冠位十二階の色と紫の謎──聖徳太子が最上位に選んだ理由を歴史・文化・科学から解説

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第0章|導入──冠位十二階と色の序列


聖徳太子と冠位十二階のはじまり

西暦604年、聖徳太子が制定した「冠位十二階」は、日本で最初に色によって官位を区別した制度でした。紫・青・赤・黄・白・黒という6色を基準に、それぞれに上下を設けて十二階を構成し、役人の序列を視覚的に示したのです。色がそのまま「地位の高さ」を表す仕組みは、当時としては画期的でした。


紫が最上位に選ばれた理由

中でも注目されるのは、最上位に紫(むらさき)が置かれたことです。なぜ紫だったのでしょうか?紫は、当時の日本にとって極めて入手困難な染料(紫草の根)から得られる色であり、同時に中国や西洋でも「帝王の色」「高貴な色」として扱われていました。つまり、文化的な象徴性と科学的な希少性の両方が重なった結果、紫は格上の色として君臨したのです。


色の序列がもたらした意味

冠位十二階の色分けは単なるファッションではなく、国家を運営するための「色彩による秩序の可視化」でした。紫を頂点とする序列は、人々に一目で官人の身分を伝え、社会全体に強烈な視覚的インパクトを与えました。そしてこの「紫=格上」というイメージは、日本の歴史と文化に深く刻まれ、後の紫綬褒章や宗教・皇室の装束にも受け継がれていきます。


第1章|歴史の視点──紫が格上になったルーツ


中国における紫の位置づけ

「紫=格上」という発想は、日本独自のものではなく、もともとは中国の文化にルーツがあります。古代中国の思想体系である五行説では、青・赤・黄・白・黒の五色が正統な色とされ、紫はその中に含まれていませんでした。実際、孔子は『論語』で「紫が朱(赤)を奪うのを悪む」と語り、紫を“本来の朱を濁らせる色”として否定的に見ています。つまり最初から「高貴な色」として扱われていたわけではなかったのです。


秦・漢での変化──紫が帝王色に

ところが、時代が下り秦(紀元前3世紀)や漢の時代になると、紫は次第に「帝王色」として格上に昇格していきます。背景には二つの理由がありました。

  1. 染料の希少性:紫の色素は「貝紫(ティリアン・パープル)」や「紫草」などからしか得られず、非常に入手困難で高価だった。

  2. 象徴性の変化:赤と青の中間にある紫は「陰陽合一」「宇宙の中心」を示す色として、皇帝の権威を可視化するのにふさわしいと考えられた。

こうして紫は中国で「帝王を象徴する色」に位置づけられていったのです。


日本への伝来と冠位十二階

この思想は、遣隋使・遣唐使を通じて日本にも伝わりました。聖徳太子が冠位十二階を制定した際、最上位を紫にしたのは、中国での「紫=帝王色」の文化を受け継いだ決定に他なりません。さらに日本では、染料となる紫草(むらさき)の根が希少だったため、その価値は中国以上に高まりました。結果として、紫は「文化的象徴」と「物質的希少性」の両方で頂点に立つ色になったのです。


第2章|文化の視点──紫に宿る象徴性


紫は「陰陽合一」の色

紫は、**赤(陽・火)青(陰・水)**が交わって生まれる色です。古代の人々は、この中間色に「陰陽の調和」や「宇宙の中心」という意味を見いだしました。つまり、紫は単なる美しい色ではなく、「二つの力を統合する神秘の色」として尊ばれたのです。


日本文化における紫の象徴

日本では、**『万葉集』**の中に「紫草(むらさき)に寄せて愛する人を詠む歌」がいくつも収められています。とりわけ有名なのが、額田王が「あかねさす紫野行き標野行き…」と詠んだ歌に対して、大海人皇子(のちの天武天皇)が返した一首です。

紫草のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに我恋ひめやも

ここでの「紫」は、高貴さと美しさを兼ね備えた存在の象徴。つまり、奈良時代の人々にとっても、紫は「尊さと愛の色」だったのです。


紫綬褒章に続く現代の紫

この「紫=格上」の感覚は、現代日本にも受け継がれています。たとえば紫綬褒章は、学術・芸術・スポーツなど文化的功績を挙げた人に授与される褒章であり、まさに知と芸術の最高位を象徴する色です。
また、皇室や寺院の装束にも紫が用いられ、「精神性」「権威」「尊さ」を示す色として生き続けています。


第3章|科学の視点──紫の染料と技術


世界で最も高価だった紫の染料

古代地中海世界では、「貝紫(ティリアンパープル)」と呼ばれる染料が知られていました。これはアクキガイ科の巻貝からわずかに分泌される液を精製して作る紫色で、衣服一枚を染めるのに数万匹の貝が必要とされました。そのためローマ帝国では皇帝や上級貴族だけが着用を許され、まさに「黄金より高価な紫」と言われたのです。


日本の紫草と紫根染め

一方、古代日本で「紫」といえば、紫草(むらさきぐさ)の根から取れる「紫根染め」でした。花は白く小さな紫草ですが、地下に伸びる根には紫色素シコニンが含まれています。これを乾燥・発酵させて抽出し、布を染めると深く鮮やかな紫色が生まれました。
しかし紫草は育つ土地が限られ、染色工程も複雑だったため、平安時代には国家による栽培管理が行われるほどの希少資源でした。


紫が希少である科学的理由

紫の染料が希少だった理由は、単に植物が少ないからではありません。自然界に「純粋な紫の色素」を持つ植物は極めて少ないのです。多くの植物は赤系(アントシアニン)や青系(藍)を出せても、紫を直接出せるものはほとんどありません。そのため、紫を安定して得るには特殊な植物や複雑な発酵・媒染の技術が不可欠でした。


染料の希少性=格上の色

こうした背景から、紫は「科学的に得にくい色=社会的に貴重な色」となりました。冠位十二階で紫が最上位とされたのも、この染料の希少性と技術の高さが大きく関わっています。つまり、紫は単なる文化的な象徴ではなく、「科学と技術が裏打ちする格上の色」でもあったのです。


第4章|光学の視点──紫はなぜ特別なのか


Violet(バイオレット)と紫の違い

光学的に言うと「紫」には二種類あります。ひとつはviolet(バイオレット)で、これはスペクトルに実際に存在する短波長の色です。波長でいうと380〜450nm付近にあり、紫外線(ultra-violet)の手前に並ぶ“本物のスペクトル色”です。
一方で、私たちが普段「紫」と呼んでいるのは、英語でいう**purple(パープル)**に近い概念で、赤と青を混ぜ合わせたときに知覚される混合色。こちらは単独の波長としては存在せず、人間の目が「赤+青」を同時に受け取った結果として“紫”と感じているにすぎません。


紫が特別視された理由

つまり、「violet」は光として実在するのに対し、「purple」は人間の視覚が生み出す仮想的な色なのです。この違いを古代人が理論的に理解していたわけではありませんが、「自然界にめったにない色」「染料でも得にくい色」として体感的に“特別”だと感じていたのは間違いありません。


白と黒との対比

さらに光学的に極端な存在である**白(全反射)と黒(全吸収)**と並べて考えると、紫は人々に強烈な印象を与えました。可視光の端にある violet と、混合色として人工的に作り出す purple──この二重の特異性が、紫を「格上の色」とする土台になったのです。


第5章|色彩学の視点──冠位十二階の6色を読み解く


冠位十二階に選ばれた6色

聖徳太子の冠位十二階では、紫・青・赤・黄・白・黒の6色が用いられました。そこに上下を加えて十二階となります。この6色は偶然ではなく、古代社会が入手可能な染料の範囲+文化的象徴性+視覚的インパクトを兼ね備えた色たちでした。


現代のRGB・CMYKで表すと?

冠位十二階に用いられた6色を、現代のカラーモデル(RGBとCMYK)で置き換えると次のようになります。

  • :RGBでは赤と青を混ぜた(128,0,128)、CMYKでは(50,100,0,0)。

  • :RGBでは(0,0,255)、CMYKでは(100,100,0,0)。

  • :RGBでは(255,0,0)、CMYKでは(0,100,100,0)。

  • :RGBでは(255,255,0)、CMYKでは(0,0,100,0)。

  • :RGBでは全て最大値の(255,255,255)、CMYKでは(0,0,0,0)。

  • :RGBでは全てゼロの(0,0,0)、CMYKでは(0,0,0,100)。

こうして数値化すると、冠位十二階の6色は現代の色彩学の考え方ともリンクしていることが見えてきます。
赤・青・黄は「色相の基本色」、白と黒は「光の極端」、そして紫は「赤と青を掛け合わせた特別な色」。
古代の制度で選ばれた色が、今のカラーモデルで見ても「色彩体系の基礎+象徴色」というバランスになっているのはとても興味深いことです。


紫が最上位に置かれた理由

赤や青、黄といった色は、自然界や染料から比較的手に入りやすいものでした。ところが紫は染料の入手が非常に困難で、古代の日本では紫草の根からしか得られず、国家が管理するほどの貴重品でした。

さらに光学的に見ても、紫は特別な位置を占めています。**violet(スペクトルに実在する色)**と、**purple(赤と青を混ぜたときに人の目が知覚する色)**という二重の側面を持つからです。つまり、自然界にありながら、私たちの感覚が生み出す“仮想の色”でもあるのです。

このように「染料としての希少性」と「光学的な不思議さ」が重なった結果、紫は単なる色ではなく、他のすべてを超える象徴的な存在として冠位十二階の最上位に選ばれたのです。


第6章|宝石の紫──アメシストと権威


紫の宝石の代表格・アメシスト

紫といえば宝石の世界で真っ先に挙げられるのがアメシスト(amethyst)です。水晶(クォーツ)の一種で、鉄イオンと自然界の放射線の作用によって紫に発色します。古代ギリシャでは「酒に酔わない石」と信じられ、ローマ帝国では王侯貴族の装飾品に用いられました。中世ヨーロッパでは司教の指輪に定番とされ、宗教的権威を象徴する宝石でした。


日本と世界における紫の鉱石

アメシスト以外にも、紫色を示す鉱石は存在します。たとえば日本で発見された**スギライト(Sugilite)は、美しい紫色を持つ希少鉱石で、精神性や癒しを象徴する石として注目されています。さらにフローライト(蛍石)**には紫の変種があり、透明感のある結晶が神秘的な輝きを放ちます。


宝石の紫も身分制限?

西洋の歴史を見ると、アメシストは王族や聖職者の専用石として扱われ、庶民が自由に身につけることは社会的に“分不相応”とされることもありました。つまり、染料と同じように「紫の宝石」もまた格上の人だけに許される色だったのです。日本では明確な禁止は見られませんが、それでも紫が高貴な色であるという認識は共有されていました。


染料と宝石、二重の「紫の権威」

紫は染料としても宝石としても入手困難で希少でした。衣服を染める紫と、身につける紫の宝石。両方が「格上の色」であったことが、紫=高貴・尊厳の象徴という文化を世界的に補強したのです。


第7章|現代に残る「紫の格上」


紫綬褒章に受け継がれる伝統

現代日本で「紫が格上」という感覚を最もはっきり示しているのが、**紫綬褒章(しじゅほうしょう)**です。これは学術・芸術・スポーツなど文化的な分野で功績を挙げた人に授与される褒章で、まさに知性や創造性を象徴する“文化の最高位の色”といえます。冠位十二階以来の「紫=高貴・尊い」という意識が、21世紀の日本社会にまで連なっているのです。


皇室・宗教における紫

また、皇室の装束や僧侶の法衣など、権威や精神性を体現する場面でも紫は使われ続けています。紫の袈裟や法衣は高位の僧にのみ許される色であり、精神世界における尊厳を示す象徴です。紫は単なる色ではなく、「目に見える序列」を表すための色彩文化の記憶として残っているのです。


現代社会の紫

紫の“格上”イメージは、表彰や宗教だけでなく、現代社会のさまざまな場面に生きています。企業や学校での制服・ネクタイに「紫」を取り入れることで、高級感・品格・信頼といったイメージを付与する事例もあります。つまり「紫=格上」は、歴史の中だけでなく、今も私たちの生活に根づいているのです。


第8章|まとめ──紫が最上位になった理由


紫は「偶然」ではなく必然の格上

聖徳太子の冠位十二階で紫が最上位に置かれたのは、単なる偶然ではありません。そこには古代から積み重ねられた文化・科学・光学の背景がありました。中国での帝王色としての伝統日本での紫草(むらさき)の希少性、そして光学的に特異な色であること──そのすべてが「紫=格上」を後押ししたのです。


紫を支えた四つの要素

  1. 歴史の流れ:中国から伝来した「紫=帝王色」の思想。

  2. 文化の象徴:万葉集や紫綬褒章に見られるように、紫は美と尊厳の象徴。

  3. 科学的希少性:紫草や貝紫など、入手困難な染料に裏打ちされた価値。

  4. 光学的特異性:violet(スペクトル色)とpurple(混合色)の二重性による神秘性。


今も息づく「紫=格上」の感覚

紫は古代から現代まで、一貫して「高貴」「権威」「尊厳」を象徴する色であり続けています。冠位十二階はその象徴を制度に組み込み、日本人の色彩感覚に深く刻みつけました。紫綬褒章、皇室や僧侶の装束、宝石のアメシスト──あらゆる場面に「紫=特別な色」という文化の記憶が残っています。


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