ゲーテと『色彩論』──光と影が生む心理学的な色の世界

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第0章|色は心で見るもの?──ゲーテが見た“光と影の色彩心理”


色は物理現象か、それとも心の現象か

私たちが見ている色は、ただの物理現象なのでしょうか。
それとも、心がつくり出した世界なのでしょうか。
18世紀末から19世紀初頭にかけて、文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)は、この問いに真剣に向き合いました。


ニュートンの光学に逆らった文豪

当時の科学はすでにニュートンの光学が主流でした。
白い光はプリズムで分解でき、赤から紫までのスペクトルは物理学で説明できる──そんな「光=物理現象」の時代です。
ところが、ゲーテはその常識にあえて逆らいます。
彼は**「色は人間が感じる現象だ」**と考え、物理学だけでは語れない世界を描こうとしたのです。


古代哲学の記憶を現代に呼び戻す

この発想は、実は古代ギリシャの哲学者アリストテレスにも通じています。
「色は光と闇の混合である」という考えを、ゲーテは心理的観察と実験を通じて現代に蘇らせたとも言えるでしょう。


心理学の扉を開いた『色彩論』

物理学が描く光の世界と、私たちが感じる色の世界は、必ずしも一致しません。
ゲーテの『色彩論』は、そのギャップを埋めようとした挑戦でした。
色はどこで生まれるのか──それは、光と影が出会う場所であり、同時に私たちの心の中でもあるのです。


第1章|ニュートン理論に逆らった文豪──ゲーテが挑んだ色の真実とは


18世紀の科学は「光=物理現象」

18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパは、科学革命の余韻に包まれていました。
ニュートン(Isaac Newton, 1642–1727)が示した光学理論は絶対的な存在で、
白色光をプリズムで分解すると虹色のスペクトルが現れ、
色は光の波長で説明できる──この考えが完全に受け入れられていました。

光は目に見えるだけでなく、物理的に測定可能な現象へと変わった時代。
色は科学の世界で「数値化できる属性」へと変わろうとしていたのです。


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文学者ゲーテ、科学に挑む

そんな時代に、文学者であり哲学者でもあったゲーテ(1749–1832)は、
「色は本当に光の性質だけで説明できるのか?」と疑問を抱きます。

彼は宮廷で活躍する文化人でありながら、植物学や鉱物学など自然科学に情熱を注ぎ、
とくに人間の感覚や心理に関わる現象には強い興味を持っていました。
この感覚重視の姿勢が、のちの『色彩論』につながっていきます。


物理学から心理学への“逆走”

ニュートンの光学が物理学の黄金ルートなら、ゲーテは完全に逆走していました。
光や色を物理学から解放し、人間の感覚と心理の中に取り戻そうとしたのです。

当時としては科学に背を向ける行為にも見えましたが、
この逆走こそが、後世の色彩心理学や芸術教育の礎となります。
まさに、物理学と心理学をつなぐ“もう一つの色の歴史”がここに始まったのです。


第2章|ゲーテとは何者か?──文学・哲学・科学をつないだ色彩の探求者


文学史に輝く巨人、ゲーテ

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe, 1749–1832)は、
ドイツ文学を代表する大文豪であり、『ファウスト』や『若きウェルテルの悩み』などで知られています。
宮廷で政治にも関わり、哲学や芸術にも精通した、まさに多才の象徴ともいえる人物でした。

しかし、彼の情熱は文学だけにとどまりません。
植物学や鉱物学、解剖学にまで関心を広げ、自然界の現象を自分の目で確かめようとしました。
彼にとって科学とは、**芸術と同じく“世界を理解するための方法”**だったのです。


研究者としてのもう一つの顔

ゲーテは、いわゆる「実験科学者」ではありませんでした。
彼が重視したのは、精密な計測や数式よりも、人間の感覚と観察体験でした。

たとえば彼は、プリズムを覗いたときに、背景の明るさによって見える色が変わることに着目します。
この発見は、ニュートンが物理的な波長で説明した世界とは異なり、
色は観察者の体験によって変化するという心理的な側面を示唆していました。


文学者だからこそ見えた「感覚の科学」

科学者でないからこそ、ゲーテは純粋に人間の感覚に寄り添うことができました。
彼にとって色は、単なる波長の情報ではなく、心が受け取る世界の一部だったのです。
この独自の視点が、のちに『色彩論』として結実し、
心理学・芸術・デザインの世界に影響を与えていくことになります。


第3章|プリズムの色が変わる理由──ゲーテが発見した“色と背景の心理学”


プリズム実験に潜んでいた“もう一つの真実”

ニュートンは、白い光をプリズムに通すと虹色のスペクトルが現れることを示しました。
しかし、ゲーテはその実験をあえて別の視点で観察します。

  • 明るい背景では、プリズムの端に青い縁が現れる

  • 暗い背景では、同じ場所に赤や黄色がにじむ

この現象にゲーテは強く惹かれました。
彼にとって色は、単なる光の波長ではなく、光と影、そして観察者の目が作る体験だったのです。


「色は光と闇の境界に生まれる」

ゲーテの思考は、ここで大きく飛躍します。
色は光そのものから生まれるのではなく、光と闇が出会う境界で現れる現象だと結論づけたのです。
この発想は、古代アリストテレスの哲学にも通じるものであり、
物理学だけでなく心理学や哲学の領域に足を踏み入れる瞬間でもありました。


心理学的アプローチへの扉

この気づきは、後の色彩心理学につながるブレークスルーとなります。
色は波長で測定できる情報だけでなく、
人間の視覚・感覚が関わる主観的な現象でもある──
ゲーテは、当時としては大胆すぎるこの考えを世に提示したのです。


第4章|「色は心がつくる」──ゲーテが科学に主観を持ち込んだ瞬間


実験よりも観察を重んじた科学者

ゲーテの研究スタイルは、当時の科学者とはまったく異なるものでした。
ニュートンが精密な計測と数式で光を扱ったのに対し、
ゲーテは人間の目と心がどう色を感じるかを徹底的に観察しました。

彼は日常の光景やプリズム実験を通して、次のような現象を記録します。

  • 明るい背景の端では青い縁が見える

  • 暗い背景の端では赤や黄色が浮かぶ

  • 強い光を見た後には、補色の残像が現れる

これらは、物理学だけでは説明できない、人間の主観がつくる色彩現象でした。


心の中にある色彩の証拠

ゲーテは、自らの体験を根拠に「色は人間の感覚の産物である」と確信します。
光そのものが持つ性質だけではなく、
観察者の目が作り出す世界こそが色の本質だと考えたのです。

この視点は、科学的には異端でしたが、心理学的には革新的でした。
後にゲシュタルト心理学や色彩心理学につながる“感覚重視の発想”が、すでにここで芽生えていたのです。


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主観を科学に持ち込むという冒険

18世紀の科学において、主観は排除すべきものとされていました。
しかしゲーテは、主観を無視しては色を語れないと考え、
あえて文学者としての感性を武器に、科学の世界に踏み込みました。

この挑戦が、彼の『色彩論』を単なる科学書ではなく、
心理学・哲学・芸術にまたがる独自の書物にしています。


第5章|色はどこで生まれるのか?──ゲーテ色彩論の核心「光と影の境界」


ゲーテ色彩論の核心は「境界」

ゲーテが導き出した色彩の本質は、光そのものでも、物体そのものでもありませんでした。
彼は次のように考えました。

色は、光と影が出会う境界で生まれる。

完全に光が当たる場所は白く、完全に光が遮られた場所は黒い。
そして、光と闇の境界や、明るさが変化する場所にこそ、私たちが知覚する色が現れるというのです。

この思想は、古代アリストテレスの「色は光と闇の混合」という哲学を現代に甦らせたものでした。
しかしゲーテは、哲学にとどまらず、観察や実験を通してこの考えを理論化したのです。


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視覚と心理がつくる色の世界

ゲーテの色彩論は、物理学ではなく心理学的現象として色を捉えます。
その象徴となる現象は次の通りです。

  • 残像現象(補色残像)
    強い赤をしばらく見つめた後に白い壁を見れば、緑の残像が現れる。
    これは、光の波長そのものではなく、視覚神経の反応によって色が生まれている証拠と考えた。

  • 背景依存の色変化
    同じプリズムを使っても、明るい背景では青い縁が、暗い背景では赤や黄色の縁が見える。
    これは物理的に同じ光でも、人間の視覚条件によって異なる色を感じることを示していた。

  • 補色関係の認識
    赤と緑、青と黄のように、色は対立とバランスの関係で知覚される。
    これも、単なる波長の説明だけでは捉えられない心理的側面だった。

これらの観察からゲーテは、色とは心と光が出会った場所に生まれる現象だと結論づけました。


ニュートンとの違いと補完関係

ニュートンの色彩理論は、白色光をプリズムで分光し、物理的波長で説明します。
一方、ゲーテはその結果を否定するのではなく、**「人間が実際に感じる色の世界は別物だ」**と主張しました。

つまり、ニュートンが描くのは客観的な光の世界
ゲーテが描くのは主観的な色の世界
この二つを合わせてはじめて、私たちが日常で感じる色彩の全体像が見えてくるのです。


心理学と芸術に橋をかけた原理

この「境界で色が生まれる」という発想は、科学だけでなく芸術にも大きく影響しました。
画家が影の縁に色彩を強調したり、デザイナーが明暗の境界を意識した配色を行うのは、
まさにゲーテ的な感覚の実践といえるでしょう。

彼の原理は、心理学・芸術・色彩教育を結ぶ、普遍的な色彩観となっていきました。


第6章|心理学・デザイン・芸術に残るゲーテ色彩論の影響とは?


色彩心理学への先駆け

ゲーテの『色彩論』は、物理学の世界では異端視されましたが、
心理学にとっては先駆けとなる思想でした。

  • 感覚重視の色彩観は、のちのゲシュタルト心理学感覚心理学に通じる

  • 補色残像や背景依存の現象は、視覚神経の反応を説明する糸口となった

つまり、ゲーテは科学的には時代遅れに見えながら、
人間の心に寄り添う色彩学を提示していたのです。


芸術・デザインへの影響

ゲーテ色彩論は、美術教育やデザイン理論にも強い影響を残しました。

  • 19世紀の画家たちは、光と影の境界に色を生かす表現を多用

  • バウハウスなど20世紀の芸術教育では、ゲーテ色彩論が感覚的な配色理論の基礎として引用

光と影の境界に色が生まれるという考え方は、
今日でもコントラスト配色・補色活用・残像効果など、デザイン理論に応用されています。


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色彩学・視覚科学への橋渡し

現代の色彩科学は、物理学と心理学の両方を統合する方向に発展しました。

  • 物理学的な色(波長・分光データ)

  • 心理学的な色(視覚・感覚・知覚)

この二つを結ぶ学問の萌芽を作ったのが、まさにゲーテです。
ニュートンが光を分解したとき、色は物理現象になりました。
ゲーテが心に取り戻したとき、色は人間の体験としての現象になったのです。


現代に生きるゲーテ色彩論

今日のデザインや心理学でも、ゲーテの視点は生きています。
残像や補色、明暗境界で生まれる色彩効果は、
広告・映像・UI設計などあらゆる現場で利用されています。

物理だけでは説明できない「感じる色の世界」を、
ゲーテは200年前に提示していたのです。


第7章|色は光か、それとも心か──ゲーテが現代に残した色彩の問い


物理学だけでは語れない色の世界

ゲーテの『色彩論』は、物理学的にはニュートンの理論に勝てませんでした。
しかし、人間が実際に感じる色の世界を描いた点で、彼は唯一無二の存在です。

色は光と影の境界で生まれ、私たちの心の中で完成する。

この考え方は、現代の色彩心理学やデザイン理論にもつながっています。


200年前から続く心理学的まなざし

私たちは、光の波長という客観的なデータよりも、
自分の感覚で世界を色づけています。
ゲーテは200年前に、この事実を文学者の感性で科学に提示しました。

彼の視点は、のちの心理学・神経科学・芸術教育に受け継がれ、
今日でも**「色は心がつくる世界」**というメッセージを放ち続けています。


現代科学が追いついたゲーテの直感

ニュートンが語ったのは光そのものの自然現象でした。
ゲーテが語ったのは、その光を人間の目と心がどう感じるかです。

現代科学はその両方を統合し、
網膜の三色視覚、視覚神経の反応、脳内での色処理の仕組みまで解明しました。
言い換えれば、ゲーテの直感は200年後に神経科学が追認したともいえるのです。


現代の私たちへのヒント

日常の中でふと目にする夕焼けやガラス越しの光も、
物理学的には単なる波長の組み合わせです。
しかし、そこに温かさや切なさを感じるのは、私たちの心が色を完成させているから。

ゲーテの色彩論は、科学と感性の境界に立つ私たちにこう語りかけます。

世界は光だけでなく、あなたの心の中にも色づいている。


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