色は言葉で変わる?脳科学で解き明かす「色と言語の不思議な関係」

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📝 第0章|導入──なぜ「青信号」は青でロシア語には青が2つあるのか?


世界中で同じ目と脳を持っているのに…

光は物理的な波長の違いで決まり、人間の目の構造や視覚野の仕組みも世界中ほとんど同じです。
誰もが同じように網膜の錐体細胞で光を受け取り、一次視覚野(V1)で処理します。
脳の性能だって生物学的には大差ありません。

それでも、日本語には緑信号なのに「青信号」という表現があり、ロシア語には青を表す単語が2種類あります。
同じ空や海を見ているはずなのに、文化や言語によって色の“世界地図”が違うのはなぜでしょうか?


ハードは同じ、違うのは脳の“ソフトウェア”

人間の脳はカメラやセンサーのようにただ光を受け取るだけではなく、
経験や言葉を通じて世界を「分類」し、理解しています。
つまり、ハード(目や脳の構造)は世界共通でも、
言語・文化・経験という“ソフトウェア”が違うから、見える世界の切り取り方が変わるのです。


このブログでわかること

この記事では、

  • 脳のどの部位が色を“見る”のか

  • 日本語で緑が長らく「青」と呼ばれていた理由

  • ロシア語話者が青を2種類に分けて素早く見分けられる仕組み

  • 言葉が視覚処理を変えるトップダウン処理のメカニズム

を科学と文化史の両面から解説します。
目や脳の性能が同じでも、言葉によって“見えている世界”は変わる──
その面白さを一緒に探っていきましょう。


📝 第1章|色は目ではなく脳で見る──一次視覚野V1とヒューベル&ウィーゼル研究


光を受け取るのは目、世界を描くのは脳

「色」は光の波長で決まります。
網膜には3種類の錐体細胞があり、それぞれ赤・緑・青に対応した波長帯を感知します。
しかし、目はただのセンサーにすぎず、受け取った信号を「世界の映像」に変換しているのは脳です。
この処理の入口が、後頭葉にある**一次視覚野(V1、ブロードマン17野)**です。


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V1での詳細な解析

V1は、網膜から視神経を通じて届いた光の信号を、位置・形・コントラスト・色などの要素に分解して分析します。
ここで初めて「視覚情報」としての意味を持ち始めますが、まだ“名前”や“カテゴリ”は与えられていません。
いわばV1は「生のデータをピクセル単位で読み解く高性能解析装置」です。


ヒューベル&ウィーゼルの発見

1960年代、**デイヴィッド・ヒューベル(David Hubel)とトルステン・ウィーゼル(Torsten Wiesel)**は、V1の神経細胞が光の方向や境界線に反応する仕組みを解明し、1981年にノーベル賞を受賞しました。
この研究により、視覚は「網膜の映像をそのままスクリーンに映す」のではなく、脳内で要素ごとに細かく解析され、再構築されていることが明らかになったのです。


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まだ「色の名前」は存在しない

この段階では、波長の違いはしっかりと認識されていても、
「これは青」「これは緑」という言葉はまだついていません。
V1は純粋な感覚の世界であり、言語や文化による意味づけはこのあと別の領域で行われます。


📝 第2章|色に「名前」を与えるウェルニッケ野──言語が視覚を分類する


意味づけを司る脳の翻訳センター

一次視覚野(V1)で処理された映像データは、側頭葉にあるウェルニッケ野(Wernicke’s area)へ送られます。
ここは、音や文字などの言語を意味に変換する中枢
であり、「見たもの」に名前をつける翻訳センターのような役割を持っています。

つまり、網膜とV1が集めたデータを、ウェルニッケ野が
「これはリンゴ」「これは青」とカテゴリ化し、世界を“理解できる形”に整理するのです。


言葉のラベルが境界を作る

色は連続した波長のグラデーションでできており、本来境界はありません。
しかし、ウェルニッケ野は文化や学習で得た「言葉」を基準に、脳内に色の境界線を引きます。

たとえば日本語では長らく青と緑の区別が曖昧で、「青菜」「青信号」のように緑のものも青と呼んでいました。
逆にロシア語では、青は**голубой(薄い青)синий(濃い青)**の2つに分かれており、話者は微妙な色の違いも瞬時に判断できます。
このように、言葉が脳内の色地図を作り変えるのです。


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ウェルニッケ野が果たす役割

  • 言葉と意味の結びつけ:見た色や形に、学習済みの言葉を対応付ける

  • 文化的知識の反映:社会や歴史が培ったカテゴリ分けがそのまま認識に影響

  • 視覚と記憶の橋渡し:見た色を「知っているもの」に変換し、記憶に格納


ここでのポイント

  • 「青」と「緑」を分けるのは目の性能ではなく、ウェルニッケ野の言語ラベル付け

  • 色の見え方は物理現象+言語学習の組み合わせで決まる

  • 言葉の境界が脳の認識をガイドするため、国や時代で見え方が異なる


📝 第3章|ブローカ野と発話の力──言葉で色の記憶が固定化される


言葉を組み立てる脳の司令塔

脳の前頭葉にある**ブローカ野(Broca’s area)**は、
「言葉を発する」「文章を作る」ための中枢です。
ウェルニッケ野が見たものに意味をつける“翻訳センター”だとしたら、
ブローカ野はその結果を音や文字として“出力”する司令塔といえます。


発話・文字化が記憶を強化

「これは青い花だね」「このリンゴは赤い」と繰り返し口にする、
あるいは文章で書き記す行為は、脳のネットワークに強力な記憶を残します。
ブローカ野を通して発話や書き出しを行うと、言語・視覚・記憶の回路が同時に活性化されるため、
色とその言葉の結びつきが脳に深く刻み込まれるのです。


初回と2回目以降の処理の違い

  • 初めて見るとき
    視覚入力 → ウェルニッケ野で「青」とラベル → ブローカ野で言葉として発話 → 記憶に固定

  • 2回目以降
    視覚入力 → 記憶ネットワークが瞬時に活性化 → 言葉のラベルを呼び出して認識

  • 結果、脳は「色のカテゴリ」を一瞬で思い出すようになり、見え方も安定します。


ブローカ野が果たす重要な役割

  • 言葉を発することで「色の認識」をより深く記憶に結び付ける

  • 繰り返すことでカテゴリ化が強化され、見え方が固定化

  • 視覚認識が言語処理に引っ張られ、色の世界の地図が個人・文化ごとに異なる


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実生活での例

子どもが初めて「青い空」を教えられるとき、
視覚・言語・記憶の回路が連動して“青”という概念が脳に刷り込まれます。
その後は空を見上げた瞬間、脳は学習済みの“青”を呼び出し、
言葉と視覚が結びついた“完成した世界”を見せてくれるのです。


📝 第4章|昔の日本語には「緑」がなかった──青に統合された色世界


「青」という言葉が支配していた時代

現代の日本語では「青」と「緑」ははっきり区別されていますが、
古代~中世の日本語では緑のものも「青」と呼んでいました。
平安時代の文学や記録には、若葉や植物の色を「青し」と表現する例が多く見られます。
信号を「青信号」と呼ぶ名残や、「青菜」「青虫」などの言葉もこの文化を受け継いでいます。


言葉がなければカテゴリもない

視覚野V1は波長の違いを正確に捉えていますが、
ウェルニッケ野で付与されるラベルがなければ脳内の色カテゴリは細分化されません。
つまり「緑」という言葉が未発達だった時代、
脳は葉っぱや若草の色も「青」とひとまとめに認識し、
見えている世界の色地図が今よりもざっくりしていたのです。


ブローカ野による固定化

文化の中で繰り返し「青菜」「青葉」と呼ぶことで、
ブローカ野がその言葉を出力し、記憶に強く刻み込みました。
この繰り返しが、世代を超えて「緑を青と呼ぶ世界観」を固めていったのです。


科学と文化が交差する瞬間

  • 物理的には波長の違いは昔から感知できた

  • しかし、言葉の数が少ないとウェルニッケ野の分類精度は上がらない

  • 結果として、「目と脳の性能は同じでも見えている世界が違う」という現象が生まれた


現代にも残る名残

  • 信号:「青信号」だが実際は緑色

  • 食文化:「青菜」「青じそ」など緑の野菜を青と呼ぶ

  • 昔の日本語表現が今も無意識に影響し、
    “青=若さ・新しさ”という概念として文化に根付いています。


📝 第5章|ロシア語の青は2種類──言葉が色覚の閾値を変える


ロシア語では「青」が二つの単語に分かれる

ロシア語には青を表す単語が2つあります。

  • голубой(ゴルボイ):淡い青、水色に近い

  • синий(シーニィ):濃い青、紺色に近い
    日本語では「青」とひとくくりにしてしまう色も、
    ロシア語では明確に言葉で分けられています。


実験で確かめられた差

心理学実験では、ロシア語話者は青系統の色の違いを素早く見分ける傾向が確認されています。
たとえば英語話者が一瞬迷うような色差でも、ロシア語話者は「これはゴルボイ」「これはシーニィ」と即答できるのです。
これは目の性能の差ではなく、言語のカテゴリ分けが脳の色認識に影響している証拠です。


ウェルニッケ野とトップダウン補正

ウェルニッケ野では、学習した言語に基づき視覚情報に意味付けを行います。
ロシア語話者は幼少期から青系統を二分する言葉を使って育つため、
視覚野V1で検出されたわずかな波長差も、
トップダウンの補正で「別の色」として強調されるようになります。


言葉が色の世界地図を描く

  • 言葉のカテゴリが多いほど、脳は色差を細かく認識

  • ブローカ野で繰り返し発話・記憶化されることで認識が強固に

  • 結果、「見える世界」が文化ごとに異なるように感じられる


日本語との対比

  • 日本語:かつて「青」に緑が含まれていた → 緑の見え方が粗かった

  • ロシア語:青を2つに分けていた → 青の識別力が高い
    言葉の違いが視覚処理の精度を変えてしまうのです。


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📝 第6章|ボトムアップとトップダウン──一度覚えた色は次から違って見える


初回は「ボトムアップ処理」で世界を見る

初めて見る色や物体は、まず目から入った光の情報が網膜→外側膝状体→V1(一次視覚野)へと流れ、
そのまま感覚入力から認識へと進みます。
このプロセスはボトムアップ処理と呼ばれ、
データを一つずつ脳が解析して「これは青」「これはリンゴ」というラベルを初めて学習する段階です。


二回目以降は「トップダウン処理」で高速認識

一度覚えた色や形は、次からは脳が記憶を先に呼び出して解釈します。

  • 見た瞬間にウェルニッケ野が記憶のラベルを照合

  • ブローカ野のネットワークも活性化し、名前が即座に思い浮かぶ

  • 視覚情報そのものが「知っているもの」として補正される

つまり、見えているものは“入力データ”と“脳の予測”の組み合わせになっていくのです。
これがトップダウン処理です。


「言葉のラベル」が視覚の補正に影響

一度「これは青」と覚えた色は、微妙な光の条件やディスプレイの違いがあっても“青”と認識されます。
これは、脳の視覚系が光源や周囲の状況を補正して色を安定させる**色の恒常性(Color Constancy)**という仕組みのおかげです。
さらに言葉による分類や記憶が、この視覚的な補正を後押しし、
結果として文化や言語による“見え方の違い”が一層強調されます。


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認識は「経験と文化」が作る

  • ボトムアップ処理:感覚データを一から解釈する“初回体験”

  • トップダウン処理:記憶・言語・文化が反映される“熟練の視覚”

  • 人間の視覚はカメラではなく「経験に基づく脳内モデル」

  • 言語や文化は世界を切り取るレンズになっている


📝 第7章|言語が作る色の地図──科学と文化で世界が変わる


目も脳も同じでも、世界の切り取り方は違う

人間の網膜や視覚野V1の仕組みは世界中ほぼ同じで、
誰もが同じ光の波長を捉える能力を持っています。
それなのに、文化や言語が違えば「青信号」は青と呼ばれたり、ロシア語では青が2種類に分けられたり、
見えている世界の切り取り方に差が生まれます。
違いを生むのは脳の“ソフトウェア”──言語と記憶の仕組みです。


言葉は脳の色認識を作り替える

  • ウェルニッケ野が色や形に言葉を付与し、認識の枠組みを作る

  • ブローカ野を通じて言葉にすることで、記憶が強固になりカテゴリが固定化

  • トップダウン処理によって、学んだ言葉の境界が視覚そのものを補正する
    こうして言葉は単なるコミュニケーション手段ではなく、
    「世界の地図」を脳内に描くプログラムとして働いています。


科学と文化の両面から見る“色の世界”

  • 物理的な色は光の波長で連続しており、境界は存在しない

  • 言葉が境界を生み、文化がその世界観を定着させる

  • 日本語の「青信号」やロシア語の青の二分化はその象徴

  • 脳科学の研究(ヒューベル&ウィーゼルのV1研究など)で
    「目はカメラではなく、脳が世界を組み立てている」ことが明らかになった


世界を見る“レンズ”は言葉

世界中の人間は同じように光を見ているはずなのに、
文化や言葉の違いで、まるで異なる地図を見ているように感じられます。
色の見え方は物理現象だけでなく、言葉と脳の歴史の産物なのです。
「見える世界=脳が言葉を通して築き上げたもう一つの現実」という視点で、
これまで当たり前に見ていた景色が少し違って見えてくるかもしれません。


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