有できる
-
教科書や帳簿にして“蓄積”できる
という利点があります。
計算が“知識”から“記録可能な技術”へ進化した瞬間だったのです。
このあと中世〜ルネサンスにかけて、
筆算は「商人の利益計算術」として磨かれ、
さらには教育制度に取り込まれ、
ついには「社会に必要な技能」へと成長していきます。
👉 次章ではその始まり、商人が実務で使い始めた筆算の起源を見ていきましょう。
第1章|中世ヨーロッパと商人の計算術──利益を出すための筆算
そろばんを捨てて、紙とペンを選んだ人たちがいた
中世ヨーロッパ。
大聖堂や騎士たちの影で、ひっそりと「計算革命」が始まっていました。
それは、都市に暮らす商人や両替商たちの手元で起きていたのです。
計算は、正確でなければ損をする。
早くなければ、商機を逃す。
そんな現場のニーズが、彼らを「そろばん」から「筆算」へと移行させました。
“儲かるかどうか”を紙で判断する──実務の筆算
商人たちは、そろばんよりも紙に書いて計算する方法=筆算を選び始めました。
その理由は明確です。
-
売上・仕入・運送料などを合算する
-
為替レートを扱う
-
重量・体積の換算を行う
-
利益率や複利の計算をする
これらは視覚的に書き出しながら順を追える筆算の方が圧倒的に便利だったのです。
そろばんは一瞬の答えを出す道具。
筆算は「記録・検証・説明」ができる“計算のロジック”だった。
「帳簿」と「筆算」はセットで発展した
中世後期からルネサンス期にかけて、商人たちは
**複式簿記(ダブルエントリー)**をはじめとする会計の仕組みを整えます。
帳簿をつけるためには、当然ながら正確な計算手順が必要。
そのため筆算は、計算の道具というよりも──
“商人の教養”そのものだったのです。
商人のための計算教本──実用書が大ヒット
ルネサンス初期には、商人や税吏を対象とした実用計算法マニュアルが多数出版されます。
中でも有名なのが、イタリアの数学者レオンハルト・フィボナッチが書いた『算術の書』。
-
複利の計算
-
為替の計算
-
単価と総額の変換
-
商品の配分計算
など、完全に“商売の武器”としての数学書でした。
こうして筆算は「生きるための計算」になった
計算=学問ではなく、食うための技術、稼ぐための知恵。
その最前線にいたのが中世ヨーロッパの商人たちでした。
筆算は“学者”ではなく、“商人”が磨き上げた現場のスキルだったのです。
👉 次章では、その現場の知恵から生まれた「計算表」という道具に迫ります。
覚えるより引く。考えるより調べる。
第2章|計算表(テーブル)の誕生──“覚える”から“引く”へ
「覚える計算」から「調べる計算」へ
2×3=6、7×8=56──
今でこそ当たり前に記憶している九九(乗法表)も、
かつては**“調べて使う道具”**でした。
“暗記”ではなく、“参照”する時代があったのです。
これが「計算表(テーブル)」の登場です。
計算表とは何か?
計算表とは、ある種の「先回りされた答え集」です。
具体的には:
-
掛け算表(乗法表)
-
割り算表(除法表)
-
単位換算表(長さ・重さ・通貨)
-
関数表(平方根、対数、三角関数)
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暦表(日数・干支・祝祭日計算など)
など、あらゆる計算パターンを一覧化した表形式の道具です。
見ればわかる。覚えなくても使える。
これは**記憶ではなく“紙の知能”**でした。
中世〜ルネサンスで爆発的に広がる
筆算の普及と同時に、商人・技術者・天文学者たちの間で
これらの計算表が次々と制作されます。
-
価格の掛け率計算
-
為替の換金表
-
収穫量から税額を求める表
-
地図や建築のスケール変換表
など、実務に即した表が“武器”として使われていたのです。
「計算力」=「表を使いこなす力」
この頃の計算力とは、
「答えを覚えているかどうか」ではなく、
「どの表に、何を探しに行けばいいか」を知っているか
→ つまり、“紙の中の知能”を呼び出せる人間こそが賢かった。
これは、現代における「ググる力」「Excelを使いこなす力」と同じ構造です。
計算表は“脳の外部化”だった
人類は筆算を手に入れただけでなく、
繰り返しを紙に丸ごと預けるという進化も果たしました。
-
ゼロから答えを導くのではなく
-
既に計算された情報を再利用する
これはまさに、
**“人間の思考負担を減らすための、最初のアルゴリズム戦略”**だったのです。
👉 次章では、この計算文化がどのように教育と印刷技術と結びつき、
筆算が社会標準のスキルへと広がっていく過程を追います。
第3章|ルネサンス期の教育と筆算──“計算は学ぶもの”になる
計算は“誰かのもの”から、“みんなのもの”へ
中世までは、計算ができるのは商人、役人、専門職など、
ごく一部のエリートたちに限られていました。
しかしルネサンス期──印刷技術の発明と読み書き教育の普及によって、
「計算」というスキルは一般市民にまで開かれていきます。
それは、筆算が“知識”ではなく“教育”の対象になった瞬間でした。
「読み・書き・計算」は教養になった
ルネサンス以降の教育では、
読み(リーディング)、書き(ライティング)、計算(アリスマティック)が初等教育の三本柱になります。
-
教会や修道院での基礎教育
-
ギルドが主催する実務学校(アバカス・スクール)
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商人の子弟を対象とした実用数学の授業
これにより、筆算は**「一部の職能者の知識」から「すべての市民の基礎力」へ**と変化します。
印刷された“計算マニュアル”が世界を変えた
印刷術の発明(15世紀後半)は、
それまで手書きだった「計算の教科書」を誰でも手に取れる大量出版物に変えました。
代表的な書籍には:
『算術の書』(レオンハルト・フィボナッチ)
『商人のための計算法』(ピエトロ・ボルギ)
さらに、乗法表や換算表など“すぐに使える計算表”を収録した実用書も多く印刷されました。
これらは、「どう筆算すれば正解にたどりつけるか」を手順として解説するもの。
筆算が「再現可能な技術」になったことで、教育の道具にもなったのです。
計算が“稼げるスキル”として体系化されていく
商業、建築、測量、金融──
すべての実務において、数字を扱えることが仕事の条件になっていきました。
-
商品の利益率を出す
-
土地の面積を求める
-
物価を割って個数を計算する
-
為替の比率を換算する
こうした技術は、もはや商売の武器を超えて
**「計算できる=信用される人材」**という評価基準にもなっていきます。
筆算は“文字を持った計算”だった
筆算の特徴は、数だけでなく記号や補助記述を含んでいること。
それによって──
-
他人に見せられる
-
計算過程をチェックできる
-
ルールを明文化できる
これが、後の論理的思考やアルゴリズム教育へと発展していく土台となりました。
👉 次章では、この「筆算文化」がどのように人間の思考構造そのものを変えていったのか、
計算力と論理力の関係を深掘りしていきます。
第4章|“筆算脳”の誕生──論理的思考と演算手順の標準化
筆算はただの技術じゃない。「考え方」を変えた。
そろばんやアバカスが“道具を動かす技術”だったのに対し、
筆算は“手順を正しくなぞる技術”でした。
この違いは大きい。なぜなら──
筆算は、「どう考えれば正解にたどり着けるか」という“思考の型”を生み出したからです。
「順番どおりに処理する力」が身についた
筆算の基本ルールはいたってシンプルです:
-
右から順に揃える(桁を意識する)
-
一桁ずつ処理していく(繰り上がり・繰り下がりの理解)
-
結果を一行ずつ積み上げていく(途中経過を保持する)
これはつまり──
段階的に物事を分解・処理・合成する「手続き型思考」そのもの。
筆算を学ぶことは、**“論理的な順序で考える練習”**にもなっていたのです。
筆算は“視覚化された論理”だった
そろばんと違い、筆算は紙の上に論理が並んでいる状態です。
-
どこで間違えたかが目でわかる
-
計算手順を他人に見せて説明できる
-
途中経過が残るため、振り返りや再利用も可能
こうした特性は、「数の処理」だけでなく、
“説明力”や“検証力”といったメタ的思考の育成にもつながっていきました。
筆算が社会全体の「思考のフォーマット」になった
筆算の普及は、ただの計算技術の普及ではありませんでした。
それは、社会全体に次のような変化をもたらします。
-
学校教育が“論理の順序”を教える場所になる
-
商人や役人が“合理的手順”で判断を下すようになる
-
記録と再現性を重んじる“文書主義社会”が育つ
筆算は、「考え方を揃える」という文化を根づかせたのです。
コンピュータに最も近い「人間的思考の前段階」
筆算の構造は、今のコンピュータ処理にも非常に似ています。
-
ステップバイステップの処理
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桁ごとの演算と繰り上がり処理
-
途中の値を一時的に保持するメモリ的操作
これらはそのまま、現代の「アルゴリズム設計」「プログラム構造」につながる要素です。
人類は、筆算を通じて「機械のように考える力」を初めて手にしたのかもしれません。
👉 いよいよ次章で最終章──
筆算が広がったことの“歴史的意義”を総まとめします。
第5章|まとめ:筆算は“再現可能な思考技術”だった
計算が「個人の技」から「社会の共通言語」になった瞬間
そろばんやアバカスは、職人技のようなものだった。
早く正確に使えるかは、訓練と感覚に左右される。
でも、筆算は違いました。
誰がやっても、同じ手順で、同じ答えにたどり着ける。
その構造があったからこそ、計算は属人的な技術から、再現可能な技術へと進化したのです。
筆算がもたらした「標準化」「共有」「普及」
筆算の登場は、計算という行為に次の3つを与えました。
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標準化:やり方が決まっている=迷いがない
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共有性:誰かと教え合える、見せ合える
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普及性:道具不要で、紙と知識があればどこでもできる
この3つは、まさに現代の“情報インフラ”に必要な要素でもあります。
筆算は、最初の“民主化された計算技術”だった
中世までは、計算できるのは特権階級だけ。
でも筆算の登場によって、
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農民も商人も子どもも
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学者でなくても
-
道具職人でなくても
**「誰でも計算できる時代」**が始まったのです。
それは、数字を“道具”ではなく“言語”として使える人類への転換点でした。
現代社会の“論理と処理”の基盤がここにある
筆算の構造は、現代のコンピュータ・スプレッドシート・プログラミングに直結しています。
-
手順の明確化
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途中経過の保存
-
再現可能性と検証性
-
汎用性と応用力
このすべては、筆算という紙の上の処理手順から始まったのです。
そして、計算は「人の手」を離れていく
筆算が広まったことで、計算は人類に深く根づきました。
でもその先には──
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機械式計算機
-
電子計算機
-
コンピュータ
といった、“人の代わりに処理する装置”の時代が待っていました。
筆算は、そのすべての出発点。
「人間が考える手順」を初めて形式化した技術だったのです。
👉 次回からはいよいよ「機械が考える時代」へ。
メソポタミアで始まった数の旅は、歯車、真空管、シリコンへと受け継がれていきます。
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